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約束と契約  作者: オボロ
53/114

#53 浴衣とお囃子


夕方近くになると、幾つもの屋台が準備を始め出した。

境内の中にも外にも、たくさんの屋台が並ぶらしい。

まだ店先には何も用意されてはいなかったが、何の屋台なのか分かる屋台は幾つもあった。

たこ焼き、焼きそば、わたあめ、イカ焼き。

生まれて初めて見るマリアとアルフは勿論、マリアが生まれる前には見たことがあっただろうクリスも、全く覚えていないらしく、テンションを上げた。

トールも朔乃も楽しそうに祭りの準備を見て回った。


「ぼく、焼きそば、知ってるー!」

「そうか。前にお昼に食べた時があったね。」

「わ・た・あ・め?……何だろう?」

「砂糖で出来た甘いお菓子のことよ。綿みたいにふわふわしているの。」

「水、あんなに溜めて……、一体、何が始まるの?」

「金魚を放して金魚釣りか、水風船を浮かべて風船釣りか……。どっちだろうね。」


クリスとアルフは、日本に到着した夜に、トールと朔乃とマリアが、琴音に呼ばれて話したことを知らない。

トールも朔乃も、勿論、マリアも、知らない2人にわざわざ教えて不安にさせるつもりはなかった。

そして、トールと朔乃は、今も、マリアの考えを全て賛成しているとは言えない状態だった。

嫌だけど、めさせることが出来るだけの別の提案を、用意することが出来ないだけ。

どうにかして止めさせることは出来ないかと、2人がずっと思案していることを、マリアは、なんとなく気付いていた。

マリアと目が合うと、不安そうな顔をする時がある。

考えを変えてくれないだろうかと、窺うような目で見る時もある。

その度に、マリアは物凄く悪い事をしてしまったような気持ちになった。

物凄く不安にさせてしまっているのだ。

物凄く心配をさせているのだ。

悪い事をしたことには、違いないのかもしれない。

しれないのだが、やめる訳にはいかなかった。


ごめんね。パパ、ママ。


マリアは心の中で謝って、なるべく二人の心情を考えないことにした。


初めての夏祭りなのだから。

来年も来たいと思えるように、思いっきり楽しもう。

楽しかったねと言って、笑って帰ることが出来るように。


それでも、マリアと、トールと朔乃の会話は、どこかぎこちないままだった。



一通り、神社の中を回った後、マリア達は、一度、琴音の家に戻った。

全員が浴衣に着替える為だった。

日本に来たら、一日だけ浴衣を着て花火をする。

これは毎年の恒例行事。

今年は、花火ではなく、お祭りになったわけだが、誰にも異論はなかった。


「あら、マリア、1人で着れるの?」


後は帯を巻くだけのところまで、1人で着たマリアを見て、朔乃が驚いた顔をした。


「うん。ここまでだけどね。帯は無理。クリスのが終わったら、ママやって。」


マリアは、自分の頬が赤くなっているのが分かった。

顔が熱い。

毎日、巫女装束を着ていたけれど、結局、今日まで1人で着られるようになるのは無理だった。

それでも、白衣びゃくえまでは1人で着られるようになった。

つまり、浴衣の帯を巻く前までは、1人で着られるようになっていた。

マリアは、そのことが嬉しかったし、驚く朔乃が嬉しそうであったことも、嬉しかった。

まどかにも、後で報告をしようと、マリアは思った。




全員が浴衣に着替え終わる頃には、祭囃子が聞こえて来た。

横笛を吹くのは胡太郎で、近所の子供達が太鼓を叩くのだと、胡太郎が自慢げに言っていた。

話を聞いたアルフは、どんな太鼓をどんな風に叩くのかも分からないのに、自分も太鼓を叩いてみたいと言っていた。

実際に聞いてみると、テンポが速くて、軽快な感じだ。

聞いているだけで、なぜか楽しくなって、わくわくしてくる。


「ねぇ、始まったよ。早く行こうよ。」


アルフも、お囃子の音色で、お祭りへのわくわく感が止まらなくなったらしい。

じっとしていることも出来なくて、足踏みを始めていた。


「まだ始まったばっかりよ。急がなくても、まだまだ終わったりしないわ。」


最後に着替えた朔乃が、巾着袋を下げて現れた。


「アルフ、下駄、履くんだから、走っちゃダメだからね。転んだら、怪我するし、他の人にぶつかったら大変なんだからね。」

「わかってるよ。わかってる。」


下駄を履いている時もじっとして居られないアルフを、朔乃はずっと心配していた。


「アルフ、走ったら、ずっとママに手を繋いでいてもらおうね。」

「え?……大丈夫。絶対に走らないから。うん。大丈夫だよ。」


トールが笑顔で提案すると、途端、アルフは足踏みを止めた。

以前、落ち着かない様子ではあるが、すぐにでも走り出しそうになる気持ちを、ぐっと耐えている。

アルフは、ママと手を繋いで歩くのは甘えん坊だと思っているので、周りの人に、甘えん坊だと思われるのは嫌なのだろう。


「あら、ママは嬉しいけどな。アルフと手を繋いでお祭り見るの。」


朔乃が言った。


「やだよ。赤ちゃんだと思われる。」

「いいじゃない、赤ちゃん。可愛いもの。赤ちゃんだった頃のアルフ、とっても可愛かったのよ?」

「もう赤ちゃんじゃないから可愛いはダメなの。かっこいいがいいの。」

「確かに、ママと手を繋いでいたら、かっこいいじゃないな。」


クリスが言って笑った。

トールも朔乃も笑い、マリアも笑った。


「だから、手は繋がないの。」


マリア達は、自然と笑顔になっていた。

わだかまりは残したままだが、夏祭りは楽しく過ごせそうだ。



「もー、本当に早く行こうよー、お祭り始まっちゃってるよー」


口を尖らせたアルフが、また急かした。



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