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城南事件帳 2

 いまいち、殺し文句として、英字紙のライターが通用しないなあ、と心の内でしっくりこないなか、逆に、「ライターのお仕事をされているんですか?」と真顔で突っ込んできたもんだから、元来、正直者の性格が売りの羽生刑事は、ちょっとどぎまぎして、「いや、本業というわけじゃあ、ないんですけど・・」と吐露してしまった。普段、こいつは怪しいと思ったヤツに対しては、しっかり目を見て尋問しているはずの刑事が、ちょっと美人でスタイルのいい女から逆に質問された程度であたふたしたものだから、そりゃあ、少しは興味を持ったかもしれない女だって、なんだあ、と見透かしたに違いない。すると、今度はどうしたわけか、積極的に自己アピールをし始めた。

「私、『ミス・やまとなでしこっ!』に選出されたんです」

 えっ、なんだそれ、聞いたことあるぞ。子供のころ。テレビでやってなかったか? 宝田明あたりの司会で。まてよ、あれは、ミス日本かも。『ミス・やまとなでしこっ!』ってのも、あったっけな。などと、思いめぐらせていると、

「ご褒美として、東南アジア旅行がついてきて。生まれて初めての海外旅行だったんです。海が真っ青で、空も雲一つなくて、ほんと南国ってかんじで。それと、映画にも出たことあるんです。ちょい役、ともいえない、映っただけですけど。ファッションショーのランウェイを歩いている姿をそのまま映像に使ってもらって・・」

 マクドナルドでたまたま話しかけたにすぎない女性は、一人気分がよくなったらしく、ぺらぺらと自慢話を続けた。羽生が仕方なく合いの手を入れたりなんかしていると、余計に饒舌になってぺらぺらぺらぺらとやりだした。見た目は髪が長くて、顔のパーツもそれなりに主張していたから、メイクをしたらそれはそれは映えるんだろうなあ、くらいは男の羽生も想像できた。が、こうも、自分勝手におしゃべりを続けられてしまうと、当然ながら興ざめしてくる。それが、食べ物はどうだった、お土産はどうだった、と自慢話ばかりで、その土地の歴史的背景・政治経済状況などの情報がまったく出てこない。なんだ、この女性、ただの顔だけの人なのね、と羽生はちょっと冷静になりつつあった。そんな態度が伝わったのか、話すネタを一通り吐き出してしまったのか、しばし女の話はストップした。

 羽生も、話を聞くのに夢中、というか、目の前に美人がいるから、食べ物ものどを通らないほど緊張していたのだが、やっと落ち着いてハンバーガーにパクつく時間がやってきた。すると、女は、食事を終え、ウーバーイーツの仕事再開ということで、席を立ち、羽生に目もくれずに、階段を下りて行ってしまったのだ。

 いったい、なんだったんだろう。いまの会話の時間は。オレはなんのために、自称モデルに声を掛けたのか。掛けたはいいが、先方もいい話し相手が見つかった、ストレス解消に持って来いだ、と酌んだのだろう。人畜無害な穏やかな顔、おおよそ、ヤクザなど極悪犯に対峙する刑事とは想像もつかなかったのだろう。自分のいいたいことだけいって、そそくさとマクドナルドを後にしてしまった。


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