#71 凪の拒否
随分と気温が下がり、最近では日が沈む時間も早くなった。
街のあちらこちらでは、ハロウィーンの飾りつけが外された次の日には、クリスマスの飾りつけになっていた。
日の入り時間が早まったせいで、クリスマスのイルミネーションは更に煌めき、華やかさを増している。
マリアの家でも、クリスマスに向けた準備が始まった。
今年は裏庭の祠にもリースを飾ると言い出した朔乃が、新しいリースを作り始めたのを機会に、マリアはクリスマスカードの準備を始めることにした。
「おばあちゃん、望おばちゃん、元暁さん、結衣ちゃん、アネッサ、モーリン、ステファニー、レベッカ、ミリア………。」
用意した色画用紙を並べて、どの色を誰にするかを考えていたマリアだったが、ミリアの名前を思い浮かべた時、ミリアがまだ入院中であることに思いを馳せた。
事故が原因で入院したと言っていたが、お見舞いに行った時のミリアは、大怪我をしたという様子ではなく、見た目には元気そうだった。
なのに、まだ退院することが出来ていない。
他に原因があって、退院することが出来ないのではないかと、嫌でも考えてしまう。
アネッサの母・ヘレンと、ミリアの母・ジュリアンとの間で交わされたやり取りで感じた嫌なざわざわとした感じは、悪い事が起こる予兆のような気がして、今でも思い出すと怖くなった。
ミリアに何かが起こっているのかもしれない。
ヘレンの言葉でジュリアンが目を潤ませてしまうような何かが………。
朔乃はきっと知っているだろうと、マリアは思っていた。
しかし、聞いても教えてくれないだろうことも分かっていた。
ミリアは今、どうしているだろう?
マリアはミリアを思った。
ミリア自身のことなのだから、ミリアが知らない筈はない。
マリア達がお見舞いに行った時、笑顔で迎えてくれたミリアは、あの時、どんな気持ちだったのだろうか?
考えだしたら、クリスマスカードどころではなくなってしまい、マリアは用意した画用紙をそのままに、裏庭に向かった。
裏庭に行くと、ヒトの姿の凪が祠の掃除をしていた。
クリスマスリースを飾ると言った朔乃の言葉で、一度は頭を抱えていた凪だったが、琴音にも報告し、諦めたのだろう。
御弥之様へのお詫びなのか、いつもよりも丁寧に祠の掃除をしていた。
マリアは邪魔にならない程度に近づいて、声を掛けた。
「ねぇ凪、凪はこっそり病院に忍び込むことって出来る?」
「………?」
唐突な質問に、凪は理解できなかったのかもしれない。
朔乃が祠にもリースを飾ると言った時と同じくらいの驚いた顔を向け、凪は無言でマリアの顔を見つめた。
そして、恐る恐る問い掛けた。
「何のために?」
だが、すぐに思い当たるある人物が思い浮かんだらしい。
凪は深く溜息を吐いた。
「ミリアか。」
「そう。話がしたいの。二人きりで。」
「反対だな。」
「なんで?」
「話をしたところで、何も解決しない。お前の気が済むだけだ。」
「どうしてそう思うの?」
凪は、マリアの質問に、少し間を開けてから答えた。
「ミリアは話したいと思っていない。思っていないから話さない。話したくないと思っているのに無理に話をさせるのは、知りたいと思うマリア、お前の欲求を満たすだけの、ただの我儘だ。だから、わたしは協力しない。」
「………。」
確かに、ミリアは話したいと思っていないのかもしれない………。
そう思ってしまったマリアは、つれなく突き放した凪に、それ以上は何も言えなくなってしまった。




