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約束と契約  作者: オボロ
89/114

#89 難航する人探し



グレース家に女の子が生まれる———と、ヴィゼが知らせに来た。


グレース家に生まれた女の子は、大昔に交わした契約により、3歳まで生きることが出来ない。

実際に、3歳まで生きた女の子はいなかった。

ただ1人、マリアを除いては。


ヴィゼがわざわざマリアに知らせた理由は、『教えた方が色々と愉しいんじゃないかなって、思ったからさ。』だった。

仕掛けられた挑発に、みすみす乗るのは嫌だと思いながらも、このまま何もせずに居ることは、マリアには出来ないだろうと、凪は考えていた。

そして、その考えは当たった。


「あの使い魔は、いつ生まれるのか、言わなかったわ。でも、生まれることは知っていた。今はまだお腹の中に居るってことよね。」


マリアは独り言のように言った。


ヴィゼから話を聞いた、その直後から、マリアは、ぼーっとしている時間が増えて、朔乃もトールも不思議そうにしている。

2人はまだマリアに聞いていないし、マリアも2人に相談していないが、それも時間の問題だろうと、凪は思っていた。


マリアは考えていた。


まだ生まれても居ないのに、お腹の中の子供は女の子だと、お医者様には分かるのだろうか?

それを教えてもらうことは出来るのだろうか?

契約のことを知っていたなら、教えて欲しいと思うだろうか?

女の子だと分かったら、どうするのだろうか?

不安になるだけなのではないだろうか?

ならば、知らないままの方がいいのでは?

もしも、女の子が生まれることを知らずに居るのなら、わざわざ女の子が生まれると、知らせることは、果たして本当に良いことなのだろうか?


まだ子供であるマリアには、難しい問題だった。

それでも、今はまだ生まれていない女の子も、やがては生まれて来るのだ。

何も知らずに、何も出来ないまま、この世に生まれて来るのだ。

B・Bは、使い魔達は、連れて行くつもりだろう。

契約だから———と、当然のように、当たり前のように……。

どうすればいい?

どうすれば、連れて行かせないようにすることが出来る?

ずっと傍に居る?

ずっとその子の傍に居れば、守ることが出来るのだろうか?


「………?あれ?」


ずっと傍に居るって何処に?

今はまだ生まれていないが、女の子は何処に生まれて来るのだろう?

どこに住んでいるグレース家の女の子なのだろう?


「……‼」


マリアは、生まれて来る女の子のことばかりを考えていて、肝心なことを失念していたことに気が付いた。

女の子が生まれると、知らせる方がいいのか、知らせない方がいいのかで悩む前に、どこのグレース家に生まれて来るのかを知らなければならなかった。


グレースの一族は少なくない。

ラフパラ―に住んでいるマリアの祖父にも兄弟は居るし、曽祖父にも兄弟はきっと居る。

会ったことも無い遠い遠い親戚に、「もうすぐ子供が生まれる人は居ますか?」と、聞いて回るなんてこと、出来るはずがない。


マリアは、早々に難問と向き合うこととなった。






「パパ、ママ、相談があるの。」


マリアは、その日の夜には相談していた。

悩むことに費やす時間を、もったいないと、思った結果だった。

食事が終わり、子供達が寝付いた後の夫婦水入らずの時間に、マリアは2人の部屋を訪ねた。

トールと朔乃は、マリアの珍しい訪問を不思議に思いながらも、マリアの様子が、この日、ずっと可笑しかったことには気付いていたので、快く部屋の中に招き入れた。


「B・Bの使い魔が来て教えてくれたの。」


マリアは早速要件を口にしたが、最初に口にした単語が良くなかった。


「使い魔だって⁈」

「使い魔って、使い魔⁈いつ来たの⁈ママ知らないわよ!」


使い魔と聞いた途端にトールと朔乃は驚き、話を先に進めることが出来そうもない。

しかし、使い魔の話を長々とするつもりのないマリアは、とにかく話を先に進める為に、トールと朔乃を落ち着かせた。


「わかったから。わかった。落ち着いて。いつ来たとかはいいの。使い魔は、目的は兎も角、ただ知らせに来ただけだから。ね?落ち着いて。お願いだから落ち着いて聞いて。相談したいことがあるの。知らせに来た使い魔は、グレース家に女の子が生まれるって言っていたわ。女の子が生まれるってことだけで、どこのグレース家に生まれるのかは教えてくれなかったの。だから、ラフパラ―のおじいちゃんに聞いてもらえないかな?もうすぐ子供が生まれる親戚の人は居ませんか?って。」


「………え?」

「もう一回、言ってくれる?」


トールと朔乃は、一気に話をしたマリアの言葉の内容を、瞬時には理解することができなかった。

マリアは、もう一度言った。


「B・Bの使い魔が、グレース家に女の子が生まれるって教えてくれたの。でも、どこの家に生まれるのかは教えてくれなかったの。だから、ラフパラ―のおじいちゃんに、もうすぐ子供が生まれる親戚はいないか聞いて欲しいの。」


「聞いてどうするの?」


朔乃が恐る恐る聞いた。


「助けに行く。」


「……!」

「……‼」


その時のトールと朔乃の驚いた顔は、夏に黒石神社で見せた怒りにも似た驚いた顔とは違っていた。

夏に琴音と話したことや、ミリアのことがあったり、クリスとアルフにも話したことで、ある程度の覚悟と免疫がついたのかもしれない。

止めたところで無駄であることも、もう分かってしまったのかもしれない。


「時間はかかると思うぞ。」


トールが言った。


「教えてくれない可能性だってあるわ。」


朔乃も言った。

それでも、マリアは諦めなかった。


「でも、分かるかもしれない。教えてくれるかもしれない。」


「わかった。やってみよう。」

「わたしも協力するわ。だから、マリアも約束してね。勝手に一人ではやらないって。話してくれてありがとう。今日はもう休みなさい。」


快くではなく、仕方がないという風ではあったが、トールも朔乃も、マリアへの協力を約束した。

マリアへのけん制も忘れていなかった。


そして、トールは実行した。

ラフパラ―に住む父親の所へ連絡をして、もうすぐ子供が生まれるという親戚は居ないか尋ねてみた。

尋ねてみたが、ラフパラ―の祖父は、あまり協力的ではなかった。


「もうすぐ子供が生まれる人?知り合いにか?え?親戚で?なんだってそんな人を探しているんだ?いや、聞かないね。最近は全く聞かない。親戚で子供が生まれるって話だろう?グレースの?グレースの方なら尚更だ。生まれる前に生まれるなんてこと、話さないだろうさ。まぁ、男の子が生まれたなら、生まれたって話はするだろうが……。ほら、おめでとうって、言ってもいいモノかどうか、悩むだろう?だから、生まれる前に家族以外の人に話すってことは、たぶん、しないと思うぞ。」


その後も何度か連絡をして、親戚達に聞いてみて欲しいと頼んでみたが、快い返事はもらえなかった。

仕方が無かった。

グレース家では、子供が生まれることは、必ずしも喜ばしい事ではないのだから……。

そうなると、トールは直接、従兄弟いとこ達に連絡を取るしかなかった。

しかし、トールは、マリアが生まれてから、ずっと親戚達との交流を断っている。

女の子を亡くした経験のある親戚は、一人や二人ではないはず。

ずっと交流を断っていた兄弟と、しばらくぶりの再会を決心したのは、マリアの後押しがあったからだ。

本当に久しぶりの再会だったが、会ってしまえば思ったほどの壁は感じなかった。

だからと言って、従兄弟達とはどうだろうか?


「………。」


これは、トールにとっても難しい問題だった。




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