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約束と契約  作者: オボロ
42/114

#42 打開策


「1人で日本へ行く?」


その日、マリアはトールと朔乃に、夏休みに入ったら、1人でも、すぐに日本へ行きたいと願い出た。


「パパとママは、アルフとクリスと一緒に、ラフバラ―のおじいちゃんの所へ行って来たらいいと思う。日本へは、その後に来てくれたらいいわよ。わたしの所為だったんでしょ?ずっと行かなかったの。日本にしか行かなかったのも、わたしの所為だったのよね?」

「マリア……」


マリアは、家族旅行が日本ばかりであることを、小さい頃、不思議に思っていた。

友達は、色々な国へ行っているのに、どうして自分は日本にしか連れて行ってもらえないのだろうと、不満に思ったこともある。

しかし、契約のことを知り、B・Bと会い、本当に自分は悪魔に狙われているのだと分かり、マリアは気付いた。

なぜ、日本だけなのか———を。


悪魔に狙われているから、何処にも行けなかった。

悪魔に狙われていても、生きているから、ラフバラ―に居る祖父母の所へも、マリアを連れて行くのをやめてしまった。

おそらく、今までたくさんの女の子を失って来ただろう祖父母や親戚達が、マリアを畏怖の目で見てしまうのは仕方がないと思いながらも、嫌だったろうし、どうやって退けているのかと、色々聞かれても困ってしまうのだろう。

マリアが悪魔を見たことは言えないし、琴音のことも話すわけにはいかなかったのだろうから。

言っても言わなくても、ずるいと思われるのなら、行かない方が良いと判断したに違いない。

でも、トールも朔乃も、アルフもクリスも、会いたく無い訳ではない筈。

ラフバラ―に居る祖父母も、トールの親戚達も、トールには勿論、朔乃にも、アルフにも、クリスにも、会いたいと思っているに決まっている。

だから、会いに行くべきだと、マリアは思った。


「わたしのことは、心配しなくても大丈夫よ。飛行機に乗りさえすれば、日本へは着くのだから。空港には、おばあちゃんちの誰かに迎えに来てもらう。ね?大丈夫そうでしょう?」


マリアの提案に、トールも朔乃も、あまり良い顔をしなかった。

最近、マリアの周りでは、不穏なことが立て続けに起きていることが原因だ。

それらに悪魔が関わっているとは思っていなくても、今は目の届くところに居て欲しいと、思っているに違いない。

それでも、マリアは引き下がらなかった。

あの夜、マリアが部屋を抜け出し、ルイーザとノーラに会ったことは、トールも朔乃も知らない。

あの夜、何があったのかを、トールと朔乃には知られてはいけないと、マリアは思っていた。

しかし、あの夜のことを琴音に話さなければ、マリアは沈んだ気持ちのままだし、不安は消えない。

その為に、マリアは1人で日本へ行く必要があった。



「凪はどう思う?1人で行くのは無謀?おばあちゃんもダメって言うかな?」

「琴音はダメとは言わないと思うが…。子供が1人で飛行機とやらに乗ることは許されているのか?わたしは一緒に乗れないのか?」


トールと朔乃から、許可をもらえなかったマリアは、凪に相談した。

凪は飛行機に興味を持っていたが、凪が飛行機に乗れないことは、マリアにも分かった。


「凪はパスポート持ってないでしょ?」

「ぱすぽーと?」

「おばあちゃんに話してみてよ、凪。凪はおばあちゃんと話せるんでしょ?」

「自分で話せばいいだろう。祠のお札に向かって話せば、琴音には聞こえる。」


パスポートが何なのか、マリアに答えてもらえず、凪は少し不機嫌だった。

マリアは、祠の前に座って、手を合わせた。


「おばあちゃん、わたし、夏休みに入ったら、1人で先に日本へ行きたいの。おばあちゃんに聞いて欲しいことがあるの。パパとママには言えない。話すことは出来ないの。だから、協力して?パパとママに、マリアは1人でも大丈夫だって、説得して?お願いします。どうしても、おばあちゃんに聞いて欲しいの。おばあちゃんじゃないとダメなの。わたしが1人で日本へ行けるように、パパとママを説得してください。お願いします。」


