#52 夏祭り
トンッ!トンッ!トンッ!
カンッ!カンッ!
夏祭りの当日は、朝から準備で慌ただしかった。
「幕、こっちにも張ってくれ。」
「この辺からも提灯ライト、幾つか吊るした方がいいな。」
地域の人たちの協力を得て、大掛かりな準備が進んでいる。
「お囃子は、いつもの場所で頼むよ。休憩用のテントは、そっちに建ててもらえるかな?」
「御神酒の準備は、こちらでさせていただきます。御振舞いの方はよろしくお願いします。」
「屋台の設置は、午後からでいいですか?自治会の方々の準備は、午前中からで構いません。火の扱いにはくれぐれも注意してもらうよう、伝えてください。」
胡太郎、新太、元暁は、それぞれが別々の場所で指示を出している。
今日の夕方から、たった一回行われるお祭りの為に、たくさんの人達が、たくさんの労力と時間を使って準備をしていることを知り、マリアは驚いた。
マリアが住むテムズミス地区では、ハロウィン以外、お祭りらしいことはしていない。
それも、各家庭が個々に準備をするだけで、地域住民が集まって準備をするわけではなかった。
なのに、黒石神社で行われる夏祭りの大掛かりなこと。
1週間以上も前から準備が始まり、たくさんの人の手と時間が掛けられ、神様が居る神社で行われる。
マリアには、信じられないことだった。
「夏祭りって、何の為にするの?」
祠の掃除をしながら、マリアは凪に聞いた。
色々考えてみたが、答えは見つけられなかった。
「………。」
凪は、祠に供えられていた榊を交換していた手を止めた。
そして、少し間を置き、考えながら言った。
「生きるモノ全ての成長と健康を祈る為———と、先祖の魂を迎え、鎮める為……だな。」
「先祖の魂?」
「ああ、そうだ。お盆には、先祖の魂が戻って来る。その魂の悲しみや怒り、不安を取り除き、子孫たちが健やかに幸せに暮らしていることを知ってもらい……、そして、安心してもらう。」
「………?」
亡くなった先祖の魂が戻って来る。
戻って来た先祖の魂の悲しみや怒り、不安を取り除く。
子孫たちが健やかに幸せに暮らしていることを知ってもらい、安心してもらう。
意味は分かる。
分かるのだが……
「お盆って、遠くに居る家族が戻ってくる期間をいうんじゃないの?」
「……ある意味、遠くに居る家族だろう?」
「うーん、そうなんだろうけど………。」
マリアは釈然としなかった。
朔乃は、お盆の時期は遠くに居る家族が戻って来るから、その時期を避けて日本に行くと言っていた。
マリアは、人の混雑を避けているのだと理解していた。
しかし、凪が言うように、生きている家族だけとは限らないという意味を含ませていたとしたならば、なぜ避ける必要があると考えたのだろうか?
普通の人には見えないモノが視えてしまうマリア。
そのことを危惧しての判断だったのだろうか?
マリアが気付いていないだけで、トールと朔乃は、見えないモノの存在を恐れていて、本当は常に不安を抱いていたのかもしれないと、マリアは思った。




