妹が声優デビューした恋愛ゲームのヒロインに恋をしました。え?何か後ろから中の人(妹)がめっちゃ睨んでくるんだけど。
『ねえ、お兄ちゃん。キスしよ?』
俺の目の前、およそ50センチ離れたところで美少女が笑っていた。
見た者は例外なく虜になる。そんな小悪魔めいた笑顔。
その子の黒髪はシャンプーのCMにだって出れそうなほど艷やかで、大きめの瞳は吸い込まれそうになるほど美しい。
そんな女の子がキスを所望してきたのだ。男として応えないわけにはいかないだろう。
俺はその子の潤んだ唇に、自身のそれを近付ける。
そして――、
「ねえ、本気で気持ち悪いんだけど」
俺が顔を寄せたPCのモニターとは真逆の方から声がかかる。
モニターの中で喋っていた子と同じ声だ。
振り返ると、そこにはジトッとした目を向けてくるリアルな方の妹がいた。
「うるさいなぁ。良いところなんだから邪魔しないでくれよ」
「実の妹の前で妹系の恋愛ゲームやる兄ってどうなのさ」
「いや、漫画読ませろって部屋に上がり込んできてたのはそっち――」
「あ?」
「なんでも無いです、スイマセン」
妹はあいも変わらず軽蔑した目を向けてくる。
まったく、顔は可愛いというのにそんなふくれっ面してたら台無しだぞ。
『私、この日をずっと待ってたんだよ。お兄ちゃんに想いを告げられる、この日をずっと……』
オート再生にしていた画面の向こうからはそんな声が続いている。
この子みたいにもっと愛想よくできないものだろうか。
「ハァ……。そんなことじゃいつまでたっても彼女できないわよ、バカ兄貴」
「フフフ。悪いな妹よ。彼女ならもういるさ」
「……え? ウソ、でしょ?」
「何だよ、そんなに意外そうな顔して」
「いや、意外っていうか……」
妹が顔を伏せる。
効果てきめんだ。どうやら、いつも馬鹿にしている兄に彼女ができたと知って本気で悔しがっているらしい。
「嘘……。そんな、ことって……」
「……」
いや、悔しがりすぎだろ。
こっちは単なる嫌がらせで言っただけなんだ。
何だか申し訳ない気分になってくる。
「あ、兄貴の彼女ってどんな人なの?」
「彼女? ああ、この子」
俺はPCのモニターを指差す。
『やっと、やっとお兄ちゃんの彼女になれたぁ……。エヘヘ』
「……」
「……」
「このバカ兄貴! ふざけんな!」
「のわっ! やめろ、本を投げるな! ――ぶへっ!」
「やった、思い知ったか!」
鼻っ柱に漫画本が直撃したのがそんなに嬉しかったのか、妹は思いっきり笑っていた。
***
「しっかし、兄貴がこのゲームそんなに好きだなんてね」
「そりゃそうだろ。何せ妹が声優デビューした作品だ。兄として応援しないわけにはいかん」
「で、やってみたら本気で惚れた、と」
「はい、そうです」
『お兄ちゃん、明日はデートしよ?』
モニターの中で相変わらず喋っている声は、妹のそれと全く同じだ。
それもそのはず。今モニターで喋っている女の子の「中の人」は、今俺のベットであぐらをかいている妹本人なのだから。
「ふん。別に兄貴に応援されなくたって大丈夫なんだから」
「……そうなのか?」
「そうだよ。実際に制作した人たちもベタ褒めだったしね」
「マジか」
「ホントよ。演技してる感じがしないって評判なんだか――、ってそんなことどうでもいいでしょ!」
何が癇に障ったのか、妹はまたも本を投げつけてきた。
「ちょっ、おま――、何でだぁ!」
「知るか、バカ兄貴!」
さっきのは俺が悪かったかもしれんが、今度のは本当に分からん。
俺、何か地雷踏んだっけ?
『もう。お兄ちゃんってば、鈍感なんだから♪』
「だぁあああ! もうそれ切らんかい!」
モニターから声がして、妹の怒りは更にヒートアップする。
分からん。
女心は実に複雑である。
迫りくる漫画本を避けながら、俺はそんなことを思ったのだった。
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