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約束と契約  作者: オボロ
83/114

#83 対話



「わたしにとっては、間違っていないと思えることが、神にとっては、絶対にありえないことだった……。ただそれだけだ。」



B・Bは、堕天使となった理由を、そう言った。

遠い昔を思い出すような口調で、しかし、詳しくは話したくない様子だった。


「今は、間違っていたと思ってる?」

「いや。だが、もう口にすることは無いだろうとは、思っている。」

「どうして?」

「口にしたところで、もう叶わないことだと、今は分かっているからな。くっく…。そんな顔をするな。」


悪魔になってしまったから?———と、聞こうとして止めたマリアの顔を見て、B・Bは笑った。

天使であったなら叶うだろうと思えたこととは、一体何だったのだろうかと、マリアは気になった。

だが、それを聞いても、B・Bは絶対に教えてくれないだろうことも、マリアはB・Bを見て感じ取っていた。


「神様は嫌い?」

「そうだな。お前は好きなんだろう?関係者だからな。」

「人間も嫌い?」

「人間か……。人間を観察するのは好きだ。」

「観察?」

「人間の喜怒哀楽は、見ていて楽しい。特に幼い子供は、分かりやすいからな。」


優しく微笑むB・Bを見て、もしかしたら子供好きなのかもしれないと、マリアは勝手に思う。


「だから、使い魔の子達、みんな子供なの?」


B・Bの使い魔達は、ヒトの姿になると、みんな子供だった。


「子供が好きだから、みんな子供なのかなぁ……と。」


間違っていないと思ったのだが、B・Bが余りに驚いた顔をしたので、マリアは間違っていたことに気付いた。

急にしゅんと気落ちしたマリアを見て、B・Bはくすりと笑った。


「あれ達は、まだ魔力が補足されていないから、子供の姿であるだけだ。わたしの趣味で子供の姿にしている訳じゃない。」

「そうなの?」

「あぁ。まぁ、わたしの所為ではあるがな。」

「どういうこと?」

「ふふ…、そこまでは、まだ教えてあげるわけにはいかないな。この距離だからね。」


踏み込んで聞くマリアに、B・Bは言った。

大きな木の太い根の上に、二人は並んで座っているが、マリアとB・B、二人の間には、大人二人が余裕で座れるほどの距離が開いていた。

B・Bが手を伸ばしても届かない距離を、マリアは確保していたのだ。


距離を詰めるつもりのないマリアは、話を変えることにした。


「いいわ。じゃあ、グレース家に目を付けたのは?」

「利害が一致しただけだ。グレース家を狙っていたわけじゃない。我々の利害と一致したのが、たまたまグレース家の、マリアの先祖だった———というだけのことさ。」

「契約を破棄する方法は?あるの?」


どさくさに紛れて聞いてみる。


「さて、どうだろうね。それを、わたしが教えると?」

「この距離が縮まったら、教えてくれる?」

「ははは。それはどうかな?試してみるかい?」


さすがに教えてはもらえなかった。


「どうしてミリアなの?」


マリアは再び話を変えた。


「たまたまさ。」

「たまたまでミリアなの?何が決め手?」

「うーん。なかなかに鋭い質問だね。」

「………。」


B・Bが話をはぐらかさないように、マリアはじっとB・Bの赤い瞳を見つめていた。

人でも悪魔でも、話をはぐらかせようと思ったら、瞳が不自然な動きを見せるはずだと思ったからだ。

不自然な動きを見せたなら、すぐさま詰め寄るつもりのマリアの顔は、まるでB・Bを睨みつけるような表情になっていた。


「わかった。わかった。そう睨むな。」


B・Bが観念した。


「病気を抱えていたからだ。」

「最初から病気だったの?」

「そうだ。早期発見で良かっただろう?」


驚くマリアに対して、誇らしげに口の端を上げるB・Bを見て、マリアはなぜかざわざわとした嫌な感じがした。


「ミリアは助かる?」

「さあな。」

「助ける為に事故に遭わせて早期発見させたんでしょ?そうでしょ?そうよね?」


マリアの必死さは、B・Bを愉しくさせるだけなのかもしれない。

B・Bは徐々に笑みを深くして、マリアの不安を煽った。


「病気を治すのは、医者ではないのか?助けることが出来るか出来ないかは、医者の腕次第なのでは?わたしに聞くのはお門違いだ。だが、わたしはミリアに聞くだろう。このまま辛い治療を続けるか、楽になるか。さて、ミリアはどちらを選ぶだろうな。」


「治療を続ける——よ‼」


マリアは叫んだ。


「ミリアは弱くないわ!ミリアは一人じゃない‼」


しかし、段々と声は小さくなり、弱弱しくなった。


「お願い。ミリアをそそのかさないで。ミリアは十分に頑張っている。これ以上、苦しませないで。」

「苦しませたくないなら、楽にさせてあげればいいじゃないか。」

「逃げることは、楽になることじゃないわ。」

「苦しむことが、助かることでもない。」


それは確かにそうだと、マリア思う。

しかし、そういうことでは無いのだ。


「苦しむだけで、助かる見込みがないと分かったら、お医者様がミリアに選択をさせるわ。」

「医者ならば、許せるのか。」

「お医者様が治せないと判断したなら、誰にも治すことは出来ないもの。」

「ふっ……。お前の先祖は、わたしに助けを求めたがな。」

「代わりに、たくさんの命を失ったわ。契約をしてしまった先祖は、きっとこんなことになるなんて思ってもいなかったんだろうし、契約をしてしまった後は、物凄く後悔したと思う。ミリアの家族は、悪魔に頼んだりしないし、そんなこと、思い付きもしないわ。」

「わたしがミリアに話せば、それも一つの方法だと知ることになるが?」

「それが何?ミリアが、ミリアの家族に、悪魔に頼んで欲しいって?そんなこと、頼むわけないじゃない‼」


馬鹿にするな!———と、言わんばかりにマリアは叫んだ。

マリアの先祖は、きっと助けたいと思うあまりに、愚かな選択をしてしまっただけ。

ミリアは、自分が死にたくないからと、両親を悪魔に関わらせようとするはずがない。

ミリアの両親もそうだ。

縋るならば——神に——だ。

決まっている!

助からないと分かったならば、辛いけれど、悲しいけれど、楽しかった思い出と共に召されることを望むだろう。

怖いのは、ただ怖いのは、B・Bが弱ったミリアの心に付け込んで、甘い言葉で唆し、治療を放棄させること。

治療を放棄したミリアに待っているのは、おそらく———『死』———だけ。

ミリアの病気はB・Bの仕業ではなかったと分かったからには、マリアのすべきことは一つだった。


「ミリアを唆すのは、やめて。ミリアの夢の中に、現れないで。」


マリアは頼んだ。

B・Bの目をまっすぐに見て、熱意を込めて頼んだ。


「それで?マリアの夢になら、現れてもいい?」


B・Bは、自分優位のこの状況に、嬉しそうな笑みを浮かべた。





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