#65 異国の祭り
今年もこの時期がやって来た。
「………。」
リビングに並べられた幾つものカボチャを見て、凪は思った。
凪から見れば、イギリスには変わったイベントがある。
卵の形をしたチョコを食べたり、ゆで卵にやたらと派手な色や柄を着色するイースターと、もうすぐ訪れるハロウィーンだ。
オレンジ色という珍しい色である上に、規格外の大きさにまで育ったカボチャ。
そのカボチャの中身をくり抜き出して、更には顔のような形に皮までくり抜き、提灯のように火を灯す。
それを、1つと言わず、幾つも用意して、通りから見えるように、家の周りに吊るして置く。
カボチャの提灯だけではなく、屋敷全部の見た目を、幽霊屋敷のように飾り付ける家もある。
そして、夜になると、何者かに扮した子供達がやって来るのだ。
『Trick or treat!(トリックオアトリート)』———お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!
これは、ねだるというより脅しだと、凪は思っている。
しかも、この言葉一つだけで近所の家を訪ねて回り、お菓子をもらってくるというのだから驚きだった。
年に一度、この日は子供達が盗賊になる日なのか?と思ったほどだ。
しかし、イギリスでは当たり前のように行われる“祭り”のようなものらしかった。
去年も一昨年も、何者かに扮したアルフは嬉々として出掛けていたし、グレース家を訪ねて来た子供達には、「Happy Halloween!(ハッピーハロウィーン)」と言って、朔乃がお菓子を渡していた。
「あれはね、お化けのふりをしているのよ。」
マリアが言った。
ハロウィーンの子供達の行動に疑問を持っていた凪が、マリアに質問をした答えだった。
「お化け?妖のようなものか?」
「そう。そのお化けは、子供を連れ去ってしまうの。だから、お化けに連れ去られないように、子供達はお化けと同じような恰好をして、お化けのようにちょっとしたいたずらみたいなことをして、身を守っているの。」
「それが、“お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ”———か。」
「そう。子供達にとっては、すっごく楽しみなイベントなのよ。いつもなら絶対に出掛けられない時間に、お友達と一緒にお化けの格好をして、いろんな家を訪ねて回って、いろんなお菓子をもらうの。ね?素敵でしょ?」
マリアは楽しそうに話していた。
だが、その年の頃のマリアは、もう友達とあまり遊ばなくなっていたと、凪は聞いていた。
素敵なイベントだったと言えるほど、楽しい思い出ばかりではなかったのではないだろうか?
「マリアもお化けになったのか?」
凪は、少し躊躇いながらも聞いてみた。
悪魔を恐れていたトールと朔乃が、マリアを快くお化けの姿にしていたとは考えられなかった。
「なったよ。」
マリアは笑顔で即答した。
「言ったでしょ?連れ去られないように———って、お化けの格好をするのよ?パパとママにしてみたら、毎日でもお化けの格好をさせたかったんじゃないかしら。ふふふ…。見せたかったな。パパとママの力作。すっごい力の入れようだったんだから。近所でも有名だったのよ。」
凪は、「なるほど」と、ようやく納得した。
トールと朔乃には、悪魔も妖も、似たようなものに思えていたのかもしれない。
この日に便乗して連れ去られたら大変だと、2人は思っていただけなのかもしれない。
しかし、それでも………
マリアが他の子供達と同じように、そのイベントを楽しむことが出来ていたのなら———
楽しいイベントだったと思うことが出来ているのなら———
それならば良かったと、凪は思った。




