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約束と契約  作者: オボロ
55/114

#55 盆踊り


「なぜ、そんなに遠くまで行く必要があるんだ?」

「みんなとはぐれた所の先に、何のお店があるのかまだ見てないの。もっと欲しいものがあるかもしれないじゃない。」


マリアは、凪と一緒に神社を出て、再び屋台が並ぶ道を進んだ。

神社から離れれば離れるほど、屋台はまばらになるが、全く屋台がなくなるわけではなかった。

屋台と言っても、それほど種類が豊富にある訳ではない。

なので、同じものを売っている屋台は幾つもあり、全ての屋台を見て回る必要はないのだが、そのことを知っている凪には分かっていても、初めて屋台を見て回るマリアが、それを知っているはずもなく、それどころか、全ての屋台を見ることに意味があるかのようだった。


「ここが最後みたい……」


最後尾さいこうびにあった屋台は、今川焼だった。

確か、神社の中にもあったと、マリアは思いながら振り向いた。

随分と遠くまで屋台は並んでいた。


「すごいね。」


神社からずっと並んでいる屋台の数に、マリアは驚きと同時に感心もした。

お祭りに集まる人達のほとんどが、実は屋台を目的にしているのではないかと思うほどの、屋台の数と人の多さだった。


「今年は舞があるけど、いつもはお祭りで何をしていたの?」


マリアはふと思い、聞いた。

屋台が出るだけで“お祭り”とは言わない。

お囃子はお祭りが始まる合図だと言っていた。


「盆踊りだ。」


凪が答えた。


「盆踊り?」

「地域や場所によって盆踊りというのは違うと言うが、黒石神社では、巫女舞が無い年の夏祭りには盆踊り用のやぐらを建てて、参加したい者は自由に参加していいというルールの元、曲に合わせて全員が全員、全く同じ振り付けで踊る。」

「全く同じ振り付け?」


朝衣花と結衣の舞の練習を見たことのあるマリアは、2人の正確な振りの揃え方を思い出して驚いた。

首を曲げる角度、腕を曲げる角度、膝を曲げる角度まで揃えていた。


「巫女舞ほど揃わせる必要のない。もっと自由で気軽な踊りだ。」


マリアの驚きようで、マリアの想像を察した凪が、笑みを含ませ付け足した。


自由で気軽な踊り。

リオのカーニバルとは絶対に違う。

日本ならではの神聖な踊り。


見てみたいと、マリアは思った。

色とりどりの浴衣を着た人達が、並んで踊っている姿を見てみたいと思った。


「それよりも、何を買うか、決めたのか?」


盆踊りに思いを馳せ、目を輝かせているマリアを見て、凪は聞いた。

そんなに目を輝かせても、今年の夏祭りに盆踊りは無い。

ハッと現実に戻ったマリアは、今度は見て回った屋台の品々を思い浮かべた。


りんご飴、チョコバナナ、から揚げ、イカ焼き、クレープ、かき氷。

わたあめ、風船釣り、お面、射的。

買いたい、やってみたい、食べてみたいものは、たくさんあった。

しかし、一度に全部は無理だ。


来年も夏祭りの時期に来たいと、マリアは思う。

来年は盆踊りをやって欲しい。

楽しみが一つ増える度に、頑張ろうと思えた。

B・Bに負けないよう、頑張ろうと。

また日本に来られるよう、頑張ろうと。

マリアは、改めて強く思った。


B・Bを退ける為、契約に抗う為、自分に出来ることしよう!



「うん。決めた。わたあめとかき氷。あと、風船釣りかな?残りは来年にする。」


前を見て、力強くマリアは答えた。

力強く答えたマリアに、凪は微笑ましく思い、そして、ふと考え、申し訳なさそうに呟いた。


「マリアのその手持ちでは、おそらく三つは無理かと思うのだが……」

「………っ!!」


マリアはショックで固まった。



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