城南事件帳 2
羽生も相当ショックだっただろう。一月ほどの間、毎朝すれ違っていて、最近、やっとこっちに反応をしめし始めた矢先に、まさか、レンタルルームで死体となって発見されたのだから。
「まあ、残念なことをしたね・・」なぐさめの言葉をかけると、
「いえ、あくまで、仕事ですから。私情は挟まないことに決めているんですーー」と言い終わるか終わらないかのうちに、羽生は右腕を目に当てて、捜査員でごった返すなかでもはばからず、大声で泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ~っ! なんで死んだんだぁぁぁ~ なんで、殺されなきゃならないんだぁああぁ どうせ死ぬなら、一発やらしてくれたってよさそうなもんじゃないかあぁああああ」
男なら気持ちはわかるが、あまり人聞きのいい内容ではない。これじゃ、仕事にならない、と判断した梅宮は、羽生の肩に手を回して、表へ出た。「いいよ、キミは。この捜査から、外れなさい。それか、一呼吸置くか。とにかく、今日はいい。署に戻って、雑務でもやっててくれ」
先輩としての、せめてもの気遣いだった。
梅宮は現場に戻り、捜査員に状況を聞くと、どうやら、この女性は初めてのお客であり、なおかつ、当然のごとく連れの男がいたことが、監視カメラで判明したという。ただ、男は黒のキャップにマスク、よれよれの赤のフランネルのシャツに下は黄土色のチノパンに、スニーカー。背は、女性の背丈と並んでほとんど変わらないことから、165センチ前後ではないかと推測された。
所持品にはハンドバックひとつだけ。化粧品など女性特有のもの以外には、ケータイと、英字新聞が。現在ケータイは解析中でもう少しで結果が出るはず。英字新聞に関しては、英語でも勉強しているのだろうか、と梅宮は特に疑問には思わなかった。