#64 嫌な予感
ミリアは、フォリラム地区の総合病院、セント・フォリラム病院に入院していた。
幾つもの建物が集合している大きな病院だった。
「マリア、こっち。」
エントランスに入ると、アネッサがマリアを手招きしていた。
ステファニーとレベッカの姿もあった。
3人もお母さんと一緒に来ていて、マリア達よりも先に病院に着いて居た。
「早かったね。3人とも電車?」
「ううん、わたしとレベッカだけ。ステファニーは車だって。」
アネッサはステファニーに親指を向けた。
「渋滞予想して、早く出て来たの。」
ステファニーは肩をすくめた。
マリアがアネッサ達と話をしている傍で、朔乃も、他のお母さん達と話をしている。
何の話をしているのかは聞こえなかったが、今日の予定の話をしているのだろうと、マリアは思った。
「あとはモーリンだけ?」
「そう。」
「モーリンも車かもね。」
マリア達はモーリンの到着を待った。
マリア達は、母親達の度重なる話し合いの結果、病院が混雑しない休日に短い時間だけのお見舞いに行くことが決定した。
なぜ何度も話し合いが必要だったのかは分からないが、ようやくミリアに会うことが出来るので、マリア達は楽しみにしていた。
「ミリア、元気かな?」
「お母さんから、ミリアの怪我のこととか聞いた?」
「ううん。ぜんぜん教えてくれない。知らないのかも。」
「わたし達が今日来ること、ミリアは知っているのかな?」
「知っているでしょ。ママ達が連絡しているよ。多分。」
数分後、モーリンが到着して、マリア達はミリアの病室に向かった。
ミリアの病室は、アネッサのお母さんが既に聞いておいてくれていたので、モーリンが到着した後、すぐに向かうことになった。
マリア達は、先を歩くアネッサとレベッカの母親達の後を、ついて行った。
廊下を歩き、二つ隣の棟まで移動し、エレベーターに乗った。
5階で降りて、しばらく歩くと、ミリアの病室に辿りついた。
「ヤッホー、ミリア。」
「やっと来れたよ。」
「どうしてた?」
「元気?」
「けがは大丈夫?」
マリア達は、明るい挨拶と共に、ミリアの病室に入った。
「久しぶり!みんな!」
ベッドで身を起こしていたミリアが、笑顔で迎えた。
ミリアの病室は1人部屋だった。
1人部屋でも、豪華なソファーや大きなテレビが置いてあるような高級な個室ではなく、白を基調にした清潔感のある部屋に、小さめのテーブルセットとチェストが置いてあるだけのシンプルな個室だった。
大きな花瓶に飾られている色鮮やかな花々と、棚に並ぶ大小さまざまなぬいぐるみ達が、シンプルな部屋を明るくしていた。
「入院しているって聞いて、もう、びっくりしたんだから。」
「そりゃそうでしょ。わたしだってびっくりなんだから。まさかまさかよ。」
「いつからなの?」
「夏休みに入ってすぐよ。」
「じゃあ、今年は何処にも旅行に行ってないの?」
「そうなの。残念。みんなは何処に行って来たの?」
「わたしはコーンウォール。湖と牧場が綺麗だった。」
「わたしはハイランド地方。ネッシーは居なかったわよ。」
「わたしはご存じ、日本。夏祭りを見て来たわ。」
「わたしはスペイン。結構、焼いたわ。ステファニーもスペインだって。」
「そう、北部のバスク地方。アネッサは島だったって。」
早速6人は話始め、それぞれが持ち合わせたお土産を取り出した。
モーリンはショートブレッド。
レベッカはファッジ。
マリアはマカダミアナッツチョコレート。
アネッサとステファニーは、偶然にも同じものだった。
「これね、知っているかもしれないけど、幸せを呼ぶって言われているお菓子なの。」
アネッサの母・ヘレンが言った。
「同じお菓子、一度に二つも空けなくたっていいわよね?一つはお母さんにあげて?」
ヘレンは、ミリアにそう言って、アネッサが出した小さな袋を手に取り、ミリアの母・ジュリアンに手渡した。
「ご主人と一緒に食べてね。」
「ありがとう。」
ジュリアンが目を潤ませた。
「………。」
マリアは嫌な予感がした。
幾らスペインの有名なお菓子をもらったからといって、泣くほどのことでは無いはず。
喜んでくれてはいるのだろう。
しかし、それは、お菓子をもらったことに——というより、ヘレンの言葉に対してのように思えてならなかった。
———ご主人と一緒に食べてね———
「………。」
———幸せを呼ぶって言われているお菓子なの———
「………。」
マリアは、嫌な予感がした。




