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約束と契約  作者: オボロ
54/114

#54 初めてのおつかい


お祭りは大盛況だった。

時間が経つにつれ、人の数はどんどん増えていった。

特に屋台が並ぶ通りは神社の中も外もたくさんの人で賑わっていて、一度家族とはぐれたら、二度と会えないように思えた。

特に背の低いアルフは視界から消えやすく、すぐに見失ってしまいそうだ。


「アルフ、やっぱり手ぇ繋ごうよ。ママじゃなくて、クリスとなら平気でしょ?」


朔乃が何度も呼びかけた。

その度にアルフはクリスと手を繋ぐのだが、興味のあるモノが目に入ると、クリスの手を振りほどいて走り出してしまう。


「クリス、アルフの居場所わかるか?」


トールはアルフを見失ったらしい。


「うん、分かる。ぼくが一緒に居るから、パパ達はゆっくり回りなよ。」


クリスは、そう言ってアルフを追いかけた。

マリアの前を、数人の男女が横切っていく。

すると、クリスの姿も、朔乃の姿も、トールの姿も、マリアは見失ってしまった。


「………?あれ?」


マリアは1人だけ、家族とはぐれてしまった。

誰もマリアを探しに戻って来ない。


アルフはクリスと一緒に居るだろう。

朔乃はトールと一緒に居るはず。

マリアは、どちらにも、「向こうと一緒に居るのだろう。」と、思われているのかもしれない。


ここが全く知らない場所なら大変だった。

だが、幸いにも、ここは黒石神社の祭り会場。

どちらの方向に神社があるかは分かっていた。

クリスを見失った方向へ進んでみるという方法もあるが、クリス達と出会うことが出来なければ、1人でうろうろしているだけになる。

明らかに地元の子ではないだろうと思われる見た目のマリアは、1人でうろうろしてはいけないような気がした。


「仕方ない……。」


全ての屋台を見て回るのを諦めるのは、とても残念なことだった。

それでも、1人になってしまった以上、まずは知っている人を探すべきだろうと判断せざるを得なかった。

マリアは未練を残しながらも、神社に戻る決断をした。


戻る道すがら、マリアを見る好奇の目は、家族5人が一緒に歩いていた時よりは遥かに少なくなっていた。

しかし、家族5人で居た時には、遠巻きに見ているだけだったのに対して、1人で居るマリアには、話し掛けて来る人が居た。


「1人?迷子?」


「日本語分かる?写真撮っていい?」


女の子よりも、男の子の方が話し掛けて来る。

それも集団で近寄って来るので、マリアは怖くなって、逃げるように先を急いだ。


「ごめんなさい。急いでいます。」


毎日、巫女装束を着ていたおかげだろう。

下駄でも小走り程度には走ることが出来たので、思っていたよりも早く神社に辿り着くことが出来た。


階段を上り、鳥居をくぐり、多くの人が歩いている参道から離れて、凪の姿を探した。

とりあえず、凪を見つけて安心したかった。


拝殿を横切り本殿に向かう。

祠の傍に凪は居た。

大きな白狐の姿で丸くなり、寛いでいる。

足音で、マリアが近づいていることに気付いたのだろう。

薄く目を開け、言った。


「祭りはどうした?トール達と向かったのではなかったのか?」

「はぐれちゃった。」


マリアは、丸くなって横たわっている凪の前足に、浴衣の裾を気にしながら腰を下ろした。

随分と歩いたし、急いだので、足が疲れた。


「お祭りってすごいね。すごい人。」

「屋台に行くのを楽しみにしていたようだが、何も買わなかったのか?」


凪は、マリアが手ぶらである事を、不思議に思ったようだった。


「最初にたこ焼きを食べたの。美味しかったよ。今度うち、たこ焼き器、買うかもね。」


マリアは答えながら、みんなでたこ焼きを食べた時のことを想い出した。


丸く窪んだ穴が並んでいる鉄板に、クレープを作る時に使うような液体を豪快に注いで、刻んだタコを一つずつ穴に落としていく。

その他にも、紅ショウガやネギなども豪快に、まるで撒くみたいに加えて、長い串でかき回す。

しばらく待って、長い串で周りに広がった生地を集め、穴の中でくるりと回すと、穴の中の生地もくるりと回って、丸いたこ焼きが出来上がる。


『すごい!丸くなったよ。』

『一瞬だったね。』

『くるっとやっただけだったよ。』

『すごいね。プロだね。』


丸くなった時のマリア達の歓声を聞いて、店の人がたじろいでいた。

後で朔乃が、家庭用のたこ焼き器があり、思うよりも簡単に出来るのだと説明した。

その時のトールの目の輝きようから、近いうちにグレース家では、たこ焼きパーティが行われるだろうことを、マリアは予感した。


「その後、いろいろ見て回っていたんだけど、はぐれちゃったからさ。折角、おばあちゃんがおこずかいくれたのに……。日本のお金で何か買うの初めてだから、楽しみにしていたんだけどなぁ。」


マリアは巾着袋の中から小銭入れを取り出した。

中には、500円玉が2枚入っていた。

アルフは1枚で、クリスは3枚、もらっていた。


『何か、一つか二つ、考えながら買ってみなさい。』


そう言って、マリア達に、琴音はおこずかいをくれた。

イギリスとは違うお金の計算は難しい。

それを、今日、初めて使ってみるはずだったのだが、諦めた方が良さそうだった。

1人で試す勇気はない。

せめて、クリスと2人ならば、何とかなったような気がした。


「ならば、わたしが一緒に行こう。」

「凪、日本のお金、わかるの?」


凪の提案に、マリアは反射的に聞いていた。


「幸いにも日本での暮らしは、マリアよりも少しばかり長いのでね。」


ヒトの姿になった凪が、ムスッとした顔をした。



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