祠に向かって、琴音にお願いをした、その日、トールと朔乃は、マリアを1人で日本へ行かせることを許可しなかった。

その次の日も、その次の次の日も、許可が出ることは無かった。

1週間が過ぎ、2週間が経っても、トールと朔乃は許してくれない。

琴音が説得している様子もなかった。


「おばあちゃんもダメだと思っているってこと?」


夏休みが目前に迫っているのに、未だに許可がもらえなくて、マリアは絶望的な気持ちになった。

琴音にも賛成してもらえないなら、日本へ行っても、相談を聞いてもらえるのか、不安になる。



「あら、日本から?おばあちゃんからよ。」


夏休みになる5日前に、琴音から、トールと朔乃宛てで、手紙が届いた。


「マリア、もしかして、おばあちゃんに相談した?」


勘のいい朔乃は、すぐに言い当てた。

リビングに戻って来た朔乃は、琴音からの手紙をトールに渡した。

トールが封を開けて、中から手紙を取り出した。

中には、まだ何か入っていたみたいで、トールは封筒の中を覗き、それも取り出す。


「これは……」


チケットだった。

それも、航空チケットだ。


「何、何?日本のおばあちゃん、何を送ってくれたの?パパ、早く手紙読んで。」


アルフが身を乗り出して、トールにせがんだ。

トールは手紙を朔乃に渡し、チケットをじっと見つめた。


「ママ、早く読んで。」

「トール、朔乃、クリス、マリア、アルフ、みんな元気ですか?私も、月城のみんなも元気です。」


朔乃は、心配そうにトールを見ていたが、アルフにせがまれ、手紙を読み始めた。


「クリス、マリア、アルフは、もうすぐ夏休みですね。今年も会える日を楽しみにしています。ですが、今年は、ラフバラ―で暮らすおじいさんとおばあさんにも、あなたたちの元気な顔を見せてあげて欲しいと思っています。アルフは、まだ1度も会ったことがないのではないでしょうか。きっと会いたがっていると思いますよ。トールもクリスも、もう何年も会っていないのではないですか?折角ですから、みんなで出掛けてみてはいかかでしょうか?マリアは月城家で預かります。空港から飛行機に乗るところまでは、トールと朔乃が、しっかりと見届けてください。後のことは、こちらが全部、請け負います。心配は要りません。マリアは、今年、15歳です。自分で考え、自分で判断できる歳です。私たち大人がするべきことは、支え、励まし、見守ることです。彼女の成長を喜び、送り出してください。マリアの航空チケットを同封しました。夏休みの3日目です。後から来る4人の分は、トールにお願いしますね。マリア、1人で先に、日本へいらっしゃい。待っていますよ———琴音より」

「おばあちゃん!」

「えー!マリアだけ日本に行くの?」


手紙を読み終えるのと同時に、マリアは喜び、アルフは文句を言った。


「………」


クリスは何も言わず、心配そうにマリアを見ている。


「あなた……」


朔乃がトールに声を掛けた。

トールは、しばらく黙っていて、決断できない様子だったが、やがて、観念したように、深く息を吐き、マリアに言った。


「マリア、今回は、日本へ先に1人で行くことを許すよ。でも、約束をしてくれ。パパとママは、琴音おばあちゃん程には力になれないかもしれないが、マリアを愛しているし、大切に思っている。だから、あまり1人で解決しようとしないでくれ。急いで大人になろうとしなくていいから。まだまだパパとママに守らせて欲しい。これからはパパとママにも相談して欲しい。約束してくれるね?」

「うん。わかった………。ありがとう、パパ。ありがとう、ママ。」


マリアは、日本行きの航空チケットを、トールの手から渡された。


『マリアは家族に愛されているのね。』


ルイーザの言葉を思い出した。


本当に、ルイーザは愛されていなかったのだろうか?

子供を愛さない親なんて、本当に居るのだろうか?


『わたしもママに愛されたかった。』


ドロシーも言っていた。

2人は今、幸せなのだろうか?


嬉しいはずなのに、マリアの心は、まだ暗く沈んだままだった。



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