プロローグ
ーー二〇九五年
突如飛来した隕石に付着していた細菌が、人間以外の生物のほとんどを異形化・凶暴化させてしまった。
それに対抗するため国際連合安全保障理事会は、15歳以下の子供たちに超能力手術を施し、人間兵器として軍用化した。
世界のために命を投げ打つ少年少女の物語。
プロローグ
走る。昼だというのに酷く暗く、足元もしっかりとしない森の中を、ただひたすらに走り続ける。
立ち止まればそれでおしまいだ。あと数百m走ってあの巨木を右に曲がれば自軍のキャンプに入れる。そこでならこの怪物も迎撃できるだろう。あと少し、あと少しだ。
森を駆け抜け巨木を右に曲がる。これでこの怪物も終わりだ。その考えが甘かった。キャンプに入ると、すでにそこは壊滅状態で、数人の怪我人が互いに手当てをしあっている状況だった。
まずい。今ここにアイツを連れてくるわけにはいかない。
しかし、その思考すらも遅かった。背後から猛追してきた怪物に背中を弾かれ、身体はキャンプ地の中央付近まで飛ばされる。それに気づいた軍の隊員達は私に見向きもせず、我先に逃げ出す。全く情けない奴らだ。
身体を起こし迎撃態勢を取ろうとするも、衝突と落下の衝撃で至る所の骨が折れているのか、思うように身体が動かせない。無痛症だと怪我の度合いが分からないな。
せめて他の隊に連絡を入れようと腰についている連絡弾を空に向かって射出する。先程から動きのなかった怪物はその音に気づいたのか、こちらへ向かってくる。なるほど、こいつは音に反応するのか。走るだけ無駄だったな。
「放てー‼︎‼︎」
自嘲し死を覚悟したその時、轟音とともに強烈な熱風が届いた。この爆発のしかたは本隊が所有する焼夷弾だ。
援軍が来た。これで助かる。
しかし、安堵していたのも束の間、直撃していなかったのか怪物は炎の中を突き進んでくる。あぁ、ここで死ぬんだな。もうこれでおしまいか、と思い目を瞑る。
しかし、いっこうに衝撃はやってこない。恐る恐る目を開けて前を見ると、見上げるほどの巨体だった怪物が、自分の膝下くらいまでの大きさにまで潰れていた。
何が起きたのか分からずにその場で呆然としていると、すぐ隣から凛とした声が聞こえてきた。
「大丈夫だった?怪我はない?」
振り向くと、そこには我らが日本軍が誇る五人の最強能力者の一人、〈重力制御〉の「霧島加奈枝」大佐が立っていた。
「総員、戦闘配置につけ。敵は音に反応すると思われる。見つけ次第背後を取って仕留めろ。以上。」
耳に取り付けるタイプのトランシーバーに向かって軍の隊員に指示を出す。その姿は美しく、羨望を覚えた。
二〇九五年
世界は隕石に付着していた細菌によって生まれた生物に蹂躙されていた。
先進諸国はすぐに防衛ラインを張ったが、感染生物の強さは異常だった。そこで、合衆国が発表した対策案が特殊能力を持った人間兵器の製造である。これは人間の脳を改造し微弱な電磁波によって世界のあらゆる原子に働きかけ「特殊能力」を使えるようにするというものだった。
隕石の飛来と感染拡大から、わずか五年で世界三分の二の領土を失った人類だったが、その十年後には世界の半分を取り返す事に成功していた。
しかし、脳の改造は人体には負担が大きく、どうしても超能力者は短命になってしまう。その寿命は改造されてからわずか七年というものだった。
超能力者の死因は、脳がオーバーヒートを起こし脳細胞の全てが焼き切れるという事だった。それに気づいた各国はすぐに対策を練った。
いち早くその対策案を提示したのは日本であった。その案は隕石に付着していた細菌をワクチンとして人体に接種させる事だった。
理由は細菌に感染した生物は細胞の再生速度が異常なまでに早く、腕を切り落とされても一分足らずで治ってしまう。その性質を利用して脳が焼き切れる前に再生させられるのではないか、という考えによるものだった。
事実、ワクチンを接種した超能力者は、感染生物と同等の再生能力を手に入れた。それにより、脳の改造を受けた人間兵器の寿命は改造を受けてから十五年にまで伸びた。
そして感染生物による地球の蹂躙が始まってから三十年が経った今、世界各国は遂に、大規模な地球奪還作戦を開始しようとしていた。