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魔女と最後のインフィニティ  作者: you/神崎慧
第一章 始まりの場所
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第三話【承認試験】

 ガーデンに戻ったライトたちは事実報告をするため、アレクシア・バース教員らの元へ来ていた。

 洞窟内での事態を重く受け止めたガーデン側は、帝国軍二等兵が逃げ出したことを強く非難し、帝国軍二等兵への処罰は重いものとなるだろうと訓練生らに伝え、最後に謝罪をしてその場は解散となった。


「ライト・ルークスくんは学園長が呼んでいらしたので、あとで最上フロアにある応接室まで来るようにお願いしますね」


 アレクシアに言われ、小首を傾げながらも頷くライト。学園長に呼ばれることなんてガーデンに来て以来初めてであり、何かやらかしただろうかと思考を巡らせる。


「大丈夫ですよ、叱られるなんてことはないですから」


 普段あまり見ることのないライトの困った顔を見て、ふふ、と笑いながらアレクシアはそう告げる。

 その言葉に安堵し、アレクシアに頭を下げてその場を後にした。


「学園長に呼ばれるなんて、何をしたのよ?」


「俺は何もしてねーよ!……たぶん」


 教員室を出てすぐの壁に背をもたれていたローザは、待っていたのかライトと共に歩き始める。

 先の戦闘で負傷して気を失っていたローザだったが、ライトが洞窟の最奥から戻ってくる頃には意識が戻っていて、周囲に心配掛けたことを詫びていた。

 あの場が助かったのは洞窟の天井に大穴を開けたローザのお陰であり、そんな謝罪は必要ないと皆口を揃えて伝えたこともあり、それ以降ローザは謝罪を口にしなかった。申し訳なさそうな態度は拭いきれなかったが。


「そういや、エレッドは大丈夫なのか?」


「ええ、医務室で目が覚めて治療を受けてたわ。私と同様応急処置が良かったから、治療もすぐにおわるはずよ」


「そっか。無事で良かった」


「他人を寄せ付けないくせに、そういうところは昔と変わらないわよね」


 クスクスと笑って、ローザは数歩前に出て後ろ向きで歩き出す。ライトは危ないと注意するが、それを聞き入れる彼女ではない。

 なんてことないといったように微笑みを返し、その仕草に呆れたようにライトは溜息を吐いた。


「その胸元にある赤い結晶、不思議な輝きをしているわね」


「ん?あぁ、そうだな」


「そんな物、持っていなかったはずよね?どうしたの?」


 胸元に目線を下ろすと、赤い結晶が首からぶら下がってるのが見える。ライト自身もこれを目にした時はいつの間にこんな物と思ったが、結晶の輝きに見覚えがありあの洞窟の最奥での出来事が原因だろうとすぐに理解した。

