プロローグ 【約束の地】
あれから何時間経ったのだろうか。
いや、もう数日経っているかもしれない。
時間の経過は意味を成さず、あの人と交わした約束の地を、ただただ彷徨い続ける"その人"の心と身体は、もう限界を優に超えていた。
それでも、あの人を探し続けなければならない。
誰を探しているのか、顔さえ思い出せないあの人を。
あの人と交わした約束の地は、この場所だっただろうか。交わした約束は、どんな内容だっただろうか。そもそもあの人と本当に約束などしたのだろうか。
だめだ、思い出せない、いや違う、失いかけているのだ。
大切だったあの時を、大切だったこの場所を、大切だった人たちを、最初から全てなかったかのように。
何故こんなに必死にならなければならないのか。どうしてこの場所にいるのか。目的も分からなくなりつつある"その人"は、それでも足を止めずに彷徨い続ける。
そうしていなければ、存在意義さえなくなってしまう気がして、このまま戻れなくなってしまう気がして、もう、消えてしまいそうで。
必死に足を進め、そして、気づく。
ーーーあぁ、この世にもう、必要ないのか。
そう理解した途端に懸命だった歩みは止まり、その場に膝から崩れ落ちる。歩みを進める意味を失ってしまったのだ。
自分の存在が必要とされていないと悟った"その人"は、もう大切だった時間やあの人と交わした約束も、自分の存在さえ失い、彷徨い続けた身体を横に倒す。
「う……ぁぁああっ……ああァァアああああアッッ……ッ!!」
その瞬間、頭が割れるように痛みだし、何かが弾けたような音が脳内に響き渡った。頭を抱えていた"その人"は眼を見開き、そのまま意識を手放したのだった。