#97 嵐の前
マリアは、自分の夢にB・Bと使い魔達が現れたことを、凪に話した。
夢の中でB・B達と話した後、ものすごい勢いで飛び起きたマリアの様子に、凪が気付かないはずもなく、息を切らせ、胸を押さえながら愕然としているマリアに、凪は聞いた。
「何を言われた?」
マリアの夢の中に、B・B、もしくは使い魔が現れた———と、前提しての質問だった。
「やはり、そのつもりか…。」
マリアが言われたことも、予想通りだったようで、あっさりしていた。
その上で、凪は自分の考えをマリアに話した。
「だが、物は考えようだ。一緒に連れて行くと言うのなら、マリアはジェシカの夢に入ることになる。その時に阻止することは、少なからず出来るはずだ。わたしも入ることが出来れば、状況は更に好転するのだろうが……。ふむ、それはいい。それは、わたしが何とかすればいいだけの話だ。」
だから、あまり気に病むな———と、言わんばかりに、マリアの頭にポンっと、軽く手を置いた。
驚いたことに、マリアの夢に現れてから、使い魔達は、ジェシカの周りに現れることを、ピタリと止めた。
突然に現れなくなったペルシャ猫やイタチや大きなカエルを、クレアは心配していた。
「どうしちゃったのかしら。どこかで事故に遭ってなければいいけれど…。でも、良い飼い主さんに出会えていたなら、仕方ないわね。」
少し寂しそうでもあった。
使い魔達は、ジェシカとマリアを連れて行く準備を、本格的に始めたのかもいれない。
マリアにも凪にも、そんな考えが過ぎったが、それをクレアに話すことは出来なかった。
「夢の中に弓を持って行くことって、出来ると思う?」
マリアは、ベビーカーに乗ったジェシカと散歩をしているクレアの後ろ姿を眺めながら、凪に聞いた。
使い魔達が現れなくなったことは、マリアと凪にとっては都合が良かった。
使い魔達を追い払う時間も労力も失わず、ジェシカを守る為の対策が練れる。
今ではすっかり規則正しい生活のリズムを取り戻したクレアは、顔色も表情も明るくなり、ジェシカも、たくさんミルクを飲むようになった。
何処から見ても、幸せな親子だ。
ジェシカの笑顔と、ジェシカの笑顔を見ながら、嬉しそうに微笑むバーナードとクレアの姿を見て、マリアは、この三人の幸せな生活を壊したくないと、心から思った。
代わりにマリアが逝くのではない。
契約を破棄にする。
それは、琴音も言っていたことだ。
そこまでのことを、今回のことで、マリアに出来るとは思わないが、ジェシカから手を引かせることだけはしなくてはいけないと、マリアは改めて決意していた。
話し合いで済むのなら、それに越したことはないけれど、いざとなったら、弓を引く覚悟を持たなければいけない。
B・Bや使い魔達に言われた言葉で、一々弱気になってはいけない。
不安になってはいけない。
動揺してはいけない。
凪が言っていたように、ジェシカの夢に入れることはチャンスなのだと、マリアは自分に言い聞かせ、戦う為に此処に来たのだと、自分を鼓舞し続けた。
「一度、弓を抱いて寝てみたらいいんじゃないか?」
凪は、マリアの質問に応えながら、鼻で笑った。
マリアにだって、弓を抱いて寝たら、夢の中でも弓を抱いている———なんてことにはならないことは分かる。
それでも、戦う為には弓が必要になるかもしれないのだ。
マリアは考えるしかなかった。
その為に持って来た。
弓も、矢も。
「………。」
マリアは、黒翡翠を握りしめた。
今は、B・Bも使い魔達も現れず、静かだ。
まるで、嵐の前の静けさ。
だが、もうすぐB・Bも使い魔達も動き出すに違いない。
嵐は来る。
それまでに準備を整えたい。
「そろそろ帰りましょう。お昼は何にしましょうか。」
笑顔のクレアが振り向いた。




