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約束と契約  作者: オボロ
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#04 凪


凪が現れると、B・Bの態度は一変した。


「獣如きが偉そうに………、ボディガード気取りか………」


笑みすら浮かべて話す凪に対して、B・Bは見下し、あざけった。

マリアに対しての時と、明らかに態度が違う。


「お前はたかが獣。眷属けんぞくする立場の者が、わたしに対抗できるなどと、まさか思い上がってはいないだろうな。」


悪魔の風格を見せつけるように、場の空気が一瞬にして重くなった。

急に黒い雲が空を覆い、周囲は暗くなり、風が強くなる。

風にあおられるマリアをかばいながら、凪は静かに言った。


「わたしは神に眷属する者。悪魔には従わない。わたしはわたしのあるじめいに従うだけだ。マリアは渡さない。諦めて去れ。」

「………」


B・Bは何も答えなかった。

風はさらに強くなり、マリアは顔を上げることも、立っていることさえも出来なくなった。

膝をつき、庇う凪の腕にしがみ付きながら、吹き荒れる風に耐えることしか出来ない。

吹き荒れる風はサクラの花びらを巻き込み、マリアと凪を取り囲んで巻き上がり、竜巻のようになって消えた。


消えた瞬間、すべての音が戻った。

人の気配や、ざわめきが戻り、元通りになった。


周りの様子を確認した凪が立ち上がり、マリアに手を差し出す。


「大丈夫か?マリア。」

「う、うん」


マリアは凪の手を取り、支えられながら立ち上がった。

周りを見渡しても、B・Bの姿はどこにもなかった。


「マリア‼どうしたの⁉」


通りの奥から、同級生のルイーザが駆け寄ってきた。

ふらふらになっているマリアを見つけ、驚いている様子だけれど、決して派手ではないマリアが、見目麗しい男性と一緒に居ることに、驚いている様子だった。


「大丈夫。ちょっと立ち眩みがしただけだから………」

「そうなの?そちらは?」


すかさず凪のことを聞くあたり、目的としては後者なのだろうと、マリアは思う。

マリアはルイーザが苦手だった。

なんにでも首を突っ込む知りたがりで、大げさに吹聴する噂好きだからだ。

マリアのことも、何を言われるかわからない。

下手なことは言えないので、慎重に言葉を選んだ


「彼はお母さんの遠縁の人なの。今日はわたしのことを迎えに来てくれて、本当に助かったわ。だから、もう大丈夫よ。心配してくれてありがとう、ルイーザ。また明日ね。」


凪の手を借り、歩き出せば、凪も軽く会釈をして歩き出した。


「またね、マリア。」


ルイーザは、つまらなそうに手を振っていた。




マリアと凪は、家まで歩いて帰った。

送り迎えのある生徒ばかりだが、マリアの家までは、わずか20分足らずの距離なので、歩いても問題はないだろうという両親の考えだった。

もちろん、凪という存在があるのも理由の一つだ。

万が一にもマリアに危険が及べば、凪がすぐさまマリアを助けに向かうことを、マリアの両親は信じていた。

普段の凪は、大きな白い狐の姿で、マリア以外、誰にも見ることは出来ないが、普通の大きさの白い狐の姿や、若くて美しい人間の姿は、誰の目にも見えていた。


近所の人達には、普通の狐の凪のことは、日本から連れて来たペットだと言い、人間の姿の凪のことは、マリアの母・朔乃の遠縁に当たる人で、仕事の関係でこっちに来ることになったので預かることになったと、話してある。

だから、たびたびマリアと凪が一緒にいても、「仲がいいのね」と、思われるくらいで、不思議に思われることはなかった。


マリアと凪は家に着くと、家の中を通り過ぎ、裏庭へ出た。

裏庭は、まるで小さな日本庭園のようになっていた。

砂利が引き詰められ、踏み石や岩があり、灯篭もある。

奥に行くと、小さな手水鉢があり、その先に小さな祠があった。



庭も祠も、マリアが初めて日本へ行った時から、色々な人の手を借りて、少しずつ作られたものだった。

朔乃の母で、マリアの祖母である琴音が提案したことだが、マリアの家では、毎年夏休みを日本で過ごし、帰りには朔乃の兄弟やいとこが来て、少しずつ庭を造っていった。

砂利も石も岩も、灯篭も手水鉢も、祠も、全て琴音が宮司を務めている黒石神社でお祓いをしたものだ。

祠の中には、琴音が祈りと思いを込めたお札が貼ってあり、マリアは、毎日欠かさず手を合わせている。

マリアを守るためであり、琴音とマリアを繋ぐものでもあるから、決して剥がさず、その日にあった出来事を、出来るだけ毎日報告するように———と、マリアは琴音に言われていた。

そして、祠が完成してから丸3年、家に帰ると必ず手を合わせ、報告を続けたマリアの前に、大きな白い狐の凪が現れた。

以来、マリアの家の祠と、日本にある黒石神社の祠は繋がり、凪は日本とイギリスを行き来することが出来るようになった。

とはいえ、凪の勝手で行ったり来たりは出来ないのだが…。



この日も、マリアは手水鉢で手を清め、祠に向かって手を合わせた。

毎日の報告は、もうすっかり習慣となってしまっていた。


「悪魔に会ったよ、おばあちゃん。今日、初めて悪魔に話し掛けられたよ。でも、凪が守ってくれたよ。追い払ってくれたよ。」


大きな狐の姿に戻った凪は、祠に向かって手を合わせているマリアの横顔を見つめながら、考えていた。



B・Bと名乗った男の姿は、『鬼』とは違っていた。

ぱっと見、普通の人間と変わらないように見えたが、消える瞬間、背中に黒い翼のようなものが見えた。

もしかしたら、自分と同じように姿を変えることが出来るのかもしれない。

ならば、あのヒトと同じような姿は別の姿で、本当の姿はまた違う形をしているのだろうか?


マリアの送り迎えがなくなってから7か月、マリアは1人で登校していた。

仕掛ける機会はあっただろうに、なぜ、今日だったのだろうか?


偶然?

必然?


マリアの傍に居ることが決まってから、悪魔についてのことを黒石神社の者達が色々調べてくれたのだが、どれも言い伝えや迷信のようなものばかりで当てにならなかった。


悪魔にとって、今日が特別な日だった可能性は?

そもそも悪魔に日時の認識はあるのだろうか?



………。



考えても答えは出なかった。



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