#73 告白
「………。」
マリアは目を覚ました。
目を開けて、最初に見たのは、見慣れた自分の部屋の天井だった。
「マリア!」
最初に聞こえたのは、トールの声。
「マリア⁈」
「マリア‼」
「マリア!」
続けざまに朔乃、アルフ、クリスの声。
「………?」
見ると、どの顔も心配そうな顔をしていて、その心配そうな4つの顔の後ろの方に、酷く不機嫌そうな顔をして立っている凪の姿が見えた。
「何があった?廊下で倒れた時のことは覚えているか?」
凪はマリアに近づかず、壁に背を預けたまま言った。
「ちょっと待って、凪。まずはマリアの身体の事を気にかけて。マリア、大丈夫?どこか痛むところはある?」
朔乃は、凪を制して、マリアに尋ねた。
凪は構わず質問を続けた。
「B・Bの気配はなかった。使い魔達の気配もしかりだ。では、なぜお前は倒れていた?何があった?」
「待ってくれ!凪、君の気持ちも分かるが、まだ待ってくれ。」
今度はトールが待ったをかけた。
トールはアルフを見て言った。
「アルフ、マリアはもう大丈夫だよ。安心していい。クリスと一緒にキッチン行ってアイスでも食べていなさい。」
朔乃も続けて言った。
「そうそう、チョコレートのアイスがあるの。クッキーと一緒に食べるとおいしいわよ。2人とも、ずっとマリアについていて疲れたでしょ?おやつにしましょ。クリス、アルフと一緒におやつにして?お願い。」
「………。」
クリスは応えず、トールを見た。
「パパ。もう話してよ。ぼく達だってマリアのことが心配なんだ。マリアに何が起こっているの?凪がうちに来ることになったのだって、関係あるんでしょ?」
「何を言っているんだ。マリアに何も起きちゃいないよ。」
「嘘言わないで。凪がうちに来ることになったのだって、関係あるんでしょ?」
「どうしちゃったの?クリス。マリアは大丈夫よ。だから、アルフと一緒に…」
「アルフだって心配している!」
堪らず口を挟んだ朔乃の言葉を、クリスは声を強めて遮った。
「パパもママも、ぼくとアルフを関わらせたくないみたいだけど、マリアに何かが起こっているってことは、ぼくもアルフも何となくだけど、もうずっと前から気付いていたんだ。気付いていたのに、パパもママも、知らないままで居て欲しいみたいだったから、気付いていない振りをしてきた。でも、もういいでしょ?もういやなんだ。何も知らないまま、突然、マリア、居なくなっちゃうんじゃないかって、心配するの。アルフだってそうさ。ずっと心配していて、夜、寝る前に泣いたりしているの、パパもママも知らないでしょ?」
クリスの突然の告白に、部屋の中は静まり返った。
胸を衝かれて言葉を失くしたのは、トールと朔乃だけではなかった。
マリアも、まさかクリスとアルフがこんなにも心配してくれていたとは思わず、胸が熱くなった。
————マリアは家族に愛されているのね————
ルイーザの言葉。
そう、わたしは家族に愛されている。
だから、家族に恥じないわたしでありたい。
ありがとう、ルイーザ。
わたしは家族に愛されている。
そう、胸を張って言えるように強くなろう。
「ごめんね、心配かけて。」
マリアはゆっくりと起き上がり、部屋から出まいとマリアに掛けられた布団をぎゅっと握り、泣くのをぐっと堪えていたアルフの頬に、そっと触れた。
途端、アルフの瞳から涙が溢れ、強張っていた手からも、顔からも、力が抜けていった。
「うわーん!」
泣き出したアルフがマリアに抱き付くと、クリスもくしゃりと顔を歪め、泣きながらマリアを抱き締めた。
「わかったよ。話そう。みんなで乗り越えよう。」
涙ぐむ朔乃を抱き寄せ、トールは言った。
「すべては、大昔の御先祖様が交わした『悪魔との契約』から始まったんだ。」
トールは、マリアに降りかかった災いの始まりから現在に居るまでを、クリスとアルフに話して聞かせた。
とはいえ、アルフがすべてを理解するのは難しく、結果、アルフには“先祖の呪いでマリアは悪魔に狙われている”という簡単な説明になってしまった。
「でも、凪が居るから大丈夫なんだよね?」
凪はマリアを守る為に来た神の使い———というのがアルフの解釈だ。
「そうだよ。だから、いつも一緒にいるの。」
それは間違っていないと、マリアは思った。
クリスは、終始無言で、ずっと心配そうな顔をしていた。
幾ら神使に守られていると言っても、命を狙う悪魔相手に、どこまで守ることが出来るのかは、定かではない。
しかも、使い魔までいて、対抗策が全くないのだから、心配するなと言う方が無理な話だった。
トールと朔乃だって、完全に大丈夫だと、安心しているわけではない。
しかし、クリスとアルフの心配を解きたくて、自分達が琴音に言われたように、武器は持っていないことや、無理やりに連れて行ったりはしないことを挙げて、大丈夫だと言うしかなかった。
「隠し事は無くなったところで、そろそろ、マリアが廊下で倒れていた件に、話を戻してもいいだろうか?」
ずっと黙って事の成り行きを見守っていた凪だったが、とうとう痺れを切らして口を挟んだ。




