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約束と契約  作者: オボロ
91/114

#91 闘う準備



マリアは、トールがあちらこちらに連絡をしてくれていたことを知っていた。

あちらこちらに聞いてくれていたが、女の子が生まれる家を探し出すことが出来なかったことも知っていた。

そして、もう探す当てがないことも理解していた。

そのことに焦りを感じながらも、それを見せないようにして、合気道と弓道に力を注いでいるのは、マリアなりの優しさだ。

落ち込んでいたら、トールと朔乃が、きっと心配をする。

心配をさせず、合気道も弓道も上達するので、マリアにとっても良い方法であることは間違いなかった。


マリアは、合気道と弓道に力を注ぐ他にも、毎日、続けたことがあった。

祠への毎日の報告は、ずっと続けていることだったが、琴音にだけではなく、御弥之様にも届くようにと願いながら、マリアは相談をするようになっていた。


女の子の居場所が分かっても、どうやって守ればいいのか分からない。

B・Bと使い魔達と、どう戦えばいいのか分からなかった。


ヴィゼは、知らせに来て以降、一度も来ていない。

他の使い魔達も、姿を見せない。

生まれて来る女の子の今の状況が、全く分からなくて不安だ。


まだ生まれて来ていないのだろうか?

もう生まれて来ているのだろうか?

まだ大丈夫?

まだ連れ去られてはいない?


心配で仕方が無いのに、マリアにはどうすることも出来なかった。


黒い羽根を握って眠れば、再びB・Bと話すことが出来るだろうか?


そんなことまでも考えてしまった。


「以前、自殺に見せて連れて行ってしまった女の子が居たので、事故のように見せて連れて行く可能性はあるかもしれません。実際に現れて連れて行こうとするなら、その邪魔をすることは出来るかもしれませんが、夢の中に現れて連れて行こうとした場合、わたしに出来ることはありますか?今、夢の中にB・Bや使い魔達が現れていると、わたしが知る方法はありますか?わたしも夢の中に入ることは可能ですか?」


毎日している相談だった。

まだ、御弥之様からの返事は届いていない。

琴音からの返事も、凪から伝えられることはなかった。






「マリア、凪、パパが呼んでる。リビングに来てって。」


夕食の後、裏庭で弓の練習をしていたマリアと凪の所に、クリスが来た。

マリアと凪がリビングに行くと、家族全員が揃っていた。

一人用のソファーに、トールと朔乃はそれぞれ座っている。

クリスは大きなクッションの上に座っていて、アルフは中ぐらいのクッションの上に小さなクッションを抱えて座っていた。

マリアと凪は、三人用のソファーに並んで座った。


「揃ったね。まずは、クリスとアルフに話さなければいけないことがある。実は、二か月ほど前に使い魔がマリアに会いに来て、グレースの家に女の子が生まれることを教えたんだ。」


トールは、クリスとアルフに、事の成り行きを話した。

クリスとアルフは、最初驚き、見開いた眼でマリアを見たが、続くトールの話に耳を傾け、視線をトールへと戻した。


「それで、パパは親戚の家に連絡をして、もうすぐ子供が生まれる人は居ないか聞いたんだ。でも居なかった。だから、女の子が生まれることは分かっていたけれど、どこの家に生まれるのかは、ずっと分からないままだった。ここまでは、いいね?」

「うん。」


話をいったん終えたトールが、クリスとアルフに聞くと、クリスとアルフは頷いた。

返事をしたのはクリスだけだったので、アルフが本当に理解しているのかは分からなかった。


「今日、バーナード・グレースという人から手紙が来た。女の子が生まれたと書かれていた。」


アルフの目が輝いた。

嬉しそうに顔を綻ばせて、今にもおめでとうと言いそうだ。


「助けて欲しい、マリアに会いたい———とも、書かれていた。」


アルフの嬉しそうな顔は一瞬で強張った。

アルフは怯えるような目でマリアを見て、クリスは心配そうにマリアを見た。


「会いに行く!」


マリアは、怯えるような目で見るアルフのことも、心配そうに見ているクリスのことも、目に入っていなかった。


手紙が来た。

女の子が生まれた。

助けて欲しい。

マリアに会いたい。


それらの言葉だけで、気持ちが高ぶった。


どこの家に生まれてくるのか分からなくて、もう生まれているのか、まだ生まれていないのかも分からなくて、不安だった。

生まれてくること以外、何もかも分からないままだったのに、突然に全部が解決した。

会いに行かない選択肢は、マリアには無かった。


そう言うだろうと思っていたトールと朔乃は、溜息を吐いた。


「凪、君はどうする?」

「もちろん、わたしはマリアと共に居る。琴音には?」


トールの問いに、凪は即答し、話は更に進み始めた。


「手紙を書くつもりだ。でも、君の方からも伝えてくれ。そして、何か策があるか、聞いて欲しい。」

「わかった。すぐに準備を始める。そちらも準備を始めて欲しい。」

「まずは相手方に手紙を書かなくては———」


凪とトールが出発の準備についての話を始めた。

すると、


「マリア。」


アルフがちょこんとマリアの隣に座った。


「助けに行くの?」

「うん。助けたいって、思っているよ。」

「弓でやっつけるの?」

「え?」

「弓でやっつけるんじゃないの?それで、マリア、ずっと練習してるんでしょ?」

「………。」


アルフに聞かれ、マリアは弓を始めた理由は、琴音に言われたからだと言おうと思った。

だが、琴音はどうだったのだろうかと考えてしまった。


自分の身を守る為だと言っていた。

それは、自分の身を守る為にB・Bを討てということだったのだろうか?

討てるだろうか?

いざとなったら、B・Bに向けて、弓を引くことは出来るだろうか?

いや、引かなくては。

女の子を守る為に必要だと思ったら、弓だって何だって引かなくてはいけない!


「そうね。必要なら、弓でやっつけるからね。」

「うん。頑張ってね。」


満足げに笑うアルフを見て、この答えでよかったのだと、マリアは思った。


その日からのマリアの家は慌ただしかった。

トールは、マリアとマリアに付き添う大人を1人、バーナード宅まで車で送ると、手紙に書いた。

バーナードの手紙に、旅費と交通チケットを送ると書いてあったので、それを断るつもりの“車で送る”でもあった。

マリアと凪だけを置いて戻るのは、親として、とても心配ではあるけれど、家族全員で行くわけにはいかないし、トールも一緒に残ったところで、出来ることは無い。

マリアを心配して、マリアがしようとすることを止めてしまうのが関の山だ。

トールと朔乃は、苦渋の決断で、マリアと凪だけを行かせることにした。


バーナードからの返事は、すぐに届いた。


素晴らしいお返事をありがとうございます———から始まったバーナードからの手紙は、感謝の言葉で埋め尽くされていた。



マリアさんが会いに来てくれるなんて、感激です。

すごく嬉しいです。

マリアさんに会える日が、今からとても待ち遠しい。

わたしは勿論、妻のクレアも、トールさん夫婦とマリアさんの決断に感謝しています。

本当にありがとうございます。

本当に感謝します。


遠い道のりになりますが、気を付けていらしてください。


娘のジェシカも、きっと喜んでいると思います。

会ったらぜひ、抱っこしてあげてください。



「………。」


手紙を読んで、マリアは嬉しくなった。


待っていてくれる。

喜んでくれている。


期待に応えなければ——と、自分を鼓舞した。



「………。」

「………。」


手紙を読み、決意を新たにしているマリアの隣では、手紙が入っていた封筒の中からプリペイドカードが出て来たのを見て、トールと朔乃ががっかりしていた。






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