 最奥で起きたことを説明し彼自身もよく分かっていないことを伝えると、ローザは難しそうな顔をして赤い結晶を覗き込むように手に取る。


「ずっと昔、魔女が世に存在していた時代に、光り輝く結晶を身につけて魔女に立ち向かっていったとされる英雄たちの絵本を読んだことがあるわ」


「魔女なんて御伽噺だろ?」


「そうだけど、ちょっと興味深いわね」


 そう言ってローザは結晶から手を離し、前に向き直って足を止める。どうやら話し込んでいるうちに応接室の前まで来たようだ。


「中でのこと、話してもいい内容なら聞かせてね。とっても興味深いから」


「へいへい。野次馬はとっとと退散しやがれってんでーい」


「へーいへい!わかったわよ、じゃあね!」


 ライトの真似をし来た道を戻っていく彼女を見送り、改めて応接室の扉の前に立つ。

 学園長の顔を知ってはいるが、直接対面したことはない……はずであり、あったとしても改まって呼び出されたことはないため気を引き締める。

 叱られるわけではないとは言われたが、呼び出される程のことをした覚えなどないライトにとって、何故呼び出されたのかさっぱりなのだ。

 さらには来たことのない応接室、最上フロアでさえ足を踏み入れたことはない。多少緊張しつつ、覚悟を決めてドアノッカーを鳴らす。


「失礼します」


「ああ、来たかな。入りたまえ」


 返事を待ってから入室すると、窓際に立っていた学園長が部屋の中心にあるソファーまでゆっくり歩いていく。


「ルークスくんもこちらに来なさい。座ってお茶でもしながら話そうではないか」


 こちら、と言いながら学園長と反対側のソファーに座るよう手で促し、それに返事をしてライトはソファーの前に立ち、失礼しますと一声掛けてから座る。

 学園長とライトが座ったのを見届け、いつの間にそこにいたのかアレクシアが二人の前にお茶請けと共にお茶を置いて、部屋の前で一礼し出て行った。


「さて、来てくれて感謝する。改めて、私はインペリアル・ガーデンの学園長を務めている『ロイ・ブルジエラ』だ」


「ライト・ルークスです」


 ガーデンに所属していれば誰もが知っている存在の学園長だが、実物を見るのはおそらく初めてである。

 表立って行動しているところを見たことがない上、ガーデンのイベントや集会等にも顔を出さないので、面識があるのは教員くらいであろう。

 『ロイ・ブルジエラ』と名乗った学園長は、その名の通り皇族であり、この若さでありながらガーデンの創立者と謳われている。

 皇族は遺伝子なのか代々顔が整っており、学園長もしっかりその遺伝子を受け継いでいて、群青色の短い髪に紅色と縹色の切れ長のオッドアイが映える白い肌、鼻筋が通っていて男らしい端正な顔立ち、ビシッと着こなした帝国の隊服と相まって国宝級の美しさである。

 ライトがガーデンで生活するようになった数ヶ月前にガーデンは出来上がり、そこから急激に功績を挙げたことで帝国内に噂は広がり、今では南北に第二、第三のガーデンまで出来ている。

 20代前半でガーデンを作り上げ、さらには創設してすぐ功績を挙げた学園長を知らぬ者は、この帝国内にいないであろう。

 そんな人がどうして自分を呼び出したのだろう、とライトはますます疑問に思い、学園長が口を開くのを待っていた。


「早速だが、キミのその胸元にある結晶……それはあの洞窟で見つけたのかね?」


「はい、最奥にありました」


 話題が結晶のことと分かると、ライトは首からその結晶を外して学園長に渡そうと考え、結晶に手を掛ける。


「あれ……?」


 いくら取ろうとしても首からは抜けない。その行動を見ていた学園長は可笑しそうに鼻で笑う。


「その結晶は宿主を選ばない……が、手にしたその瞬間から宿主に寄生する。残念だが、それはキミから離れない」


「この結晶のこと、ご存知なんですか?」


 結晶のことを知っている様子で話す学園長に少し驚きつつ、ライトは聞きたいことを聞けるチャンスだと考える。

 そんなライトを見て、またしても鼻で笑った学園長は


「魔女はこの世に存在する」


唐突にそう告げた。

 その言葉を理解できず固まるライトに見向きもせず、学園長は話を続ける。


「その結晶は、悪しき魔女に対抗し得る力だ。魔女は人間に紛れて生活していて、日々成長する人間の中から魔女の力を受け継ぐ素質のある者を探し、その力を継承し続けている。確認されている魔女の数は少ないが、一人や二人の話ではないということは確かである」


 魔女の存在は非常に危険であり、世界が滅びてしまう可能性があること。

 インペリアル・ガーデンはそんな魔女たちを葬るために創られた学園であり、いろんな場所に討伐に行くのは結晶を探すためでもあること。

 その結晶を所持した者は、結晶の力を借りて魔女に匹敵する力を得られ、魔法を使えるようになること。

 研究所の活躍により結晶の研究が進み、転移装置などの擬似魔法が使えるまでになっていること。

 魔女自体の研究を進めるため、たまに帝国の任務と称し隠れて暮らす悪しき魔女たちを探し連れ帰る指示を出していること。


 学園長の口から次々と語られる真実に、ライトの思考は追いつかない。それもそのはず、魔女の存在は御伽噺とされているからだ。

 だが、学園長は止まるどころかまだまだ語り続けていて、魔女が存在することを前提に話を進めている。


「ちょ、待ってください。魔女は御伽噺の世界の話であって、現実には存在しないと言われているはずでは?」


 やっとの思いで言葉を発したライトを見てキョトンとした顔をしたかと思うと、癖なのか学園長はまたしてもその言葉に鼻で笑う。


「魔女は身を隠してひっそりと暮らしている。それゆえに近年、魔女は発見されておらずその存在の真偽を問う者が出てきてな、其奴らが勝手に広めた噂だろう。この世に魔法という概念が存在している事こそが魔女が存在している証拠だ」


