#09 使い魔達の侵入
マリアが通うニコラス学園は、11歳から16歳までの男女が通う私立校だ。
各学年にクラスは7つ。
1クラスが16人から20人なので、生徒数は全部で630人前後というところだろう。
歴史を感じさせる造りと、伝統を重んじながらも時代に合った教育方針が人気を集め、遠くからでも我が子を通わせたいと思う親が後を絶たない。
いつの時代も子に対する親の心は変わらず、時として、それがエゴになることにも気付いていない。
「本当に、愚かな生き物だ………。」
一匹の猫が、高い塀の上から学園を眺めている。
野良猫にしては珍しい、白い毛並みの綺麗なペルシャ猫———ノラだ。
ノラは、ふさふさのよく手入れがされている真っ白な毛を靡かせながら、ふわりと学園の敷地内に飛び降りた。
ニコラス学園は広い。
広い敷地内は、たくさんの緑で溢れている。
元々あった森もあれば、人工的に植えられた木々もあり、芝生もあるし、花壇もある。
学校だと知らずに迷い込んだら、公園だと思う者もいるだろう。
種目別に分かれている運動場が幾つも見える。
何処に何があるのか、覚えるだけでも大変そうだ。
「こりゃ、すごいわ…。」
一羽のカラスが呟いた。
校庭の隅にある木々の中でも、一番高い木の枝に止まり、広い学園を見渡している。
隣の木の枝には、コウモリがぶら下がっていて、その下の方にはイタチが居た。
「さて、まずはどこに潜入するか、だな。」
クロが言った。
頭を使うことが、あまり得意ではないクロに、潜入できる場所は限られている。
「計画はあるのか?」
バトが聞いた。
バトの方が、クロよりも頭を使うことは、得意だ。
クロが躊躇うことなく「ない」と言い切ると、そんなことだろうと思っていたみたいに溜息を吐いた。
「計画も無く、行き当たりばったりかよ………。」
「へへ、スゲーだろう?」
危機感のないクロは、自分の無計画さを、本番の強いヤツと勘違いしている。
そういうところが頭の弱い所だと、バトもヴィゼも思った。
それを言ったところで無駄なことも分かっている。
「どうでもいいけど、俺を巻き込むなよ。」
バトは、ひと言言い捨て、飛び立った。
東の校舎を目指して飛んで行く。
「あいつ、なんであっち?」
クロは聞いた。
バトが向かっている方向を見ながら聞いた後、下の方に居るヴィゼを見た。
ヴィゼは、自分しか答える者が居ないので、仕方なく答えた。
「東棟は、この時間、日が当たらない場所が多いからね。バトには都合がいいんでしょ。」
バトについて行こうと思っていたのに、飛んで行ってしまわれては、ついて行くことが出来ない。
答えるヴィゼの声は不機嫌だった。
もちろん、クロは、そんな些細な変化には気づかない。
「ふーん」と言いながら、バトが飛んで行った方向と、その手前にある運動場を見て、何かを考えている。
どうせ、禄でもないことを考えているに違いない———と、ヴィゼは思った。
クロの目線の先にあるのは、サッカーグラウンドだ。
考えていることが分かり過ぎて、頭を抱えたくなった。
「じゃ、オレも行くわ。」
クロは弾むような声で言って飛び立った。
目指しているのは、サッカーグラウンド近くにあるイチイ並木のようだった。
何がしたいのか———なんて、ヴィゼには丸わかりだが、言ったところで無駄だと分かっているので、黙って見送り、様子を見ていることにした。




