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約束と契約  作者: オボロ
57/114

#57 神使の凪


「いやぁ、よかったよ。結衣ちゃん、朝衣花ちゃん。」

「初めてにしちゃー上出来だったよ、結衣ちゃん。」

「朝衣花ちゃんも、結衣ちゃんも、きれいだったわよー。」

「お疲れ様―。お腹すいたでしょ?奥に食事、用意してあるわよ。」


マリアが向かった社務所の前には、月城家の人達が集まっていて、大役を済ませた結衣と朝衣花を迎えていた。

結衣を心配していた望は、感動と安堵で涙が止まらず、結衣を前にしても、何も言うことが出来なかった。

衣装を汚すことを気にして、抱き付くことも出来ない。

ハンカチでは足らなかったのか、タオルを握りしめ、流れる涙を拭いながら、結衣に何度も頷いていた。


「お疲れ様、結衣ちゃん、朝衣花ちゃん。とっても綺麗だったよ。」


マリアも、2人に近づいて、声を掛けた。


「あら、マリアちゃん。朔乃ちゃん達、心配していたわよ。途中ではぐれちゃったんですって?大丈夫だったの?」


陽菜乃ひなのが、マリアに気付いて話し掛けて来た。

朔乃達が、マリアの居場所を探していたらしい。


「うん。凪と一緒に居たから大丈夫。みんな、今、どこに居るの?」

「あ……、中の待合室よ。」

「ありがとう。じゃあ、またね。結衣ちゃん、朝衣花ちゃん。」」


凪の名前を出した瞬間、全員が一瞬凍り付いた様だったが、マリアは気付かないふりをして、社務所の中へ入った。



「マリア!」

「マリアだぁ!見て、見て、わたあめ。」

「良かったぁ。どこに行っていたの⁈」

「心配したんだぞ!マリア。」


社務所に入ると、開放されている待合室からマリアを見つけたクリスが叫び、気付いたアルフはわたあめ片手に笑顔を向けて、朔乃とトールは心配そうにマリアを出迎えた。


「あら、凪は?一緒に居たんじゃないの?」


マリアが1人であることを確認した朔乃は、不思議そうに聞いた。

マリアがはぐれたと知った瞬間、すぐに凪のことを思い浮かべ、凪が一緒に居るだろうと判断したのだろう。

心配はしたけれど、そうそう大変なことにはならないと思っていたに違いない。

ところが、1人で居たとなったら話は変わってくるらしい。

不思議そうに聞いた後の朔乃の顔つきは、徐々に険しくなっていった。

マリアは慌てて答えた。


「いや、一緒だったから。真っ先に凪の所へ向かったから。」

「それで?」

「一緒に屋台回って、かき氷とわたあめ買って食べた。あと、本殿の傍から神楽殿の舞、見てたよ。結衣ちゃんと朝衣花ちゃん、綺麗だったね。」

「そう……。なら、よかったわ。」


ここまで一緒に来なかったことには、多少の疑問は残ったようだが、朔乃は、マリアと凪が一緒に居たなら良しとした。


「かき氷とわたあめだけだったならお腹すいたでしょ?おにぎりあるわよ。焼きそばとから揚げ、買ったのあるから、こっちで座って食べなさい。」

「はーい。」


マリアは、おにぎりや焼きそば、から揚げが置かれている待合室のテーブル席のクリスの隣に座った。

手に取ったおにぎりを頬張る。

鮭のおにぎりだった。


今頃、凪は1人で何をしているだろう。

何を考えているだろう。

御弥之様の事?

琴音の事?


凪は人ではないのに、人と同じような感覚で見てしまう。

同じ人間として見てしまう。

だから、時々、可哀想に思ってしまう。

独りぼっちにしてしまうことを。

除け者みたいにしてしまうことを。


マリアは、琴音がどういう感覚で凪を見ているのか、気になった。

本当に神使としてしか見ていないのか。

マリア達が寝入った後、部屋に入れてあげたりしないのだろうか?


マリアにとって凪は、元暁よりも近くて、クリスほどには近くなく、しかし、琴音と同じくらい信頼している存在だ。

どうしてなのかはわからないが、マリアは、凪が絶対にマリアを裏切らないと、信じることが出来た。

どうしてなのかはわからないが、マリアは無条件に凪を信じることが出来るのだ。



「マリアは何処に居たの?」

「凪と一緒に、結衣ちゃんと朝衣花ちゃんの舞を見てたんですって。」


クリスの質問に、朔乃が答えている。


「綺麗だったけど、楽しそうじゃなかったね。」


アルフが言った。


「神様に捧げる舞なんだから、楽しくなくてもいいんだよ。」

「神様だって、楽しい方がいいんじゃないの?」


トールがたしなめたが、アルフは折れなかった。

アルフにとっては、巫女舞よりもサンバの方が楽しいのだから仕方ない。


「神様は、楽しいか楽しくないかだけを見ているんじゃなくて、どれだけ苦労をして身に付けたのか、どんな思いが込められているのかも見ていると思うよ。結衣ちゃんと朝衣花ちゃん、2人の揃った舞を見た神様は、きっと喜んでくれたと思う。よく頑張ったねって。結衣ちゃんと朝衣花ちゃんのこと、きっと褒めてる。おばあちゃんも良かったって思ってるよ。わたしも、良かったって思った。結衣ちゃんと朝衣花ちゃん、すごく頑張ってたもん。」


マリアは無意識に力説していた。

別に、結衣と朝衣花を庇うつもりも、アルフを責めるつもりもなく、ただ、思ったことを口にしただけだった。

御弥之様は、巫女舞じゃなくてサンバでも、本当に努力をして、思いを込めて踊ったならば、きっと喜んでくれる。

勿論、盆踊りでも———と、マリアは思った。



「ふーん。」


アルフは気のない返事をしたきり、反論はしなかった。

納得はしていないだろう。

それでも、頑張った人のことは、悪く言ってはいけないと思っているようだった。


マリアは、今はそれでいいと思った。


アルフは、努力をすることが簡単なことではないと、分かっている。

頑張った人を称える気持ちがある。


それはそれで素晴らしいことだと、マリアは思った。



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