 学園長の言う通り、この世には魔法が存在している。そして魔法の起源は魔女であるとされているのだ。

 ただ、使える者はいないも同然と言われており、帝国の中でも唯一魔法と言われているのが『転移装置』である。それも先程の説明だと疑似魔法であり、本物ではないということにはなるが。


「魔法の起源は魔女である。魔女に苦しめられてきた古代の偉人たちが、魔女と同等の力を持つ結晶を作り上げたのだよ。それが今も尚存在している、その意味が分かるかね?」


 今まで御伽噺と認識していた話が現実に存在していたという事実に驚きを隠せないライトを見て、学園長は満足そうに笑うと


「そもそもキミはここに来て一度、魔女に遭遇しているではないか」


またしても衝撃を受ける発言をする。

 ライトは何のことかと思考を巡らせる。が、そもそも御伽噺だと思っていたのだから、意識していないというのも当然の話である。


「分からないのかね?まぁ、無理もないだろう。キミはまだ幼かったからね」


「幼かった?……ぁ」


 そう言われて思い出したのは、あの日の出来事。

 手から光る"何か"を発し、次に見たときは姿が一変し黒い光を放っていたあの女の人の攻撃は、まるで魔法のようなーーー否、あれは魔法だったのだ。

 姿が変わる前は一般の女性に見えていた彼女も、黒い光を放ちながら攻撃してくる姿は、なるほど脅威というのも頷ける。ドス黒く変容したあの姿は、魔女と言う他ないであろう。


「さて、理解したようだ。本題に移るとしよう」


 仇とも言える出来事を思い出し、静かに闘志を燃やしていたライトを見て満足そうな顔をし、学園長は話を切り出す。


「その結晶は魔女に対抗し得る力を秘めているという話は理解したと思うが、その強大な力を得た以上、この先キミはただの訓練生というわけにもいかなくなる」


「まさか、コマンド部隊に入れって言われたりします?」


「……ふ、ふははははは!!!」


 隠すこともなく露骨に嫌がる態度を見せたライトの姿が可笑しかったのか、学園長は弾けたように笑う。

 何がおかしいのか分からないライトは、学園長が収まるのを待つしかなく、ひとしきり笑い終えるまでひたすら怪訝な顔を浮かべていた。


「はぁ、失礼。いやなに、訓練生であれば誰もが羨むコマンド部隊にそんなに嫌な顔するとは思わなくてね」


「……すみません」


「ただ残念ながら、コマンド部隊には所属させるつもりはない。そもそも魔女が関わる任務に携わることはあっても、コマンド部隊は任務内容を知らされていない」


「え?それって、どういう……」


「例えば、魔女の確保が目的とした任務の場合、コマンド部隊には帝国の機密を握る女性の確保という任務内容が伝わる、ということだ」


 意味が分からず黙るライトを気にする様子もなく、学園長は続ける。


「魔女の任務は国家機密に値する。そんな重要な任務を、訓練生より戦闘能力が少し高いだけの者たちに、教えるわけがないだろう」


 人を見下す癖があるのかいちいち棘がある物言いに、不愉快な気持ちにならない者はいないだろう。ライトもその一員であり、態度には出さなかったものの、学園長に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。


「昇格制度がないと人間は自堕落になるから、仕方なく作った制度だ。他と比べて戦闘能力は優れているが、コマンド部隊は所詮ただの帝国の駒なのだよ」


「なっ……?!」


 コマンド部隊をただの駒だと断言され、絶句する。

 確かに、ライトがコマンド部隊を毛嫌いしているのは、帝国の"犬"みたいに帝国の命令は絶対という要素があるからだ。だが、それは訓練生のライトから見ての判断であり、あくまで一個人の意見に過ぎないと考えていた。

