表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/56

第五話 合屋


泰史(やすふみ)!」


「はっ」


泰章(やすあき)に、市花。新見。城井を呼びに行かせろ。泰史(やすふみ)は、寒川を迎えにいけ。寒川の望みを聞き出してから戻ってこい」


「かしこまりました」


 夕花が会議室のロックを解除する。

 泰章(やすあき)は、頭を下げて部屋から出ていった。


「晴海さん。なんだから嬉しそうですね」


「そうか?」


「はい。僕、少しだけ嫉妬してしまいそうです」


 晴海は、夕花の頭をくしゃくしゃと撫で回した。


「夕花、もうすぐだ。俺の問題と夕花を狙っている奴らが繋がるかも知れない」


「え?晴海さん?」


「もうすぐはっきりとするから、はっきりしたら・・・。いや、今晩・・・。説明するよ。そして、二人で考えよう」


「はい。でも、晴海さん。忠義さんや礼登さんや泰史さんと話をしなくて、よろしいのですか?」


 夕花は、ひとまず納得した。

 はっきりしたらと言いながら、”今晩”説明すると言っているので、もうある程度は目処が付いているのだろう。


「大丈夫。彼らは、彼らの目的がある。夏菜と秋菜も同じだ。彼らの目的を実現するためには、僕が必要になる。だから、彼らは僕の為に動く」


「はい」


「僕のワガママだけど、夕花の問題は、僕と夕花で解決したい。解決方法が考えつかなかったり、難しくなったりしたら逃げてもいい。その時に、彼らを頼ってもいい」


「わかりました。僕の問題は、僕が死ねばいいと思っていたけど、違うのですね」


「うん。それも合わせて説明するよ。その辺りがまだ曖昧な状況だ」


「わかりました。晴海さん。二つだけ、知っていたら、判明していたら教えて下さい」


「なに?」


 夕花は、晴海の顔を覗き込むように見つめる。

 泣きそうな顔は、何かを知りたいけど、知るのが怖いという思いなのだ。

 現実となった時に、自分がどう反応して良いのか解らないのだ。感情が整理されていないが、今晩の説明を受ける前に知っておきたいのだ。


「一つは、母の旦那だった人と私の前に母から産まれた男は、死んだのですか?」


「死んだ。遺体は確認出来なかったが、確実な情報だ」


 死んでいると思ったが確認しておきたかった。


「そうですか・・・。もう一つは、私の母を殺したのは・・・。私の前に産まれた男ですか?」


「違う。組織の人間だ」


 心のどこかで想像をして、想像した度に打ち消していた。


「・・・。よかった・・・」


「夕花の母親を殺したのは、俺の家族を殺して、俺を殺そうとした。今も、別の人間を使って俺を殺そうとしている」


「え?それは、僕が居るから?」


「それは偶然で、先方も困惑しているようだ」


 晴海は、神妙な顔から、悪巧みが成功した子供のような顔になる。


「晴海さん?」


「ん?もう、今日のクライマックスが楽しみになってきた」


「そうですか?」


「夕花も、話を聞いて、驚いていいからね」


「不安な気持ちになりましたが、わかりました」


「うん。夏菜と秋菜が夕花を守るから安心して」


「はい?」


「彼女たちからの願いの一つだよ。これは、教えてもいいから、夕花に教えるね」


「はい」


「夏菜と秋菜は、特に、夏菜は、冬菜の死に責任を感じている。本来なら、あの日、あの夜の集まりには、夏菜が出るはずだった。でも、朝に倒れてしまった僕の病院に付き合ったのが、夏菜で、夏菜の代わりに集まりに出たのが冬菜だった。順番では、秋菜になるはずだったけど、秋菜は別口で用事があって集まりに出られなかった。そして、集まりで事件が起こった」


