#55 盆踊り
「なぜ、そんなに遠くまで行く必要があるんだ?」
「みんなとはぐれた所の先に、何のお店があるのかまだ見てないの。もっと欲しいものがあるかもしれないじゃない。」
マリアは、凪と一緒に神社を出て、再び屋台が並ぶ道を進んだ。
神社から離れれば離れるほど、屋台はまばらになるが、全く屋台がなくなるわけではなかった。
屋台と言っても、それほど種類が豊富にある訳ではない。
なので、同じものを売っている屋台は幾つもあり、全ての屋台を見て回る必要はないのだが、そのことを知っている凪には分かっていても、初めて屋台を見て回るマリアが、それを知っているはずもなく、それどころか、全ての屋台を見ることに意味があるかのようだった。
「ここが最後みたい……」
最後尾にあった屋台は、今川焼だった。
確か、神社の中にもあったと、マリアは思いながら振り向いた。
随分と遠くまで屋台は並んでいた。
「すごいね。」
神社からずっと並んでいる屋台の数に、マリアは驚きと同時に感心もした。
お祭りに集まる人達のほとんどが、実は屋台を目的にしているのではないかと思うほどの、屋台の数と人の多さだった。
「今年は舞があるけど、いつもはお祭りで何をしていたの?」
マリアはふと思い、聞いた。
屋台が出るだけで“お祭り”とは言わない。
お囃子はお祭りが始まる合図だと言っていた。
「盆踊りだ。」
凪が答えた。
「盆踊り?」
「地域や場所によって盆踊りというのは違うと言うが、黒石神社では、巫女舞が無い年の夏祭りには盆踊り用のやぐらを建てて、参加したい者は自由に参加していいというルールの元、曲に合わせて全員が全員、全く同じ振り付けで踊る。」
「全く同じ振り付け?」
朝衣花と結衣の舞の練習を見たことのあるマリアは、2人の正確な振りの揃え方を思い出して驚いた。
首を曲げる角度、腕を曲げる角度、膝を曲げる角度まで揃えていた。
「巫女舞ほど揃わせる必要のない。もっと自由で気軽な踊りだ。」
マリアの驚きようで、マリアの想像を察した凪が、笑みを含ませ付け足した。
自由で気軽な踊り。
リオのカーニバルとは絶対に違う。
日本ならではの神聖な踊り。
見てみたいと、マリアは思った。
色とりどりの浴衣を着た人達が、並んで踊っている姿を見てみたいと思った。
「それよりも、何を買うか、決めたのか?」
盆踊りに思いを馳せ、目を輝かせているマリアを見て、凪は聞いた。
そんなに目を輝かせても、今年の夏祭りに盆踊りは無い。
ハッと現実に戻ったマリアは、今度は見て回った屋台の品々を思い浮かべた。
りんご飴、チョコバナナ、から揚げ、イカ焼き、クレープ、かき氷。
わたあめ、風船釣り、お面、射的。
買いたい、やってみたい、食べてみたいものは、たくさんあった。
しかし、一度に全部は無理だ。
来年も夏祭りの時期に来たいと、マリアは思う。
来年は盆踊りをやって欲しい。
楽しみが一つ増える度に、頑張ろうと思えた。
B・Bに負けないよう、頑張ろうと。
また日本に来られるよう、頑張ろうと。
マリアは、改めて強く思った。
B・Bを退ける為、契約に抗う為、自分に出来ることしよう!
「うん。決めた。わたあめとかき氷。あと、風船釣りかな?残りは来年にする。」
前を見て、力強くマリアは答えた。
力強く答えたマリアに、凪は微笑ましく思い、そして、ふと考え、申し訳なさそうに呟いた。
「マリアのその手持ちでは、おそらく三つは無理かと思うのだが……」
「………っ!!」
マリアはショックで固まった。