 それなのに、危険な任務に行かせておいて、魔女と相対させておいて、犠牲者を出しておいて、あの日悲惨な出来事があったのに、それを駒だと言い捨てる学園長の発言に、我慢できなくなったライトは声を荒げる。


「国家機密……?んなもん知るかよ!!結晶持った奴しか魔女をぶっ倒せねえってんなら、そいつらを向かわせれば良かったんだ!最初から魔女が関わっている任務だって分かってたなら、戦い方だって変わってたはずだ!なんなら無理して戦わなくたってよかったはずだ!あの場に居合わせなくてよかったはずだ!お前らの命令で、どれだけ犠牲者が出たと思ってやがる?!あの日あの場所に行かなければ、魔女に遭遇しなければ、きっと"彼"は!!」


「うるさい、喚くな」


「……っ!」


 不機嫌そうな声色で言葉を遮り、呆れたような顔でライトを鋭く睨む学園長。その態度にさえ腹が立ったが、ここで感情を爆発させたところで何も意味がない。

 そう自分に言い聞かせ、自身を落ち着かせるように深く息を吐いた。


「私情を挟むのは構わないが、立場を弁えたまえ」


「……申し訳、ありません」


 頭を下げ、いつの間にか立ち上がっていた自身を座らせる。内側では怒りと憎しみと悲しみとでぐちゃぐちゃになっている感情が渦巻いていたが、それを表に出さないように耐える。


「ここで喚いても問題は解決しない。それは理解できたかな?」


「……はい」


 腹の内側にある感情を抑え込み反省の態度を見せるライトをじっくり眺めると、仕方ないといったように鼻で笑い、学園長は話を進めた。


「では本題に戻ろう。キミに所属してほしい部隊はコマンド部隊ではない、Holy Knight(ホーリー・ナイト)という部隊だ。その部隊は魔女に関する事以外の任務は基本与えない」


「ホーリー・ナイト……?」


 聞き慣れない言葉を口にして、首を傾げる。

 学園長はそのまま説明を続け、コマンド部隊のような何も知らされずに任務に向かうのではなく、魔女がいるのであれば魔女の存在を知らせ、魔女はいないが魔女に関する任務であったとすればその目的を伝える、要は魔女専門の部隊だとライトに言った。

 コマンド部隊はあくまでもガーデンの部隊であるが、ホーリー・ナイトは帝国の精鋭部隊となり、所属が帝国直下となる。

 魔女の討伐を命じる任務もあるため、非常に危険な部隊であるが、結晶を持つ者しか入隊の許可が出来ない精鋭部隊である。コマンド部隊のように表立って行動はできず、秘密裏に任務を遂行する役目であり、帝国内でもその存在は一部の人間しか知らされていないという。


「その入隊は、強制ですか?」


 あからさまに嫌な顔を浮かべて問いかけるライトを見て、またもや鼻で笑い


「強制ではないが、キミはこの入隊を利用せずにはいられまい。そうだろう?」


と断言した。

 言い草に若干イラッとさせられるが、もうこれは先のやり取りで学園長に嫌悪感を抱いてしまったのだから仕方ないことなのだろう。

 それに、学園長が言っていることも正しいといえば正しいのである。ライトはこの話を聞かされ、あの出来事が、消えてしまった"彼"の仇が魔女であると知ってしまった。

 そしてその魔女について知るには、訓練生では情報さえ入ってこない。コマンド部隊でさえ知らされない。となれば、その存在を唯一知らされるホーリー・ナイトという部隊に入るしか必然的に方法はなくなる。

