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約束と契約  作者: オボロ
39/114

#39 駆け引き


屋上から降りる方法は、2つ。


自力で降りるか。

自力ではない力を使って降りるか。


自力で降りる場合、下に降りるはしごを探し、気を失っているノーラを、誰かが担ぐなりどうにかして、全員が順番に降りなければならない。

展望台は、もう閉まっているので、エレベーターもエスカレーターも使えない。


自力ではない力を使って降りる場合、凪の正体を知られてしまうことになる。

凪が人ではないと知られてしまったら、マリアも人ではないと思われてしまう。

人であっても、普通の人ではないだろうと、勘繰られてしまうに違いない。


マリア達が居る屋上らしき場所は、普段は人の出入りが許されていない場所のようで、簡単には人が入って来られないようになっている。

つまり、屋上からも簡単には出られない造りをしている。

それでも、下に降りるはしごは何処かにあるはずだと、探した結果、柵のない屋上のふち部分に固定されている、剥き出しの簡易的なはしごを見つけた。

非常用に使う様な、本当に上り下りが出来ればいいだけのはしごだった。

作業員が屋上の点検をする時だけに使用するはしごなのだろう。

そのはしごを使って降りるのは、かなり危険だし、体力が要る。

はしごがあることを発見してから、ジャックにも、ルイーザにも、確認してもらったが、2人とも、はしごがあって良かったという、嬉しそうな顔はしなかった。


本当に、これで降りるの?


2人の顔は語っていた。


既に日は沈み、外灯だけがぼんやりと照らしている中、マリアは、どうすることが1番いい方法なのかを考えた。


全員が無事に降りるためには、凪に頼むのが1番いい。

凪の正体を知られても、全員が助かる方がいいに決まっている。

それでも、躊躇ってしまうのは、自分の身を守っているから。

普通の子とは違うことを、知られてしまうのが怖いから。


こんな時にまで自分のことなのか———と、マリアは自分を浅ましく思った。




「所詮は、こんなものか……。」




B・Bの声がした。


「!!」


いつの間のか、B・Bと使い魔達は、屋上に居た。

マリア達が屋上から降りることが出来ず、途方に暮れる様子を見ていたらしい。

やはり、ここはまだ異空間なのだろうか———と、マリアは思った。


「『神』と関わりがあっても、『神』では無いから無能なのか?それとも、『神』が無能なのか?さてさて、お前たちがただ無能なだけかな?」


B・Bは薄く笑みを浮かべ、おどけるように言う。

B・Bの傍らに立つ使い魔達も、薄く笑っている。


「お前が言う『神』と、わたしが仕える『神』は、必ずしも一致しているとは思わないが、『神』では無いから、『神』と同じ尊力ちからが使えないというのは、正解だ。しかし、無能ではない。」


凪が言い返した。

“無能”と言われたことに対して、反論している。

『神』が侮辱されたことが許せなかったのか、凪が侮辱されたことが許せなかったのか……

おそらく、両方なのだろう。

琴音は、神様は見守るだけだと言っていたが、何の力も無い訳がない。

では、凪の力とは何だろう?———と、マリアは考えた。


B・Bも同じことを思ったらしい。


「では、“神使”殿には何が出来る?無能ではないと言うなら、早くその力を使って、そこに居る哀れな人間共を助けてやったらいい。」


邪魔はしないと言うように、その場から動かず、B・Bは言った。


「………」


凪はマリアを見た。


「マリア、わたしは全員を連れて、ここから逃れることは出来る。しかし、強行にここから逃れた場合、ルイーザとジャックは助かるが、ドロシーは消える。ノーラはどうなるか分からない。わたしには、これ以上、B・Bと交渉する話術を持ち合わせていない。どうする?」


マリアは、一瞬、噴き出しそうになってしまった。

凪は言い返したのではなく、交渉していたつもりだったらしい。

あれが交渉だったのだとしたら、凪の交渉術は致命的だ。

B・Bにも交渉された自覚はないに違いない。

だが、凪が元の姿に戻って、今すぐ全員を連れて逃げることが出来ないことはわかった。

マリアが今、すべきことは、ノーラの今の状態を知ること。

強行に連れ帰っても大丈夫なのかを、確認することだ。


「B・B。どうしてノーラは目覚めないの?」

「何を急に……。」

「どうして目覚めないのか、不思議だと思って。」


B・Bは、マリアの質問に、少し驚いたような顔をした。

無意識だろう、ノーラをちらりと見る。

急に視線を向けられたジャックは、慌ててノーラを抱き締めた。

その様子に、ルイーザは寂しそうに目を伏せ、ドロシーは慰めるようにルイーザの腕を撫でた。


「ドロシーの話では、ノーラは怖い夢を見てるって。このまま逃げても、ノーラが目覚めなかったり、目覚めたノーラが酷いことになったりしたら意味がないの。だから、ノーラを目覚めさせて。そうしたら、ご希望通り、凪が無能ではないことをお見せするわ。」

「つまり、ノーラを含めて助けることは出来ないと?」

「誰にでも、得手不得手があるしょう?」


マリアは粘り強く言い返した。

これが交渉なのかどうかは分からなかったが、ノーラのことは、ここで引き下がってはいけないことだけは分かっていた。


「ノーラがなぜ目覚めないのか、それも教えてくれないの?」

「………」


B・Bが黙った。


「誰がやったことなの?ノーラを眠らせたヒトになら、目覚めさせることは出来るでしょう?」


マリアは使い魔達を見た。

使い魔達は、5人が5人とも、びくりと反応した。

マリアは1人ひとりをじっと見た。

一度会ったことのあるノラは、マリアと目が合うと、少し引き攣った笑みを見せた後、スーッと視線を反らした。

ドドは、マリアと目が合うと同時に、慌てて下を向いた。

バドは、初めからずっとそっぽを向いて、マリアと目を合わせようとしない。

ヴィゼは、目が合ったマリアに、にっこりと微笑み、小首を傾げて見せた。

最後はクロ。

クロは、挙動不審で、マリアと目を合わせたくないのに、マリアのことが気になり、ちらりちらりと覗き見ている。

マリアは、クロに照準を合わせた。


「あなたは知っているわね?」


マリアは、クロと目が合った瞬間に聞いた。

クロはびくりとして、固まった。


「あなたがしたことなの?」


マリアはにっこりと微笑み、更に聞いた。

クロは狼狽し、小刻みに何度も首を横に振った。

自分ではないと主張している。


「じゃあ、誰がやったの?」


クロの視線が動いた。

クロの視線はノラを指す。


「やれやれ……」


ノラが呆れた。


「……‼」

「おい!」

「クロ!バカ!」


ドドは驚き、バドとヴィゼはクロを責めた。


「………ゴメン。」


クロはしゅんとなって項垂れた

5人の様子にB・Bは笑い、マリアに言った。


「いいだろう。ノーラは目覚めさせてやろう。だが、それで?ノーラだけを助けて、ここから逃げて、それで終わり?何も解決しないが、それでいいのかな?」

「どういう意味?」

「ルイーザの望みと、ドロシーの望みは?」

「………っ‼」


今度はマリアが黙る番だった。



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