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城南事件帳 2

「なにか、本をお探しですか?」

 あるじは、度の厚そうなレンズのついたべっ甲フレームの眼鏡をかけながら、首をのけぞるようにしながら、客のほうをにらみつけるかたちとなった。べつに、本人にはそういう他意はない。ただ、遠近共用だから、おのずと下の方のレンズで見ないとよく確認できないのだ。よって、険悪な雰囲気を作り出してしまうこともままある。また、そうした眼鏡なしではやっていけない環境だからゆえか、どうやら、先日の、ぼうや刑事が目の前にいることに気づいていないらしかった。

「あの、こちらは、どういうご商売をなさっているんですか?」

 羽生は、先日の事件解決のこともあり、この際、はっきり知っておこうと思った。先輩刑事から、出汁に使われて、一件落着となったはいいが、やっぱりその背景がわからないと不安だ。だから、署に戻る前に、念のため、立ち寄ったのだ。

 すると、あるじは、一気に態度を硬化させた。なんだか怪しいやつがきたなと、不信感がありありで、先ほどの一瞥が、今度は市川団十郎もびっくりの、本物のにらみに変わった。「お客さん、うちは見ての通りの、古本屋ですよ。一冊50円、100円程度の古本を江戸の終わり、明治ごろから商いして、この街でほそぼそ生きてます。もし、御用がなければ、お引き取り願えますか」きっぱりそう言うと、おやじはすっくと立ち上がって、右手を前に伸ばして、「どうぞ」とばかり、珍客を退場へと促そうしたから、

「こりゃ、大変失礼いたしました。お忘れですか、ご主人。私、先日、先輩である梅宮刑事と一緒にこちらにご挨拶させていただいたときの、警視庁大崎署刑事課刑事羽生大也と申します」前回の、自分のことを覚えていないんだなと察知した羽生は、あたふたしながら、名刺を差し出した。

 あるじも、単なる失礼な客でないことを目の前の名刺と、恐縮した態度とで見て取ったのか、やっと、思い出したようだ。

「あぁ~あぁ~あぁ、あの時の、ぼうや刑事、あっ、失礼、ぼう刑事、こりゃまた失礼、えぇ~、羽生さん、羽生刑事でいらっしゃいましたか。ははあ、それはそれは、その節はどうも。たいへん、お疲れ様でございましたね。よかったですね、事件解決に。私もご協力できてなによりです」

「ええ、そうなんです。で、今日は、梅宮からちょっと聞いたんですが、そのことをもっと詳しく、と思いまして。沿革をお教え願えないか、と」腰をかがめてお願いした。

 すると、さすがに、古本屋のあるじも、大崎署の若手刑事からここまで請われるとは思わなかったようで、いささかプライドをくすぐった模様。

「こんなちっぽけな古本屋に沿革もなにもあったものではありませんが、せっかく、天下の大崎署の刑事さんがそこまでおっしゃるのなら」と、ちょっとお待ちください、との声を残して、奥へ引っ込んだ。


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