 "彼"がいなくなってしまった原因であるあの魔女に辿り着くには、どう足掻いても現状一番効率的な方法として、入隊せざるを得ないのだ。


「そうですね、拒否はしません」


 渋々、といった様子ではあるが、ライトは学園長に答える。その様子に満足したような顔をして学園長は話し合いが始まって初めてお茶を口に運ぶ。


「まぁ断ったら、学園からは追放され、帝国の地下牢で生活する羽目になっていたであろうからね。安心したよ、キミが断るような馬鹿な真似はしなくて」


「いやそれ先に言ってくださいます?!」


 怪しく笑いながら言う学園長に思わずつっこむライト。

 一瞬でも断ろうか考えていた自身が恐ろしくなり、断らなくて良かったと心底安堵した。


「三日後、コマンド部隊承認試験が行われる。承認試験では訓練生にC級の任務を与えるが、コマンド生や教員は同行せず、受験生だけが向かうことになる。それにキミも行きたまえ」


「コマンド部隊の承認試験に、ですか?」


「それくらい突破してもらわなければ困るからね。一応入隊資格があるかどうかを試させてもらうのだよ。といっても、コマンド部隊承認試験を合格できないなんてことがあった場合も、地下牢行きだがね」


「いやもう突破一択じゃないすか、拒否権ないじゃないすか」


 断っても地下牢、落ちても地下牢、つまりは合格しか道はないというパワハラ発言に、いっそ清々しさすら感じるが、他に道がないということも分かっているためか、それ以上の文句は言わない。

 コマンド部隊承認試験は年に三回繰り広げられているが、合格者は参加者の一割も満たない。中には合格者ゼロの年も珍しくないのだ。

 ここ最近では合格者ゼロが続いており、その事実が承認試験の難しさを物語っている。


「三日後の試験が終わったら、その二日後にコマンド部隊の昇格パーティがある。それにも参加したまえ。期待しているよ、ルークスくん」


「あー、はい。期待に応えられるよう全力を尽くします」


 まるで合格前提で話を進められ、棒読みで返事をしてお茶を一気に飲み干す。

 その様子を見て学園長は立ち上がる。もう話すことはないのか、学園長室と書かれた部屋に向かって歩き出していた。


「失礼しました」


 立ち上がって出口の前まで来たライトは、振り返り一礼する。そして扉を開け、外に出ようとしたその背中に


「ここで話した内容は他言無用だ」


学園長の声が掛かり、そちらを見やり頷いた。

 その反応を見て薄く笑って、学園長室に消えていったのを見届け、今度こそ応接室を後にした。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



 応接室での会話から三日経過し、コマンド部隊承認試験当日となった。

 応接室から帰った直後、ローザが会話の内容を知りたがって自室まで来たが、他言無用と言われていたライトはあたり障りのない会話だったことを告げた。

 納得いかないといったような表情を見せるローザだったが、口を割らないと分かると諦めたようで、コマンド部隊承認試験の話をし始めた。

 今回の承認試験に、ローザとウィリアムがアレクシアから推薦を受けたそうだ。他に三名ほど承認試験に推薦された者がいたそうで、ライトを含め承認試験を受ける人数は六名となった。ライトもアレクシアからの推薦枠になっているらしい。


「最近は多くて二人くらいだったので合格者が出ておりませんでしたが、今回は受験者数が多い方なので難易度C級でも助け合えば倒せるモンスターです。一人一人に飛行型のカメラが同行するので、試験中の行動は私たち教員が逐一チェックしています。戦闘不能になった時点で不合格となり、私たちの判断によってこの小型転移装置が作動し、救護隊が待つ移動車まで転送されます」


 アレクシアが試験の説明を淡々としていく。

 即時に不合格と見做される行動は他に三つ、戦闘に参加しなかった場合、参加はするが意欲的ではない場合、受験者同士の潰し合いをした場合である。こういった行動を取った場合も小型転移装置が作動し移動車まで戻される。

 合格基準は50点満点中45点以上、戦闘前の行動や戦闘中の行動、戦闘後の行動等に点数が付けられる。ちなみに減点法だ。

 行動に対する点数の付け方というのは公表されていないため、それぞれが思う通りに動く必要がある。何か駄目な行動を取ったとしてもどの行動で何点減点されるのか分からないため、受験者は行動に注意しつつ試験を受けなければならない。


