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約束と契約  作者: オボロ
84/114

#84 クリスマスの夜に願いを込めて


クリスマスの朝、マリアの家でも美味しそうな匂いがキッチンから漂い、クリスマスツリーの下には、たくさんのクリスマスプレゼントが置かれていた。

一番初めに目を覚まし、動き出したのは、アルフだった。

アルフは、家の中を走って家族を起こして回り、クリスマスツリーを目指した。

マリアもアルフに起こされた一人ではあるが、はしゃぐアルフにつられて、わくわくしながらリビングに向かった。


マリアが夢の中でB・Bと会ってから、数日が経って居た。


マリアが目覚めた時、マリアのベッドの傍には家族全員が揃っていて、全員が全員、マリアが目覚めたことに喜んでいた。

いつもよりも2時間ほど遅い時間に、マリアは目覚めた。

かなり長い間、名前を呼ばれ続けていたようだった。

凪を含め、家族達は、なかなか目覚めないマリアの様子に、このまま連れて行かれてしまうのでは無いかと、危険を感じていたらしいが、マリア自身は、連れ去られる危険を全く感じていなかった。

夢を見ていたわりにだるさは無く、むしろぐっすりと寝た後のような、すっきりとした感覚に満たされていた。


B・Bに連れて行かれそうになった自覚は無いが、もしかしたら、本当は危なかったのだろうか?


そんな疑問を持つほどに、家族達は喜んでいた。


マリアは、夢の中での遣り取りを、時々ふいに思い出す。


夢の中で会った時、あくまでもマリアから見た限りではあるが、B・Bは、そのままマリアを連れ去ろうとはしていなかった。

ただ、二人で話をしただけ。

そんな風にしか見えなかった。


色々な話をした。

話をしている間、マリアはB・Bを怖いとも憎いとも思わなかった。

B・Bのことを、少しだけだけれど、知ることが出来たような気がする。


悪魔には、なりたくてなったわけではないこと。

グレース家との契約は、グレース家を狙ってのことではなく、たまたま利害が一致しただけのこと。


たまたま利害が一致しただけ………


「それって……」



「マリア!早くプレゼント開けて見せてよ!」



「‼」


アルフの声でハッとした。

マリアは、プレゼントを開けていた手を止めていた。

マリアが開けようとしている一際大きなプレゼントには、アルフの羨望の眼差しが向けられていた。


「わぁ!」


プレゼントを開けた時の、マリアの第一声はこれだった。

びっくりした。

高価な物だと思い、欲しいとは言えなかった物が入っていた。


弓だ。


不知火武術弓道場で不知火先生に借りていた弓よりも、少し大きいように思えるが、綺麗な漆黒の弓だった。


「すごい!」


箱から弓を取り出すと、アルフが叫んだ。


マリアは、取り出した弓を抱えて、トールと朔乃を見た。


「すごくうれしい‼」


トールと朔乃も嬉しそうに微笑んでいる。


「他のプレゼントの中に、弓矢もあるかもね。」


いたずらっぽい笑みを浮かべて、トールがウインクをした。



食事には凪も参加した。

凪は、プレゼントでもらった、トナカイの顔の柄が大きく真ん中に入った赤いセーターを、強制的に着せられていた。

みんなでクラッカーを鳴らし、七面鳥の丸焼きを食べ、クリスマスプティングを食べた。

食事の後は、トランプやジェシカ、チェスをして遊んだ。

お酒を飲んでいたトールが居眠りを始めたのを機会に、朔乃が就寝を宣言して、グレース家のクリスマスは終了した。




「凪、お願いがあるの。」


裏庭に向かおうとしていた凪に、マリアは声を掛けた。

凪に声を掛けるマリアに気付きながらも、朔乃とクリスは、気付かない振りをしていた。

何をお願いするのか、おおよその見当がついて居たからだ。

おそらく、凪も。


そして、その後、慌ただしく用意をしたマリアは、ロンドンの空を移動していた。


クリスマスの夜は、空から見ても鮮やかなイルミネーション華やかで、街中が輝いて見えた。

道路を走る車のライトは、ぽつりぽつりとまばらだ。

皆、自分の家でクリスマスを迎えているのだろう。


マリアは、凪の背で、凪の毛にうずもれながら、空から地上を眺めていた。


目的の場所に着いた。

以前はもっと遅い時間に来たので、地上に降りることが可能だったが、今回は人に見られてしまう恐れがある為、地上には降りず、くうに浮いたまま、遠目から眺めるだけにした。


ミリアは、やつれていた。

顔色も、あまり良くなかった。

けれど、笑っていた。

父親のフレディと、母親のジュリアンも居て、三人で笑っていた。

小さなクリスマスツリーが、窓際に飾られている。


『———わたしはミリアに聞くだろう。このまま辛い治療を続けるか、楽になるか。さて、ミリアはどちらを選ぶだろうな。』


おそらく、B・Bは本当に聞くだろう。

マリアは祈ることしかできない。


どうか諦めないで。

B・Bにまどわされないで。

辛くても生きることを選んで欲しい。

生きることを諦めないで欲しい。


マリアは、遠くに見える笑顔のミリアを見詰め、そう、祈り続けた。


凪は、マリアが帰ると言うまで、黙って、その場に居続けた。





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