#41 罪悪感
「終了です。テスト用紙を回収します。」
学年末試験が終わった。
「終わったぁー」
「やったー」
とりあえずは、結果のことは考えないことにして、生徒達は試験が終わったことを喜んだ。
「どうだった?マリア」
「うーん…、まぁまぁかな。」
もちろん、マリアも、試験が終わったことは嬉しいし、ホッとした。
しかし、他の生徒達のように、諸手を上げて喜べる心境では無かった。
ルイーザは死んだ。
行方不明になった翌朝、テムズミス公園の展望台近くで、死体となって発見された。
飛び降り自殺———との発表だった。
ジャックとノーラは、パーカー図書館の敷地内に居たらしい。
しっかりと抱き合い、2人は眠っていたという。
どうして此処に居るのか。
何をしていて、どうして眠ってしまったのか。
2人は全く覚えていなかったらしいが、学生でありながらふしだらであると判断され、厳重注意を受けたのだった。
勿論、警察には2人の両親が呼ばれ、監督不行き届きのお咎めを受けたとのことだ。
マリアは、何があってどうなったのか、全て覚えていた。
覚えていないのは、濃い霧の中から、どう帰って来たのか——だけ。
目覚めた時には、朝になっていて、マリアは自分のベッドで寝ていた。
凪が連れて帰って来たのだと言う。
濃い霧の中で眩暈を起こし、気付いた時には日本庭園に居たらしい。
ジャックとノーラは居ないし、B・B達の姿も無かった為、大きな狐の姿に戻り、マリアを咥えて家に戻って来たのだと、マリアは凪から聞いた。
濃い霧の中に消える瞬間に見えた、ルイーザの驚いた顔が忘れられない。
死ぬことに気付いていなかったならば、気付かないままであった方が良かったのではないかと、思えてならない。
あの後、ルイーザは怖い思いをしたのだろうか?
なぜもっと早くに教えてくれなかったのか?———と、マリアを恨んでいただろうか?
B・Bの狙いは何だったのだろう?
マリアの代わりに、ルイーザを連れて行くことが目的だったのだろうか?
ノーラは、ジャックとの交際に支障は出ても、精神的な後遺症は残らなかったらしい。
今では学校にも通っていると、噂で聞いた。
大人しそうな顔をして、随分と大胆なことをする娘だと、好ましくないレッテルを貼られてしまったが、精神崩壊にならなくて良かったと、マリアは思っていた。
しかし、そう思っているのはマリア位で、あの日のあの状況を全く知らない、または、全く覚えていないノーラもジャックも、ノーラの両親もジャックの両親も、良かったなどと思うことは出来ないだろう。
いずれ、ノーラとジャックは、遠く離れた別々の場所で暮らすことになるかもしれない。
離れ離れになっても、今回の事件や噂を全く知らない人達の中で暮らした方が、2人は幸せになれるのかもしれない。
今回の事件や噂を全く知らない人達に囲まれて暮らしていたなら、事件のことも、噂のことも、2人は忘れることが出来るかもしれない。
それでも、ジャックは、この先ずっと、ルイーザのことだけは忘れないのだろうか?
ノラのアレは何だったのだろう?
マリアは、ノラがジャックの額に手を当てていた様子を思い出した。
異空間を作ったり、術を掛けたり、使い魔は、実は色んなことが出来ることを、マリアは知った。
他の4人も、そうなのだろうか?
そうだとしたら、B・Bは、もしかしたら、すごい悪魔なのかもしれない。
果たして逃れ続けることは出来るのだろうか?
逃れる度に、別の誰かが犠牲になるのだろうか?
このまま逃れ続けて居ても良いのだろうか?
あの事件以来、B・Bも、B・Bの使い魔達も、マリアに接触して来ることは無かった。
ルイーザとドロシーの魂は、どうなったのだろうか?
気になるが、知るのは少し怖い気がした。
知りたいような、知りたくないような、知ってはいけないような、複雑な気持ちだった。
もう少し、何かが出来ていたなら、結果は違っていたのだろうか?
何かが出来るようになることはあるのだろうか?
何が出来るのだろうか?
出来る何かはあるのだろうか?
マリアの心は、ずっと沈んだままだった。
「マリアは夏休み、また日本へ行くの?」
ミリアが聞いた。
いつの間にか、会話は夏休みの話になっていたらしい。
「うん。今年は少し早めに行って、結構長く居る予定。ミリアは?」
マリアもミリアに聞いた。
ミリアの家族は、毎年、違った国へ行く。
「まだ決まってないの。最近太ったから水着るのは気が重いのよねぇ。」
「そう?そんなに太ったって感じはしないけど……。」
「だめだめ。本当に太ったんだから。」
「マリアって、昔からあまり体型変わらないわよね。マリアママも痩せてるし。日本人って、あまり太らないの?」
アネッサが言った。
アジアの人は神秘的だと、思っている一人だ。
日本人を、そんな偏見の目で見られたら大変なので、マリアは慌てて答えた。
「そんなことないわよ。体質よ。偶々うちのママが余り太らない体質だってだけだから。」
「でもさ。素敵よね。国際結婚。ちょっと憧れちゃう。」
モーリンが夢見るように言うと、レベッカが茶々を入れた。
「チャーリーが聞いたら泣くよ?」
「くすくす……チャーリーとじゃ、国際結婚にはならないもんね。」
ステファニーがくすくす笑いながら言った言葉で、みんなも笑った。
夏休みの間は会えなくなるが、9月になれば、また全員が揃う。
一つ学年が上がり10年生になっても、変わらずみんなでくだらない話に花を咲かせて笑い合うのだ。
彼女たちと友達で良かったと、マリアは嬉しく思う。
彼女たちと、ずっと友達でいたいと思うから、マリアは距離を置いてしまう。
その思いは、以前よりも強くなっていた。
この中の誰かが、B・Bに目を付けたられていたなら……
そう考えると、マリアは怖くなった。
絶対に無いとは言い切れないから、恐怖が消えることは無い。
守りたい。
助けたい。
そう思っても、何も出来ないマリアには、守ることも、助けることも、出来はしない。
何が出来るのか…
何か出来ることはあるのか……
今年の夏休みは、琴音の所へ行って、この相談をしようと、マリアは決めていた。




