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約束と契約  作者: オボロ
99/114

#99 マリアが考えた作戦



「争わずに理解し合うには、とりあえず、話すことが必要なのよね。」


マリアは、夢の中に現れた御弥之様が、マリアに話してくれたことを、全部、凪に話した。

話した上で、凪の助言を仰いだ。


話をしなければ、分かり合えないことは分かる。

だが、分かり合えるまで話をする機会も時間も、与えてもらえるとは思えなかった。

凪にも、B・Bにも、使い魔達にも——だ。


ジェシカはミルクを飲んだ後で、満足げにぐっすりと眠っていた。

体重も随分と増えたことだろう。

マリアが初めて見た時よりも、ジェシカはふっくらとしていて、首にも手首にも足首にも、赤ちゃんならではの括れが、見事に出来ていた。


「御弥之様が言うのであれば、それが一番必要なのだろう。」


凪は答えた。

御弥之様の考えには何の疑問も持たないが、その為の方法には、頭を悩ませた。


約束の二週間は、もうすぐだった。

B・Bと使い魔達が、マリアの滞在期間を知っているとは思えないので、マリアは、滞在期間の延長を、トールと朔乃にお願いする必要があった。


「バーナードさん、クレアさん、少しいいですか?」


マリアは、全員が揃う夕食の時に、話を切り出した。

トールと朔乃に話すよりも先に、バーナードとクレアの許可をもらう必要があると思った。


「もうすぐ約束の二週間になります。でも、ジェシカちゃんを連れ去る為の接触が、まだありません。」


バーナードは、途中だった食事の手を止め、マリアを見詰めた。

ジェシカにミルクをあげていたクレアも、ジェシカではなく、マリアを見ていた。

二人の顔は、「このまま帰ってしまうのですか?」と、雄弁に語っていた。


「そこで、お願いがあります。もう少し…っていうか、悪魔達が動くまで、こちらに居させてもらってもいいでしょうか?」

「もちろんだとも!」


マリアが聞くと、バーナードは少し食い気味に答えを返した。


「居てくれ!いや、居てください。解決するまで、居て欲しいんです。どんな形であれ、解決するまで居てください。お願いします。お父さんとお母さんには、わたしからも連絡をして、お願いします。ありがとう。本当にありがとう。マリアさん。」


歓喜のあまり、食事中であるにも関わらず、席を立ち、両手を伸ばし、バーナードはマリアの手を握りしめた。


「いえ…。ありがとうございます。」


マリアもお礼を言った。


「………。」


マリアの隣の席では、凪が心配そうにマリアを見ていた。





「あまり背負うな———と、言った所で、お前は背負ってしまうのだろうが……。」


夕食後、ベッドで眠るジェシカを眺めているマリアに、凪はぶつぶつと独り言のように言った。

バーナードの期待が、マリアの首を絞めているように思えて仕方がなかった。

バーナードが期待するほど、マリアは責任を感じてしまうのではないかと思い、心配だった。


「気負っても碌なことはないぞ。肩の力を抜いて、もっと楽な感じでだな……」


気の利く言葉が見つからず、結果、凪はぶつぶつ言うしかなかった。


「凪、わたしね、考えたの。」


マリアは、凪が食事中、心配そうにマリアを見ていたことに、気が付いていた。

おそらく、凪には自分を追いつめているように見えているのだろうと、マリアは思っていた。

ずっと、自分はジェシカを守る為に此処、バーナード家に来たのだと、マリアは自分を鼓舞し続けていた。

確かな力があるならまだしも、マリアの戦う術は、悪魔と使い魔には通用しないかもしれない、合気道と弓だけ。

しかし、それも使わないかもしれない。

争うのではなく、理解し、分かり合うのだから。

そのことを知っている凪には、マリアが危うく見えても仕方が無いと、マリアは思っている。

だからこそ、マリアは、方法を探し続けた。



「御弥之様は、わたしが必要だと強く望めば、夢の中で弓を具現化することが出来るって言っていたわ。矢だって具現化できるって言っていたの。だから、わたし、ジェシカちゃんの夢の中に入ったら、弓よりも先に凪を思うわ。そうしたら、凪もジェシカちゃんの夢の中に入って来られるでしょ?弓も矢も、必要になったら、その時に思うことにする。」


マリアは、「どう?」と、言わんばかりの得意げな顔を、凪に向けた。

凪は驚いて、目を丸くさせていた。


「いつ思い付いたんだ?」

「さっき。凪の心配そうな顔、見ていたら、わたしだけがジェシカちゃんの夢に入ったら、その間ずっと凪はそういう顔をして、わたしの寝顔を見ているんだろうなぁって、そう思ったの。そんなのいやだなぁって、凪も夢の中に呼べないかなぁって考えていたら、あぁ、そうだって、御弥之様の言葉を思い出して、思い付いたの。弓を具現化できるなら、凪だって出来るはずだって。ね?名案でしょ?」


マリアは、説明して、ウインクした。

思い付けば、なぜすぐに思い付かなかったのか、不思議に思うくらいの名案だが、思い付いたのだから、それで良かった。


「まったく……、確かに名案だ。」


凪は、呆れたようにも、ホッとしたようにも見える、笑みを浮かべた。


「だから、凪も一緒にB・B達と話すのよ。争わずに、理解し、分かり合うには、話をすることが必要なんだから。ジェシカちゃんは、わたしがずっと抱っこしていたら、万が一の時、一網打尽になっちゃう。だから、凪が抱っこしていてね。その為にも、明日からは、ジェシカちゃんの事、抱っこさせてもらえるよう、クレアさんにお願いしなきゃね。さぁ、もう寝ましょう。」


そう言ってベッドに向かったマリアは、呆然として立ち尽くす凪に、とどめを刺した。



「ジェシカちゃんを抱っこしている凪、楽しみだわぁ。」






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