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約束と契約  作者: オボロ
96/114

#96 直接の交渉



「………。」


マリアは夢を見ていた。

マリアには、これが夢だと分かっていた。

しかも、この夢にはB・Bが居ると、確信していた。


場所は、以前の場所とは違っていた。

噴水があり、芝生があり、手入れがされた植木もあるが、公園ではなかった。

目の前に、大きな城がある。

外灯は無い。

少しだけ欠けた月とたくさんの星が、見渡せるほどの明かりを、マリアに与えている。


「………。」


マリアは、小さなベンチに、腰を掛けていた。

蚊取り線香の香りと、巫女神楽の音色は、わずかながらもマリアにちゃんと届いていた。


「やぁ、マリア。久しぶりだね。」


突然、B・Bの声を真横から聞いた。


「………っ‼」


ギョッとしたマリアが隣を見ると、黒いマントを羽織ったB・Bが、いつの間にかマリアの隣に座っていた。


「……っ!」


咄嗟に立ち上がったマリアの足元に、ペルシャ猫が現れた。


「にゃあおぉん」


ノラは甘えた声で一鳴きして、マリアの足元近くで丸くなった。


「……っ!」


ふと見ると、イタチもマリアが座るベンチの近くに現れていた。


「カァー」

「……っ‼」


B・B側の、ベンチの背もたれの端に、いつの間にか止まっていたカラスが鳴いた。


「………。」


これで三人。

他の二人も、きっと近くに居るのだろうと、マリアは思った。


「そんなに怖い顔をしないで、まぁ座って。別に君を驚かせるつもりじゃなかったんだ。ただ座って話がしたい。それだけだよ。」


B・Bは、言いながら、わずかな笑みを浮かべる。

マリアは、ムッとしながら言った。


「わたしも話したいと思っていたの。でも、使い魔達に見張られながら話すのは嫌だわ。どこかに行ってもらって。」

「いや、彼らも君と話がしたいらしい。同席を許してやって欲しい。」

「どういうこと?」

「なかなかに君のことを気に入っているようでね。まぁ、提案をしたいらしい。でも、まずは君の話から聞くよ。君の話したいことって何?」


B・Bは、ムッとしているマリアに柔らかい眼差しを向け、話し掛けていた。

今までで一番近い距離で見るB・Bは、穏やかで優しそうな笑みを浮かべていて、人が傷付くことは決してしない、出来ない人のように見えた。

マリアがそれを望めば、叶えてくれるのではないかと、マリアは思えて来て、言った。


「わたしね、ジェシカちゃんが生まれて来てくれて、嬉しかった。ジェシカちゃんが生まれて来てくれて、バーナードさんがわたしに会いたいって、言ってくれたわ。わたし、親戚の人に、会いたいって言われたの、初めてで……。ほら、契約のことがあって、わたしのこと、怖がっていたから…。でも、バーナードさんは会いたいって言ってくれて、会ったら、来てくれてありがとうって。クレアさんもありがとうって言ってくれたし、ジェシカちゃんは、わたしに笑いかけてくれる。声を出して、話し掛けてくれるの。嬉しいって思った。だから、まずはお礼を言わせて。ジェシカちゃんが生まれて来たこと、あなたのお陰でもあるから。」


「ずいぶん、間抜けなお礼だな。」


カラスが言った。


「生まれて来ても、すぐ死ぬことになるのに。」

「だから、お願いがあるの!」


マリアは急いで言った。

それを阻止するために、ジェシカの所へ来たのだから。


「君はいつもお願いばかりだ。」


ヴィゼが言った。


「ルイーザの時も、ミリアの時も、君はぼく達にはお願いしかしない。」

「だって、それしか出来ないんだもの。だから、お願いするしかないの。」

「まぁまぁ、聞くだけ聞こう。今回のお願いは何だい?」


呆れるヴィゼを宥めたのは、ノラだった。

ノラに促され、マリアは言った。


「わたしにしたように、ジェシカちゃんのことも、もっと大きくなるまで待ってみない?」


自分でも、変なことを言っているという自覚はあった。

連れ去る時期を先延ばしにするだけでは、解決にはならない。

だが、すぐではないのなら、阻止する方法を見つけることが出来るかもしれない。


「残念だが、マリアの時と違って、ジェシカには、成長させる理由が全く見当たらない。」


B・Bは、小さく両手を広げ、おどけて見せた。


「マリア、君には理由があったんだ。君は生まれた時、淡い光に包まれていた。何か強い力を秘めているに違いないと思い、生かした。しかし、今となっては、生かし過ぎたと後悔している。邪魔な狐も現れたことだしね。同じ過ちは繰り返さない。ジェシカは連れて行く。近いうちにね。それじゃあ、次は、こちらの番だ。ノラ、話しておあげ。」


他愛も無く拒否をされ、ショックを受けているマリアに、ノラは容赦なく言った。


「マリア、今回、ジェシカを連れて行くにあたり、君にも一緒に来てもらおうと思っているんだ。いい機会だろう?君は、もう十分に生きた。ジェシカを失ったバーナードとクレアも、君もだったら諦めが付くさ。逆に君だけが生き残ったなら、絶対に恨むと思うよ。君のことは勿論、トールのことも、朔乃のこともね。ついでに狐のこともか。狐は君だけを守ったことになるわけだからね。でも、君も一緒ならば、契約の所為———で、全てが丸く収まるんだ。ね?いい考えでしょう?」

「………。」


マリアは、すぐに言葉を返さなかった。


「今すぐに返事をする必要は無い。その時が来たら、決断すればいい。よく考えて、そして、心を決めておいて———」


「———っ!」


フッと、意識が遠退いた。

目の前の景色が一瞬にして暗くなり、自分の身体がどこか深い場所に落ちていくみたいな感じがした。


蚊取り線香の匂いが徐々に強くなっていく。

巫女神楽のも、次第に大きくなっていった。



「———はぁっ!」


マリアは飛び起きた。

まるで、水の中から出て来たような勢いだった。

息が苦しい。

鼓動が激し過ぎて心臓が痛い。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。」



君も一緒ならば、契約の所為———で、全てが丸く収まるんだ。ね?いい考えでしょ?


どこがよ‼



瞬時にそう言えなかった自分にも、マリアはショックを受けていた。







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