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約束と契約  作者: オボロ
97/114

#97 嵐の前



マリアは、自分の夢にB・Bと使い魔達が現れたことを、凪に話した。

夢の中でB・B達と話した後、ものすごい勢いで飛び起きたマリアの様子に、凪が気付かないはずもなく、息を切らせ、胸を押さえながら愕然としているマリアに、凪は聞いた。


「何を言われた?」


マリアの夢の中に、B・B、もしくは使い魔が現れた———と、前提しての質問だった。


「やはり、そのつもりか…。」


マリアが言われたことも、予想通りだったようで、あっさりしていた。

その上で、凪は自分の考えをマリアに話した。


「だが、物は考えようだ。一緒に連れて行くと言うのなら、マリアはジェシカの夢に入ることになる。その時に阻止することは、少なからず出来るはずだ。わたしも入ることが出来れば、状況は更に好転するのだろうが……。ふむ、それはいい。それは、わたしが何とかすればいいだけの話だ。」


だから、あまり気に病むな———と、言わんばかりに、マリアの頭にポンっと、軽く手を置いた。




驚いたことに、マリアの夢に現れてから、使い魔達は、ジェシカの周りに現れることを、ピタリとめた。

突然に現れなくなったペルシャ猫やイタチや大きなカエルを、クレアは心配していた。


「どうしちゃったのかしら。どこかで事故に遭ってなければいいけれど…。でも、良い飼い主さんに出会えていたなら、仕方ないわね。」


少し寂しそうでもあった。


使い魔達は、ジェシカとマリアを連れて行く準備を、本格的に始めたのかもいれない。

マリアにも凪にも、そんな考えが過ぎったが、それをクレアに話すことは出来なかった。




「夢の中に弓を持って行くことって、出来ると思う?」


マリアは、ベビーカーに乗ったジェシカと散歩をしているクレアの後ろ姿を眺めながら、凪に聞いた。

使い魔達が現れなくなったことは、マリアと凪にとっては都合が良かった。

使い魔達を追い払う時間も労力も失わず、ジェシカを守る為の対策が練れる。



今ではすっかり規則正しい生活のリズムを取り戻したクレアは、顔色も表情も明るくなり、ジェシカも、たくさんミルクを飲むようになった。

何処から見ても、幸せな親子だ。

ジェシカの笑顔と、ジェシカの笑顔を見ながら、嬉しそうに微笑むバーナードとクレアの姿を見て、マリアは、この三人の幸せな生活を壊したくないと、心から思った。

代わりにマリアが逝くのではない。


契約を破棄にする。


それは、琴音も言っていたことだ。

そこまでのことを、今回のことで、マリアに出来るとは思わないが、ジェシカから手を引かせることだけはしなくてはいけないと、マリアは改めて決意していた。


話し合いで済むのなら、それに越したことはないけれど、いざとなったら、弓を引く覚悟を持たなければいけない。

B・Bや使い魔達に言われた言葉で、一々弱気になってはいけない。

不安になってはいけない。

動揺してはいけない。


凪が言っていたように、ジェシカの夢に入れることはチャンスなのだと、マリアは自分に言い聞かせ、戦う為に此処に来たのだと、自分を鼓舞し続けた。



「一度、弓を抱いて寝てみたらいいんじゃないか?」


凪は、マリアの質問に応えながら、鼻で笑った。

マリアにだって、弓を抱いて寝たら、夢の中でも弓を抱いている———なんてことにはならないことは分かる。

それでも、戦う為には弓が必要になるかもしれないのだ。

マリアは考えるしかなかった。

その為に持って来た。

弓も、矢も。


「………。」


マリアは、黒翡翠を握りしめた。


今は、B・Bも使い魔達も現れず、静かだ。

まるで、嵐の前の静けさ。

だが、もうすぐB・Bも使い魔達も動き出すに違いない。


嵐は来る。


それまでに準備を整えたい。



「そろそろ帰りましょう。お昼は何にしましょうか。」


笑顔のクレアが振り向いた。







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