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城南事件帳 2

 背の低い引き出しがベットのわきにある。

「ここはなんでしょうかねえ」と独りごちる中年刑事に対し、

「娘の下着が主に入っています」

「あっ、ならば、ちょっと拝見」言うが早いか一番上の引き出しを引っ張り出すと、まあ、それはそれは、カラフルな下着が。

「う~ん」急に難しい顔をして、眉間に皺を寄せたと思ったら、「なんか、事件の手がかりがありそうな気がしますねえ」刑事としてのガイガーカウンターの数値が、がんがん上昇していた。母親もさすがに、刑事さんが変態的なことをしでかすとも思っていないから、そのまま任せた。

 すると、梅宮は、ふところから白手袋を取り出して両手にはめて、ブツのチェックをしはじめた。べつに、ここが事件現場ではないのだから、手袋をする意味なんかないんじゃないの、と行動の過敏さに首をかしげたくもなるのだが、これが、中年刑事の家族への忖度というものなのだろう。残念ながら、すでに亡くなってしまった嫁入り前の娘へとその家族への。


 すべての下着類を全部ベットの上に移動させると、最後に残ったのは、なぜか、日の丸と、赤いカエデ模様の、2つの小旗だった。なんだこれ。

「娘さん、どこか、海外旅行でも・・するわけないか。こんな小旗は、お子様ランチの上に乗っているのよりは、ちょっと大きすぎるしね」

 すると、間髪を入れず、母親が、

「娘は海外に旅行したことはまだありません。行きたい行きたいとは言ってたんですが、私も夫も、娘一人で海外に出すのはとても不安で」

「娘さんのこの小旗、ご存じ?」

「いえ、初めてです。なんでしょうね」

「カナダに興味がおありだったとか」

「とくに、カナダというわけでは。英語に対しての興味でしたから、アメリカイギリスなど英語圏についてですよね。強いて言えば、そうなりますけど」

 念のため、デジカメで小旗の2つの写真を撮っておいた。

「仕事柄、なにか、変わったこととか、パワハラセクハラの類とか聞いてますか、お嬢さんから?」

「いいえ、なにも。仕事はうまくいっていると。人間関係も問題ないと。楽しいって」



 大手ゼネコン朝日建設は中央区京橋の昭和通り沿いの角にあった。

「いやあ、彼女、よくやってくれてましたよ。仕事を。テキパキとね」

 そう答えるのは、ホトケの上司だった秋山啓介課長だった。かつては色男だったのだろうが、もう四十に手が届くかすでに越えたころだろうか、寄る年波ともいえるし毎日の私生活の不摂生がたたったともいえるのか、首やお腹まわりにお肉がついて、トドに近い体系になっていた。会議室に通されて、面と向かって話を聞いていると、なんとも暑っ苦しい。梅宮も人のことを言えないデブった体だから、デブ2人で東京都中央卸売市場(JR品川駅の海側)でも訪れたら、たちどころにミンチにでもされて、高い値段で取引されそうだ。

「美人だけど、愛嬌あって、みんなの人気者でしたよ」

「ということは、仕事の上で、トラブルなんてことはなかった?」

「ええ、まったく。うちは、大手ですからねえ。小さいとこならいざ知らず、相手も大企業さんやお役所もお役所、お国相手になりますから、へんな、それこそ、チンピラとは無関係ですよ、ハハハ」

 なにが、ハハハ、だ。ついこの間だって、ニュースに出てたじゃないか。高層ビル建設にあたり、なん十か所、なん百か所って、鉄骨やコンクリートの精度不良が見つかったとか、鉄道のトンネル工事で、検査をちゃんと行ったかのようにウソの報告していたって、マスコミにやり玉にあげられたばかりじゃないか。まったく、いい加減なことばかり、土建屋たちはほざきやがって。事件そのものにはまったく関係のないところで、むかっ腹が立った梅宮は、昭和通りに出ると、一杯やりたい気分だった。が、まだ、お日様が高い。もう少し、犯人逮捕に道筋はあるんじゃないか、もうひと踏ん張りしようと、気合を掛けた。よしっ、やるぞっ!



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