「・・・」


「夏菜と秋菜は、夕花に冬菜を重ねている。冬菜は、夕花と同い年で、夕花の髪の毛と同じ髪色だ」


「そうなのですか・・・。お姉ちゃんたちなのですね?」


「ハハハ。そうだな。夕花が”お姉ちゃん”と呼んだら喜ぶぞ?」


「僕も、男の親族は居たけど、お姉ちゃんが居なくて、欲しかったから、夏菜さんと秋菜さんが怒らなければ、”お姉ちゃん”と呼びたいです」


「会議とかでなければ、許してくれると思うぞ?」


「はい!」


 扉がノックされた。

 最初に、礼登が入って、忠義と夏菜と秋菜が続いた。


 泰章(やすあき)が扉を押さえて、市花、新見、城井と入ってきた。


 先程まで座っていた席に座った。

 夏菜と秋菜は、夕花の後ろに立つ。忠義は晴海の隣に座る。礼登は、クルーザーの状態を確認すると言って会議室から出た。


「お館様?」


 泰章(やすあき)は不安が混じった声で晴海に問いかける。


 晴海は手で泰章(やすあき)を制した。


「晴海さん?」


「そうだな。泰史(やすふみ)から話を聞いた、理由もしっかりと聞いた、確かに六条の本邸の近くに居たと認めた。しかし、その後の行動と理由もしっかりと説明出来た。証拠も提示出来た。よって、合屋は無関係だと”私”が判断した。泰史(やすふみ)の話は忘れる」


 晴海の言葉で喜びの表情を浮かべる二つの家。明らかに失望した表情を浮かべたのが二人。些細な表情の変化だったが、晴海も忠義も見逃さなかった。


「お館様。それでは、合屋家の次期当主はどこに居るのですか?」


直道(なおみち)は、私が無関係だと言った、泰史(やすふみ)が気になるのか?」


「いえ、お館様のご判断を疑うわけではありません。しかし、この場に居ないのは・・・」


 ドアがノックされた。夏菜がドアを開けた。

 泰史(やすふみ)九法(くのり)幸田(こうた)が部屋に入ってきた。


泰史(やすふみ)


「はい。お館様。寒川家は、幸田(こうた)殿が次期当主となると決めたようです」


「そうか、わかった。幸田(こうた)。いや、文孝(ふみたか)泰史(やすふみ)の言は間違いないか?」


「はい。義父の文武(ふみたけ)より、文孝(ふみたか)の名前と寒川を頼むと言われました。お館様。お許しを頂けますか?」


「お前の望みは?」


「妻舞美(まみ)と産まれてくる子供の安泰です」


「わかった。文孝(ふみたか)を寒川家の次期当主と認める。能見!」


「はっ」


「手続きを頼む。後見人は、泰史(やすふみ)。お前がやれ。私と夕花に手間を取らせた罰だ」


 異議など出るはずがない。六家では、六条家の当主が決めた事が絶対なのだ。


「お館様!それでは、合屋家が大きくなりすぎます!それに、寒川家なら、我が城井家か新見家の方がうまく処理することが出来ます」


直道(なおみち)!私が決めた事が不服か?」


「いえ、そうでは・・・。しかし、それでは・・・」


泰章(やすあき)直道(なおみち)は、不服らしいぞ?お前は、私に何を捧げる?」


 泰章(やすあき)に視線が集まる。

 晴海は、泰章(やすあき)の考えを忠義経由で聞いている。カードの切り時だ。晴海は、勝負に出ている。市花は、絶対にヤブを突かない。自分の家が守られればいいのだ。新見も基本は同じだ。権益を欲しては居ない。


「お館様。いえ、晴海様。私は、先代様と一緒に・・・。今は、晴海様のお考えになっている状況を良くする話をします」


「頼む」


泰史(やすふみ)を合屋家の次期当主から外します。そして、私泰章(やすあき)が生きている間に、合屋家を解体したいと思います。合屋家の持っている物は、六条家にお返しいたします。本来なら、晴海様ではなく先代様にお返ししたかった・・・。です」


 皆が固まる。


「続けろ」


「はっ。晴海様。お願いがあります」


「なんだ、言ってみろ!」


「はい。私・・・。泰章(やすあき)が死んだ時に、先代様のお隣で眠る許可をください。それまで、先代様の墓守をさせてください」


 テーブルに頭を打ち付ける勢いで下げた。握られた手からは血が滴り落ちている。


「それが、お前の願いであり、けじめのとり方なのだな」


「はっ」


「私は、先代様と約束しました。先代様を守り通すと・・・。その為に、合屋の力を使いました。しかし・・・」


「わかった。泰章(やすあき)の好きにしろ。合屋家が預かっている(権利)や人は六条で預かる。泰史(やすふみ)!」


「はっ」


「寒川の整理が出来たら、お前も自由にしていい。今までの忠義。たしかに受け取った」


「ありがたきお言葉。できましたら、私の身体。命を、お館様に捧げます。お受取りください」


「わかった。まずは、寒川をしっかり立て直せ。話は、それからだ!」


「はっ!」


 泰史(やすふみ)の言葉に隠れて、一人の男性がした舌打ちを晴海は聞き逃さなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