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第五話 BL営業

 ブロンク城内、王族しか着席の許されない食堂『大餐(だいさん)の間』。


 その中央、長いテーブルの上座に国王ハーク1世、

 

 両脇に、

 第一王子レイ、

 第二王子ピート

 第三王子ジェイスが座っている。


 そしてハーク王の傍らでは、宰相(さいしょう)ラッセルがニヤニヤしている。


 夜。


 完全秘密の会議である。


 「じゃラッセル、説明してあげて?」


 間延びしたような、聞いただけで気が抜けそうになるような声でハーク王は言った。

 宰相ラッセルは「はっ」とか言って、王子三人に向けて説明を始めた。


 「単刀直入に申し上げますが、今回のプリンスフェス。レイ王子、ジェイス王子のお二人には……イチャイチャして頂きたいのでござります」

 

 第一王子レイは「え?」と言い、第二王子ピートは「は?」と言い、第三王子ジェイスは「ん?」と言った。


 「王子様お三方におかれましては、ただ今のバズり、つまり人気の源はどこにあるとお考えでしょうか? 容姿? 言動? いえいえ、そうではござりません――」


 ニヤニヤしていた口元をさらに、ニヤァ~、とさせてラッセルは、


 「カップリングにござります……!」


 と言った。


「カップリング……?」


 第一王子レイは訝しげに眉をひそめ、第二王子ピートが「カップリングって何?」と素朴丸出し、みたいな顔で尋ねた。


 「カップリングというのは即ち、恋人同士、または恋人同士のように見える、という人物二人を一つの組として捉える事でござります」


 まったく何言ってんのか分かんない、という空気が座に充満した。


 「まったく何言ってんのか分かんない、というお顔をされておいででござりますね。王子様方が人気を得た理由に、その、カップリングというものがござります。世の女性たちは、王子様同士が恋仲にあったらいいな、いや、あるんじゃね? いやあるでしょこれは、という妄想をする事で恋愛物語を見ているような錯覚に陥り、そのカタルシスによって快感を得る、といった楽しみ方をしているのでござります」


 そこまで聞いても王子たちには理解する事が難しかった。

 

 「あーラッセル。それはいいんじゃない? その辺は。いきなし言われても分かんないっしょ」

 

 ハーク王が(なだ)めるように言うと、「そうでござりますね」とラッセルは(うなず)いた。


 「とにかくその、カップリングというものの内で、レイ第一王子とジェイス第三王子の組み合わせがめちゃくちゃ人気なのでござります。が故に、お二人にはお互い恋心を抱いているかのように振る舞って頂きたいのでござります」


 もしここに二人のカップリングファンがいたら髪の毛を振り乱し、発狂したであろう。


 何せ、“本人にカップリングを実行させる”というのは、絶対にやってはならない禁忌だからである。


 しかし、ラッセルにとってそんな事はどうでも良かった。

 

 内外へ大きくアピールする絶好の機会である今回のイベント。

 取れる人気は取っておきたいという算段の下では、王子たちの気持ちなど汲む必要はなかった。


 「ラッセルがね、それやった方がいいって」


 ハーク王はぼんやりした目で言った。

 

 親政、つまり表向きは王様が政治を行っているブロンク王国ではあるが、実質は宰相であるラッセルが多くを取り仕切っている。

 

 ぼんやりした王様と、悪どい宰相。

 そんな国がいずれどうなるのか。

 どこの世界でもよくある話である。


 まあそれはいいとして、BL営業を強いられそうになって焦ったのは第一王子のレイだった。


 「待って! 俺、嫌なんだけど!」


 ラッセルにとっては、想定内の反応である。


 「なんでそんな事しなきゃいけないの!? 普通でいいじゃん! 普通にライブやらせてよ!!」


 立ち上がってまで慌てているレイをどう説得してやろうかとラッセルが考え始めた矢先、第三王子のジェイスが口を挟んだ。


 「レイ君、やなの?」


 「やだよ! 当たり前だろ、お前とそんな…お前だって嫌だろ!」


 「ん~? 僕は別に~?w」


 「い゛っ!?」レイは目を丸くし、肩をすくませた。


 「あははは! レイ君困らせるの、ほんと面白い! はははは!」


 そう笑ったかと思うとジェイスは、すっ、と真顔になって、


 「――僕は、平気だよ」


 と言って、怪しい目をした。


 レイは「おま……」と何か言い掛けたが、その目を見つめる内に力をなくし、一瞬、ぷるぷるっと震えてから、すとん、と椅子に落ちた。


 ジェイスには逆らえない、それが何故かは不明だが、レイはジェイスに逆らえない。

 そんな関係性が見て取れるやり取りであった。


 ラッセルとハーク王は顔を見合わせた。

 ラッセルは「これ、素質ありますわ」的な目配せをした。

 王は、ぼーっと上の空、みたいな顔をしながら、こく、と小さく頷いた。


 「ねえ、ラッセル」


 「はい、ジェイス王子」


 「そのさあ、イチャイチャするってやつぅ……」


 「はい」


 女振(おんなぶ)りの生々しい肌をした第三王子ジェイス。

 まつげの長いその瞳に見つめられれば、通常の男性にあってもおかしな気分に当てられるような物凄さがある。


 ジェイスはラッセルをじっと見ながら、


 「まかせてよ」


 と言った。


 その言葉を聞いてラッセルは、今日いち、ニヤァ~っとした。


 第二王子のピートは(え? 俺は?)と思ったがすぐに、(いや、いいか別に)と思い直した。


 こうして、ブロンク王国の秘密会議は終わった。


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