「とはいっても、普段のモンスター討伐をしている時と同じように行動すれば、滅多に減点されることはありません。そうすれば基準はほぼ戦闘能力次第となりますので、推薦された以上、自信を持って戦闘に臨んでくださいね」


 その後細かな注意事項を説明し、一時間後に移動車前に集合するよう告げられ、その場は一旦解散となった。


 今回の承認試験で魔法を使うのは原則禁止とされている。というのも、あくまでも参加するのはコマンド部隊の承認試験であり、魔法を使う者はいないからである。

 結晶を持つ者は当然ながらライト以外いない。故に魔法を使うことは許されず、今までと同様自身の力のみでの参加となる。

 ライト自身も、まだよく分かっていない力に頼るよりは自力で闘う方がしっくりくるようで、すんなり条件を受け入れられた。


 実は、ガーデン内での魔法の使用を禁止とされているのだが、気になりすぎて応接室での会話の翌日に、ガーデン内にある訓練施設にてモンスターと闘いながら魔法を試してみた。

 不思議なことに、戦闘に入るまで扱い方もどんな魔法なのかも分からなかったのだが、戦闘開始直後には自然と頭に入っていて魔法を詠唱していた。

 赤い結晶の得意とする魔法は炎系であり、相対するモンスターを燃やし尽くしていた。

 詠唱できたのはジャーマのみだったが、ライトの戦闘能力が上がるとそれに呼応するかのように使える炎系の魔法が増えていく仕組みになっているようだ。

 結晶を得てから戦闘を始めるまで何も知識が無かったが、使用した途端に魔法の扱い方や結晶の特性を理解できるようになり、一回理解してしまえばその後忘れることはなかった。なんとも不思議な感覚である。

 その後もモンスター相手に使っていたが途中でカスッカスな炎しか出なくなり、使い過ぎると一定時間使用できなくなると知り、疲れもあって訓練施設を後にした。

 直後に遭遇したアレクシアに魔法を使用したことが何故かバレ、次やったら学園追放からの地下牢行きだと言われ身震いした。


「ライト、時間よ?もう準備はできたのかしら?」


 自室に戻り二日前の出来事を思い返していたところで、ローザから声が掛かる。


「ノックぐらいしろよな」


「あら、二回くらいしたわよ?返事がないから入っただけで」


 扉には鍵があるが、ライトは夜寝る前以外鍵をかけない。だからかローザはよく入ってくるが、そのどれもノックは欠かさずしている。


「だいたい、ノックしてもほとんど返事してくれないじゃない?」


「……気付いてないだけだ」


「入ったら寝てるかボケーっとしてるかしかないものね」


「悪かったよ!それより、もう時間だし行くぞ」


 強引に話を切り、愛剣を背中に固定して自室を出る。

 珍しく緊張しているのか、移動車に向かう途中ローザから話を振られることはなかった。元々口数はそう多くないため、ライトも話し掛けることはなく会話がないまま移動車まで辿り着いた。


「珍しいな、緊張してんのか?」


 移動車の前まで来てもまだ何も話さないローザを気にかけるように、ライトは話し掛けた。その声にハッとした顔をして、前を見つめていた顔をライトに向けて薄く笑った。


「緊張はしてないわ。今回どこに行かされるのかまだ聞かされてないから、どこに行くのか考えていただけよ」


「そっか?」


 本当に緊張はしていないようで、その後は難易度C級のモンスターの話題を持ち出す。

 モンスターに関しては難易度毎に講義で習わされており、大半の知識は頭に叩き込まれる。よって、闘い方や弱点等も習うため、講義中に寝ていたりサボったりしていなければ攻略法をしっかり学べる。


