第三話 ライブのチケット
【魔力果】というエネルギーがあって、これが様々な魔道具を動かしている。
それがこの世界。
ディラが存在し、かつ生活している世界。
そんな世界に生きるディラは今、クリンブル国城内の通信室にいる。
そして室内に設置されている【モーマット】の前に立った。
【モーマット】というのは、ATMぐらいなサイズの台に半球の地球儀がはめ込まれている魔道具で、これによって離れた距離にいる人と会話する事が出来る。
地球儀をコロコロ回して任意の国をタップ、さらに詳細なアドレスを入力すると、相手の受信機、魔道具の【ストーン】に通知が行く。
通知を受けた方は許可/拒否を選択、許可をしたら【モーマット】を使用して通話する。
これらは【魔力果】によって作動する。
という通信手段ではあるけど、通知を受けた方がいちいち【モーマット】のあるとこまで行かなきゃならないので、全然通話出来ないという事がめっちゃある。
その場で通話出来るような魔道具が出来ればいいのに。
そんな人々の願いが叶うかどうかは別として、ディラは【モーマット】を操作して指定のアドレスを入力した。
すると、割と時間を置かずに、ディラの前にバストアップの男性の立体映像が現れた。
男性は兵士然とした服を着た、シュッとしたお兄さん、って感じである。
バストアップの半身男性は、
「おう、お疲れ。どうした?」
と言った。
「お疲れ様です、すいませんクラプトさん、今大丈夫ですか?」
「大丈夫だから出たんだけど」
「ああ、はい。あ、いやちょっとお願いがあるんですけど」
「うん」
「あの、ちょっと申し訳ないんですけど……」
「あ、ちょっと待ってごめん」
と断るとクラプトは横を向き、「あ、メルネスの書はそこでいいよ!」と誰かに呼び掛け、また、スッとディラに向き直った。
「ごめんごめん、いいよ」
「あ、すいません。えと、あの、王子様のコンサートあるじゃないですか」
「プリフェスね」
「プリフェス……でしたっけ」
「プリンスフェスね。プリフェス」
「プリフェス。そのプリフェスに、僕招待してもらったじゃないですか」
「うん」
「で、知り合いの冒険者がいるんですけど」
「あー招待できるかって?」
「あっそうです」
「あぁ~、うーん……いや関係者でもね、今だと入れない人いるのよ」
「ですよね」
「でもね、分かんない、え、何人?」
「二人なんですけど」
「二人かー。分かんない、ちょっと聞いてみるわ。ひょっとしたら関係者分で入場券が余りあるかもだから」
「ああ、ほんとですか」
「うん。いいよ、聞いとく」
「わーすいません」
「あっ。てか待って、今聞くわ」
と言ってまた、クラプトは横を向いた。
「ちょっとごめん! あのさ、プリフェスのさ……プリフェス! 王子の……そうそう、プリフェス。プリフェスの入場券ってさ、関係者分で余りある? ……あ、まじで? あー了解了解!」
そして再びディラに向き直り、
「一枚ならあるって」
と言った。
「あー……。一枚ですかー」
「それ以上は無理だね」
「っああ、いやいや全然! すいませんありがとうございます、無理を言って」
「いいよ全然」
「ありがとうございました、すいません失礼します」
「はーいお疲れー」
「お疲れ様です」
通話が終了するとディラは、
(一枚か……まあ、しょうがないか)
と、すんなり現実を受け入れて、通信室を後にした。
城内も城外もまったく平和で、今日も兵士としての仕事は見廻りぐらいしかない。
ディラは廊下を歩き、差し込む陽光を浴びながら(今日昼、何食べよかな)とか考えていた。
しかし、事態はそんなに呑気な、日常系アニメの話数消化回のようにはいかなかった。