#74 密かな公認
「わたしはミリアに会いたい。」
マリアは、ミリアの入院にB・Bが絡んでいる気がすると、家族に打ち明けた。
B・Bが関わっているならば、黙っている訳にはいかないのだ。
「ミリアのクリスマスカード、別に変なところは無いように思うけど……。」
ミリアからのクリスマスカードを見ながら、クリスは言った。
アルフも背伸びをして覗き込んでいたが、不思議に思うところはなく、すぐに見るのを止めた。
「…ミリアの入院に悪魔は関係ないと思うわよ?」
トールと目配せした朔乃が、躊躇いがちに口を開いた。
「交通事故の検査で、偶々病気が見つかっただけよ。」
「病気?」
「そう。」
「なんの?」
「それは……。」
重ねて聞くマリアの質問に、朔乃は口ごもった。
「交通事故でケガをしたって訳じゃなくて、事故がきっかけで偶然に病気が見つかって治療することになるなんて、不幸と言うよりは幸運だったんじゃないかな?」
話の方向転換を試すように、トールは明るい口調で言った。
「悪魔が関わっているとは、とても思えないよ。」
肩を竦ませ、おどけて言う。
「だが、廊下で倒れてしまうほどの不安を、マリアが感じたのなら無下には出来ない。」
凪が言った。
朔乃とトールの努力を、凪は見事に切り捨てた。
「でも、ミリアには会えないわよ!」
朔乃は言い切った。
ミリアの入院に悪魔は関係ないのだとマリアに分かってもらい、ミリアに会いたいという考えを変えさせたい朔乃だったが、このままでは今すぐにでも会いに行きかねないと感じ、つい、口を滑らせたという感じだった。
「なんで?」
すかさずマリアは聞き返す。
朔乃は迷いながらも答えた。
「ミリアに会いたいと言っても、ミリアのママが、きっとダメだと言うからよ。」
「どうして?」
朔乃の答えにマリアは更に聞く。
朔乃は息を吐き、諦めて言った。
「ミリア、もうすぐ手術なの。精神的に不安定になっているから、誰とも会わないって。」
「なんで?」
再び、マリアの質問。
しかし、朔乃は、ただ首を横に振るだけで何も言わなかった。
———これ以上は何も言えない———
それが朔乃の答えだと分かったマリアの胸は、再び、締め付けられるように痛んで、じわじわと涙が溢れて来た。
「凪。」
マリアは凪を見た。
凪は、黙ったまま壁に背を預け、ずっとマリアを見ていた。
「B・Bは絶対にミリアと接触する。方法は分からないけど、絶対に関わって来る。ミリアを唆して連れて行こうとするはず。阻止したいの。力を貸して。」
「マリア‼」
「やめて、マリア!」
トールと朔乃は驚き、慌てて止める。
クリスとアルフは、突然に目を潤ませ、凪に力を請うマリアにも驚いていたが、トールと朔乃の、突然の必死さにも驚いていた。
「ミリアは何かの病気なんでしょ?」
マリアはトールと朔乃に言った。
声はわずかに震えていた。
「手術が必要なぐらい重い病気で、精神的に不安定になるくらい、その手術は難しいんでしょ?そんな状態のミリアに、B・Bが近づかないわけがない!」
強く声を張った瞬間、マリアの頬を涙が伝った。
「わたしの所為で、B・Bはミリアに目を付けたのかもしれないの……。わたしに絶望を味合わせたくて、ミリアを病気にしたのかもしれない……。だったら、わたしが何もしないのは可笑しいでしょ?ミリアに会いに行くわ。それから……、ずっと言えなかったけど、弓を習いたいの。ミリアを守る為にも。これから先、誰が狙われても負けないと思えるように……。お願い、パパ、ママ。ミリアに会いに行かせて?弓を習わせて?もう、後悔したくない……。お願いします……。」
マリアは、ベッドの上で正座をして頭を下げた。
日本式で最上級のお願いの仕方だ。
こうする以外に、お願いをする方法が思い浮かばなかった。
今、許可がもらえなければ、もう許可はもらえない。
そんな気さえしていた。
「パパ、行かせてあげて?習わせてあげてよ。マリアが可哀想だよ。」
アルフが泣きじゃくりながら、トールに縋った。
「ぼくも、行かせてあげるべきだと思う。弓も習いたいってマリアが言うなら、習わせてあげるべきだよ。」
目を赤くしたクリスも言った。
「このまま何もせずに、もしもミリアに何かあったら……って、そう思うと、居ても立っても居られないの。お願いします。」
マリアは、再び、お願いをした。
「……条件は二つ……だ。」
ぼそり…っと、トールの声。
「………?」
恐る恐る顔を上げたマリアの目に映ったのは、アルフの頭を撫でているトールの悲しそうな顔だった。
「ミリアの手術の結果がどうなろうと、決して自分を責めないこと……。それから……、何処へ行こうと、何をしようと…、必ず無事に帰って来ること……。」
そこまでをマリアを見ずに言ったトールは、ゆっくりとマリアの顔を見た。
今にも泣いてしまいそうな顔だった。
「……約束、できるかい?」
トールと目が合った瞬間に、マリアの目から涙が零れた。
「うん……、約束する。」
マリアが答えた瞬間、トールの目からも涙が零れた。
朔乃は既に泣いていた。
アルフもクリスも泣いていた。
—————マリアは家族に愛されているのね。
ええ。
そうよ、ルイーザ。
わたしは家族に愛されている。
だから、負けられないの。
愛する家族を悲しませたくない。
だから、絶対に負けられない。
「………。」
凪は壁に背を預けたまま、抱き合って泣いているマリア達の姿を、ただ黙って見守っていた。




