表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束と契約  作者: オボロ
85/114

#85 違和感


「………。」


セント・フォリラム病院の中庭にある、一際大きなハシバミの木に横たわりながら、B・Bは、ぼんやりと思いにふけていた。


今日は、クリスマス。

世界中とは言わないが、此処イギリスでは、大半の人間が浮かれている。

B・Bが今いるセント・フォリラム病院でも、見える窓のほとんどから、病室に飾られたクリスマスツリーを垣間見ることが出来た。

自宅へ帰ることが許されなかった患者の元に、家族達が訪れている。

笑い声が聞こえる部屋もあれば、クリスマスメロディを流しているだけの部屋もある。

それぞれが、それぞれのクリスマスを迎えている。


今年一年の幸せに感謝し、来年の幸せを祈る日。



全く気分の悪い日だと、B・Bは思った。



自分が天使だった時のことは、もう忘れた。

自分の本当の名前も忘れてしまった———と、思っていた。

だが、思い出さないようにしていただけだったようだ。

最近、ふと、思い出す時がある。


『——あなたはどうして堕天使になってしまったの?——』


マリアに聞かれたのが、きっかけだった。


わたしは、間違っていたのだろうか?

今は、もう望むことは無いが、当時は、本気で望んだ。

願った。

叶うものと思っていた。

愚かだったのだろうか?


「………?」


ふと思い返せば、今も愚かなことしているのではないかと、思う。


なぜ、あの娘を無理やりにでも連れ去らなかったのか。

連れ去る機会は幾らでもあったのに……。

もたもたしていたから狐が現れ、簡単に連れ去ることは難しくなってしまった。


不思議な娘だと思う。

他人の為に苦しみ、悲しみ、涙を流す。

生まれた時、不思議な光に守られていた。

光が消えてから、しばらく経ったる日、不思議な力に守られていた。

やがて狐が現れ、その身をていして守っている。

狐は、神の使いだという。

神の使いが人間の娘を守っているという。


神の使いに守られているマリアは、一体、何者なのだろうか?

なぜ、こんなにもマリアが気になってしまうのだろうか?


ミリアの病気に気付いたのは、本当に偶然だった。

マリアに話しかけているミリアの身体からだに、陰があった。

そこに闇が潜んでいるのだと、B・Bは、すぐに理解した。

しかし、ミリアは自分の身体からだの異変に、全然気付いていないし、気付く様子もなかった。

陰は少しずつ広がっていった。

少しずつ、少しずつ広がっていくも、誰一人として気付く者はいないし、ミリア自身、不調を感じる様子はない。


そのまま放っておいても良かった。

放っておけば、確実にミリアは死んだ。

直接に手を下さなくても、ミリアの死に際に立ち会い、命のエネルギーだけをいただくことは出来た。

ミリアの死によって悲しむ人達の負のエネルギーも得ることが出来た。

早期発見の手助けなど、する必要は無かったのだ。


なのに、なぜ?


「なぜだろうな……。」


ミリアの病気を知ったマリアが、どういう行動を取るのか、見たかった。

ルイーザよりも身近な存在の危機に、どんな顔をして、どんな行動を取るのか、見たかった。


案の定、マリアは行動した。

必死な顔をして、自分の危険よりも、ミリアの身を案じていた。


マリアは、B・Bのことにも興味を持っていた。

B・Bのことを知ろうとしていた。

色々な本を読んで、調べている様子だった。

知ったところで、何も変わらないというのに……


「不思議な娘だ………。」


本当に不思議な娘だと思う。

悪魔に命を狙われているというのに、悪魔と二人きりになる事さえいとわない。


B・Bは、マリアのことを考えているうちに、クリスマスであることにイラついていた気持ちが、いつの間にか落ち着いていることに気が付いた。


「………?」


ふと、見上げた視線の先に、意外なモノを発見した。

おそらくは人の目には映らないだろう、大きな白い狐。

大きな白い狐の背には、毛に埋もれながら祈りを捧げるマリアが居る。

マリアが祈りを捧げている先にあるのは、セント・フォリラム病院の一室だった。

そこは、ミリアが入院している部屋だった。


B・Bがマリアを見詰めていると、大きな狐の目がこちらを向いた。

B・Bと目が合った。

狐は睨むでもなく、ただ見ていた。


まるで試すように…


やがて、マリアが何かを狐に言い、すると、狐はくるりと体の向きを変え、走り去って行った。

B・Bは、その後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。


お前は、何をしているんだ?

お前は、何がしたいんだ?


狐の目が、そう聞いていたような気がした。

落ち着いて居たはずのB・Bの気持ちは、次第にイラついていった。


なぜ、狐に上からの物言いをされなければならない。

わたしがしたいことなど決まっている!


今夜、ミリアに会いに行こう。

辛い治療から逃げることを勧めよう。

どうせ治らないのだから。

辛い治療は、ずっと続くのだから。


ミリアは泣くだろう。

ミリアの両親は悲しむだろう。



マリアは悲しむだろうか?



「………。」


以前までなら湧き上がっていた、愉しくて心地良い、わくわくとした感情が、なぜか全く湧いて来なかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