”アオハル”
__________「同性のことが好きになったようだ」
蝉が鳴く。短い余生で子孫を残すため、必死になって求愛行動に出る。
必要以上に照り付ける太陽。頬を滴る汗。夏季休暇だが、変わらず部活動はある。高校三年の夏。
受験が近づく中、部活動もラストスパートにかかる。
様々な不安が積もる中、脳内オーバーヒートを寸止めし学校へ向かう。
”いつもと変わらない日常”だ。
七月上旬
利き手の右手でハンディファンを持つ。涼しい風が来るだろう。そんな期待とは裏腹に
熱風が私の顔面を襲ってきた。
「サイアク。」と
心の中の私が呟いている。そのまま口に出してしまいたいが、此処はそこそこ人が乗り降りする駅のホームだ。
暑い中の人身事故で電車が遅延しているようで普段よりも何倍もの人が苛立ちを態度に出しながら、
次の電車を待っていた。「自殺らしいですね~」「こんな通勤時間にやめてほしいですね!」「まったく人騒がせだ!」と数えきれない人々が好き好きに世からいなくなった人間に罵声を浴びせる。
「三番ホームに各駅電車が参ります。黄色い線の内側にお入りください。」
人々のイラつきを緩和させるかのようなタイミングで放送が入った。
学校への最寄駅までは三駅だ。満員電車だったにしろ少しの辛抱だ。と、自分に強く言い聞かせる。
スマホのロック画面には9時5分の文字。部活動は9時からなのでとうに遅れていた。
バイブレーションとともに届いたメッセージが二件。一件はスタンプだ。
「有里沙、部活くるよね?遅延?ゆっくりおいで」と「FIGHT」と書かれたクマのスタンプ。部長の唯からだった。
唯は学校の中でも人気者の類に所在しており、彼女の隠れファンがいるという噂までたっている。いわゆる”カーストの頂点”に値するタイプの人間だ。常に周りには何人かの取り巻きがいる。
「連絡遅れてごめん。もうすぐ着きます」
”超”がつくくらいの業務連絡を唯に返し、駅を後にした。
何分か歩き、学校の正門が見えた。無駄に立派な正門だ。女子高だからか?
三年目にして慣れない正門をくぐり、チア部が行う体育館へ向かった。
「アーリンおはよう!」「おはようございます!」
体育館へ入ると既にユニフォームに着替え準備万端な部員たちがいた。
チア部はこの学校の中でも華型の部活で、人気も高い。よって俗にいう、「陽キャ」が多く存在している。
ここで皆々が疑問に思うであろう、私、「有里沙」がなぜこのような部活に入部し続けているのか。
理由は意外と真面目で、「自分を変えようと思った。」ただそれだけだ。
定例文のような型にはまりすぎな理由だ。
部員たちはストレッチを終え、来月に行われるチアリーディング部の頂点を決める大会に向けての練習を始めた。
私も少し遅れて練習に参加する。ここの学校、「桜蘭学園」の実績はそこそこなもので、毎年50校以上の五本の指に入るほどだ。よって熱血さもあり、夏以上にアツい人材が多数在籍している。
「一年生、それ本気なの?」「しっかりやってる?」
副部長の凛と真奈は熱血指導派で、同学年の私から見ても怖い存在だったりする。
比べて、部長の唯は怒ることが苦手な為、副部長の二人が支える形となっている。よく笑いながらも、「私は部長に向いてない」と口から零す。普段の様子とはうって変わって、まるでこちら側、「陰キャ」の人間のような素振りを時たま見せるのだった。
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三時間の部活動を終え、制服に着替える為、部室へ向かう。女子高のために、ほとんどの部員が体育館でそのまま着替える形となっている。女子高に三年間通ってみてわかったことが、「女子高へ行くと、女子力を失う」
悲しくなるが、噂は事実だった。
そんなことを考え、部室に入ると、一人、唯の姿があった。いつもの明るい表情はなく、何か思い詰めているような様子だった。
部室に入るタイミングを間違えた。と少々後悔しながらも、私は着替えをロッカーから取り出した。
ふと、横にいた唯の横顔が私の瞳に映った。
頬を伝う何か。運動後の汗?と考えたが、明らか目尻から流れ出ているものだった。
途端、私の心の中の何かが狂い、黙って彼女の小さくなった背中側から、ゆっくりと抱きしめた。
「守りたい」
その感情だけが私の脳内に浮き出ていたのだった。
____________________つづく