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約束と契約  作者: オボロ
50/114

#50 前進


神楽殿かぐらでんの清掃をしたい———だと?」


マリアは凪に申し出た。

結衣と朝衣花の為に何が出来るかを考えた末、思いついたことがそれだった。


「結衣ちゃん、舞を覚えるの、頑張っているでしょ?その頑張っている時間、わたしは神楽殿を綺麗にする時間にしようと思って。結衣ちゃん、朝衣花ちゃん、頑張れって思いながら綺麗にするから。凪、おばあちゃんの許可をもらって。」


神社の事務的仕事は新太あらたがしている。

その手伝いをしているのが元暁もとあきで、巫女に指示を出しているのが陽菜乃ひなのだ。

本来、神楽殿の掃除は、新太に申し出るのが筋なのだろうが、マリアを預かりものと認識しているだろう新太に言っても、掃除をさせてもらえるとは思えず、マリアは凪に頼んだ。

案の定、新太は、マリアにそんなことをさせる訳にはいかないと、言ったらしいのだが、琴音の一言により、了承したという。


『マリアの好きにさせておやり。』


「琴音には琴音の考えがあるのだろう。好きにするといい。」


そう言って、凪も反対しなかった。



神楽殿とは、神様に舞を奉納する場所であり、その舞を四方しほうから見ることが出来るように作られている。

普段は板戸によって閉ざされているのだが、夏祭りで使用することが決まってからは、昼間だけでも戸を外し、風を通すようにしていた。


マリアは、朝衣花と結衣が舞の練習を始めると、神楽殿に行き、掃除を始めるようになった。

天井の埃を取り、床を掃き、隅々まで水拭きをした。


ここで、朝衣花と結衣が舞を舞う。

片手に鈴を持ち、しとやかに、おごそかに、優美ゆうびな舞を舞う。


「………。」


その姿を想像するだけで、心が洗われるようだった。





「最近、神楽殿の掃除もしているんですってね。」


神楽殿の清掃を終え、掃除用具を社務所に戻していると、結衣に声を掛けられた。

見ると、マリアの近くで、私服姿の結衣が、そっぽを向いて立って居た。


「練習終わったの?」

「………うん。」

「今から帰るの?」

「………そうよ。」


マリアは、結衣の質問には答えず、全く違うことを尋ねた。

結衣は、自分の聞きたいことをはぐらかされて、れたのだろう。

ようやく、マリアに顔を向けて聞いた。


「………なんで、神楽殿の掃除、しているの?」


マリアは微笑んだ。


「結衣ちゃんも朝衣花ちゃんも頑張っているでしょ?だから、わたしも頑張ろうって思って。それで、神楽殿の掃除をさせてもらうことにしたの。夏祭り、楽しみにしているね。」

「………。」


結衣は、何も言わなかった。

だが、結衣の視線は漂い、何か言いたいことがあるのに迷っている様子だったので、マリアは待った。

言いたいことがあるのに言わずに居たら、溝は深まるだけだと思った。

自分を知ってもらう為には、相手のことを知る必要がある。

結衣にマリアを分かってもらう為には、結衣のことも分かろうとする努力が必要だと思った。


やがて、結衣は決心したように口を開いた。

結衣の顔は赤かった。


「凪様のことは……、まだ認めていないからね……。」


「………っ‼」


マリアは驚いた。

驚いたが、すぐに笑みを深めて言った。


「凪のことも、認めてもらえるように頑張るね。」




少しだけ、結衣との距離が縮まったような気がした。



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