「お、ライト!ローザ!」


「あらウィル、今日はお腹痛くなってない?」


「言われると痛くなるやつ!!!」


 前回二人で治療を受けた時から仲良くなり、ウィリアムもやっとローザを呼び捨てで呼ぶようになったようだ。

 これまでライトとローザは一緒に行動することが多かったが、あの日以来ウィリアムもプラスで付いてくるようになった。


「お前、友達いる?」


「唐突に失礼なこと言われたんだけど?!!」


 ライトたちと共に行動するようになる前は、どうしていたのかふと気になり尋ねるライトに、心外だとでも言わんばかりの顔を向けるウィリアム。

 そして友達多い自慢が始まると興味ないとでも言うようにライトは遠方をボーッと見つめ、それに気付いたウィリアムは子供のようにムクれる。

 その二人のやり取りを横でクスクス笑いながら見ているローザ。これがここ最近の定番となりつつある。


「お待たせ致しました。戦闘には参加しませんが移動車で待機を任されましたアレクシア・バースです。よろしくお願いします」


 ふざけ合っていると、アレクシアが現れ移動車に乗り込む。全員乗り込んだのを確認すると移動車は出発し、それが合図となり今回の承認試験の場所の注意事項が説明される流れになった。

 

 コマンド部隊承認試験が行われる場所は氷結の洞穴と呼ばれる場所であり、その名の通り洞穴は氷で覆われている。その地一帯は一年中雪が降り積もる氷雪地帯ーーアイスノウエリアーーであり、その中でも最も気温が低いとされているのが洞穴周辺である。

 御伽噺でもこの地一帯の逸話があり、何でも氷結の女神がこの地に舞い降り辺り一帯を冬景色に変え、そのままこの地で長い眠りについたという。

 そんな話とは全く関係ないが、今回の討伐対象は洞穴の中にいる『ヌマフエラ』という、人や動物の血を吸って生きるモンスターだ。

 付近の人里に直接被害があったわけではないが、食糧調達のため洞穴周辺を探索していた人里の者が血を吸われ、人里に帰ってすぐ全身を掻きむしって死亡したという。

 個体差があり、大きいヌマフエラは吸血行為だけで人を死亡させることができるが、小さいヌマフエラは吸血行為だけでは死なない。が、咬まれたら数分後、その部位から痒みが全身に広がり自身で掻きむしり死亡してしまう。

 攻撃手段が吸血行為だけで戦闘能力自体はC級以下ではあるが、見た目に反して素早い動きと血を吸われると例外なく生命の危機に晒されるモンスターであるが故、難易度がC級なのである。


「確かヌマフエラの唾液には麻酔成分が含まれてるから痛みは感じられないのよね?」


「ああ、図体大きけりゃ黙視で分かるが、小さい方に咬まれても気付きにくいっつーのは、厄介だな」


 ただ、対処法はある。というのも、難易度別にモンスター講義を受けることがあり、その講義の中でヌマフエラは既に取り扱われている。

 アルコールや塩分濃度の高い液体に弱く、小さい個体はかけると即死する。火にも弱いので、大きい個体に関しては焼き切ってしまえばいい。


「ガーデン側も対策用に大量に物資積んでくれてるし、何事もなく終われば良いわね」


「そうだな……にしてもさみーわ」


「防寒着意味なくね?!凍え死ぬこれ!!」


 現地に到着し外に出ると、肌に突き刺さるような寒さが全員を襲う。寒いというよりも最早痛いという表現が正しいであろう。


「戦闘に入ればきっと寒くなくなるわよ」


「全員準備でき次第集合してください。お伝えしたいことがあります」


 各々が準備を済ませアレクシアの元に集まると、アレクシアは懐から小型転移装置を取り出し、一人一人の胸元に付けた。


「この洞穴はとても広く、奥が深いです。帝国の調査は最後までされてはいません。洞穴のなかに帝国軍が取り付けた赤い看板があります。その看板が見えたら引き返して結構です。逆に言えばその看板に辿り着くまでは引き返さないこと。赤い看板付近で繁殖しているのか、そこではヌマフエラが大量発生します。出て来なくなったら任務終了とします。いいですね?」


 全員が返事をし、それを合図にアレクシアは後ろへ下がり


「誰一人怪我することがないよう、健闘を祈ります」


と祈るような仕草を見せた。アレクシアの姿を見届けて、六人は洞穴に入っていく。

 こうしてコマンド部隊承認試験ーーライトにとっては合格しか道がない試験ーーが幕を開けたのだった。

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