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約束と契約  作者: オボロ
76/114

#76 自主練と病院侵入計画


不知火武術弓道場に通うようになってから2週間ほど経った頃、琴音からマリア宛に小包が届いた。

まだクリスマスには早い———と、不思議に思いながら開けてみると、弓道初心者が最初に使って練習をするゴム弓が入っていた。

添えられたカードには、こう書かれている。


早い上達には自主練が不可欠です。

頑張ってください。


ようやくやっと弓を習い始めることが出来た事を、マリアは祠に向かって報告をした。

予定よりもかなり遅い報告となってしまった。

ミリアのことも報告してある。

急がなければならないことを、琴音は分かっているから、自主練を勧めることにしたのだろう。

1日でも早く、まともに弓を扱えるようにならなければならない。

今のマリアは、弓を引くための力が、圧倒的に足りなくて、弓道場へ行ってやることと言えば、射法八節の正しい動きを、ひたすらに覚えることと、その正しい射法八節で、ひたすらにゴム弓を引くことだった。


随分と寒くなったので、祠に手を合わせる以外の目的で裏庭に出る機会は、かなり減ってしまった。

凪はヒトの姿で居ることが多くなり、日中のほとんどの時間を家の中で過ごすようになっていた。

弓の自主練は、マリアの部屋ですることにした。

全身鏡で確認しながらだと、目線が全身鏡に動いてしまい、正しい射法八節の動きではなくなってしまうので、姿勢は凪に見てもらいながらにすることにした。


的の場所を想定し、その場所を見ながら立ち位置を整える。

膝に力を入れず、足裏全部に体重をかけ、下半身を安定させる。

体をねじらず、一枚板を通したように背筋を伸ばす。

呼吸を整え、弓を構える。

水平に、胸を開くようにしてゴムを引く。

ゴムが離れた時が矢を放った時と理解し、弓を下ろし、足を閉じる。


この一連の動作を美しく行わなければならなかった。



『弓道は、日本の武術の中で最も美しいと、わたしは思っています。なので、くれぐれも美しく。わかりましたね。』



一連の動作を教えた不知火先生が、力強く言った言葉だった。

なので、マリアは、その一連の動作を、徹底的に体に覚えさせることにした。

何度も繰り返し、体に覚えさせれば、誰かに確認してもらわなくても、美しい一連の動作が自然と出来るようになるだろうと思った。


自主練の他にも、マリアにはやらなければならないことがあった。

ミリアが手術をする前に、どうしてもミリアと話をする必要があった。

B・Bが関わっているのかいないのか、その確認もしたいし、B・B対策の為の布石も打っておきたい。

後悔はしたくない。

その為の方法を、マリアは凪と相談していた。

問題は、ミリアと二人きりで話をする方法だった。

ミリアの母・ジュリアンは、誰も見舞いに来させないつもりだと、朔乃は言っていた。

それに、ミリアは二人きりで話をしても、本心を言ってはくれないかもしれない。

なので、ミリアが本心を語ってくれる状況から作らなければならなかった。


B・Bには、人の心の中に入り込む能力が、きっとある。

その能力で、ルイーザはたぶらかされてしまったに違いない。

人の心の中に入り込むことは出来なくても、同じような状況にすることが出来れば———と、マリアは思うのだが、これはと思う良い方法は全く思い付かなかった。


「病院の就寝時間は8時。ナースが就寝確認をしたら、コールをかけない限り、朝まで病室には来ない。夜中なら、ミリアと二人きりになれるわ。」

「夜中はミリアも寝ているのでは?わざわざ起こすのか?」

「寝ているミリアと話をする方法は無い?」

「そんなものは無い。」

「夢の中でなら、ミリアも本音を言ってくれると思うんだけどなぁ……」


マリアは残念に思った。

心の中に入り込むことは出来なくても、夢の中に入ることが出来たなら、きっとミリアは本音を話してくれるに違いない。

これは、かなり良い方法だと思うのだが、その方法がないのでは無理だった。


「何か、いい方法、ないかなぁ。」


マリアは頭を抱えた。


おそらくは、ミリアの手術の日は近い。

もう時間はなかった。





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