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約束と契約  作者: オボロ
41/114

#41 罪悪感


「終了です。テスト用紙を回収します。」


学年末試験が終わった。


「終わったぁー」

「やったー」


とりあえずは、結果のことは考えないことにして、生徒達は試験が終わったことを喜んだ。


「どうだった?マリア」

「うーん…、まぁまぁかな。」


もちろん、マリアも、試験が終わったことは嬉しいし、ホッとした。

しかし、他の生徒達のように、諸手を上げて喜べる心境では無かった。



ルイーザは死んだ。

行方不明になった翌朝、テムズミス公園の展望台近くで、死体となって発見された。

飛び降り自殺———との発表だった。


ジャックとノーラは、パーカー図書館の敷地内に居たらしい。

しっかりと抱き合い、2人は眠っていたという。

どうして此処に居るのか。

何をしていて、どうして眠ってしまったのか。

2人は全く覚えていなかったらしいが、学生でありながらふしだらであると判断され、厳重注意を受けたのだった。

勿論、警察には2人の両親が呼ばれ、監督不行き届きのお咎めを受けたとのことだ。


マリアは、何があってどうなったのか、全て覚えていた。

覚えていないのは、濃い霧の中から、どう帰って来たのか——だけ。

目覚めた時には、朝になっていて、マリアは自分のベッドで寝ていた。

凪が連れて帰って来たのだと言う。

濃い霧の中で眩暈を起こし、気付いた時には日本庭園に居たらしい。

ジャックとノーラは居ないし、B・B達の姿も無かった為、大きな狐の姿に戻り、マリアを咥えて家に戻って来たのだと、マリアは凪から聞いた。


濃い霧の中に消える瞬間に見えた、ルイーザの驚いた顔が忘れられない。

死ぬことに気付いていなかったならば、気付かないままであった方が良かったのではないかと、思えてならない。


あの後、ルイーザは怖い思いをしたのだろうか?

なぜもっと早くに教えてくれなかったのか?———と、マリアを恨んでいただろうか?

B・Bの狙いは何だったのだろう?

マリアの代わりに、ルイーザを連れて行くことが目的だったのだろうか?


ノーラは、ジャックとの交際に支障は出ても、精神的な後遺症は残らなかったらしい。

今では学校にも通っていると、噂で聞いた。

大人しそうな顔をして、随分と大胆なことをする娘だと、好ましくないレッテルを貼られてしまったが、精神崩壊にならなくて良かったと、マリアは思っていた。

しかし、そう思っているのはマリア位で、あの日のあの状況を全く知らない、または、全く覚えていないノーラもジャックも、ノーラの両親もジャックの両親も、良かったなどと思うことは出来ないだろう。

いずれ、ノーラとジャックは、遠く離れた別々の場所で暮らすことになるかもしれない。

離れ離れになっても、今回の事件や噂を全く知らない人達の中で暮らした方が、2人は幸せになれるのかもしれない。

今回の事件や噂を全く知らない人達に囲まれて暮らしていたなら、事件のことも、噂のことも、2人は忘れることが出来るかもしれない。

それでも、ジャックは、この先ずっと、ルイーザのことだけは忘れないのだろうか?

ノラのアレは何だったのだろう?


マリアは、ノラがジャックの額に手を当てていた様子を思い出した。

異空間を作ったり、術を掛けたり、使い魔は、実は色んなことが出来ることを、マリアは知った。

他の4人も、そうなのだろうか?

そうだとしたら、B・Bは、もしかしたら、すごい悪魔なのかもしれない。


果たして逃れ続けることは出来るのだろうか?

逃れる度に、別の誰かが犠牲になるのだろうか?

このまま逃れ続けて居ても良いのだろうか?


あの事件以来、B・Bも、B・Bの使い魔達も、マリアに接触して来ることは無かった。


ルイーザとドロシーの魂は、どうなったのだろうか?


気になるが、知るのは少し怖い気がした。

知りたいような、知りたくないような、知ってはいけないような、複雑な気持ちだった。


もう少し、何かが出来ていたなら、結果は違っていたのだろうか?

何かが出来るようになることはあるのだろうか?

何が出来るのだろうか?

出来る何かはあるのだろうか?


マリアの心は、ずっと沈んだままだった。



「マリアは夏休み、また日本へ行くの?」


ミリアが聞いた。

いつの間にか、会話は夏休みの話になっていたらしい。


「うん。今年は少し早めに行って、結構長く居る予定。ミリアは?」


マリアもミリアに聞いた。

ミリアの家族は、毎年、違った国へ行く。


「まだ決まってないの。最近太ったから水着るのは気が重いのよねぇ。」

「そう?そんなに太ったって感じはしないけど……。」

「だめだめ。本当に太ったんだから。」


「マリアって、昔からあまり体型変わらないわよね。マリアママも痩せてるし。日本人って、あまり太らないの?」


アネッサが言った。

アジアの人は神秘的だと、思っている一人だ。

日本人を、そんな偏見の目で見られたら大変なので、マリアは慌てて答えた。


「そんなことないわよ。体質よ。偶々うちのママが余り太らない体質だってだけだから。」


「でもさ。素敵よね。国際結婚。ちょっと憧れちゃう。」


モーリンが夢見るように言うと、レベッカが茶々を入れた。


「チャーリーが聞いたら泣くよ?」

「くすくす……チャーリーとじゃ、国際結婚にはならないもんね。」


ステファニーがくすくす笑いながら言った言葉で、みんなも笑った。

夏休みの間は会えなくなるが、9月になれば、また全員が揃う。

一つ学年が上がり10年生になっても、変わらずみんなでくだらない話に花を咲かせて笑い合うのだ。

彼女たちと友達で良かったと、マリアは嬉しく思う。

彼女たちと、ずっと友達でいたいと思うから、マリアは距離を置いてしまう。

その思いは、以前よりも強くなっていた。


この中の誰かが、B・Bに目を付けたられていたなら……


そう考えると、マリアは怖くなった。

絶対に無いとは言い切れないから、恐怖が消えることは無い。

守りたい。

助けたい。

そう思っても、何も出来ないマリアには、守ることも、助けることも、出来はしない。


何が出来るのか…

何か出来ることはあるのか……


今年の夏休みは、琴音の所へ行って、この相談をしようと、マリアは決めていた。



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