中編
「大事な話があるんだ。放課後、校舎裏のケヤキのところまで来てくれないかな?」
僕の真剣な口調から、水瀬さんも何か察したのだろうか。いつになく真面目な顔で彼女が黙って頷いたのは、今日の昼休みの出来事だった。
それから午後の授業の間、僕はドキドキしながら過ごして……。
授業が全て終わった途端、急いで教室を出ていく水瀬さんが視界に入った。先に行って、僕を待っていてくれるようだ。
でも、あまり女性を待たせるのは失礼な気がする。だから僕も、気持ちを落ち着けるために一つ大きく深呼吸してから、彼女を追うようにして約束の場所へ向かうのだった。
校舎をぐるりと回って裏庭に足を踏み入れると、問題のケヤキの木が見えてくる。その幹にもたれかかる格好で、セーラー服の人影が一つ。
しかし……。
「あれ?」
戸惑いの声が、自然に口から漏れてしまう。
僕を待っていたのは水瀬さんではなく、その親友の澤田さんだったのだ。
「待ってたよ、唐川くん」
「いや、あの……」
今から僕は、ここで水瀬さんに告白するのだ。いくら水瀬さんの親友とはいえ、状況的に澤田さんは邪魔者でしかなかった。
「悪いんだけど、澤田さん、場所を変えてくれないかな? 僕は水瀬さんに用事があって……」
「うん、知ってる。だから私が来たの」
「えっ?」
驚く僕に対して、澤田さんは、かしこまった表情で告げる。
「良いニュースと悪いニュースがあります。唐川くん、どっちから聞きたい?」