#38 脱出
いつも賑やかな6人組の中に居て、その中では目立たない存在だった。
地味ではないが、派手ではなく。
内気そうには見えないが、我が強そうにも見えない。
際立って頭がいいわけでもなく、だが、落ちこぼれでもない。
———至って普通の子———
それが、マリアのイメージだった。
そのマリアに無理やり立たされ、ルイーザは引き摺られるような勢いで走らされている。
本当は、こんなにも強引に行動する子だったのだろうか?
ルイーザは、まだよく回らない頭で、ぼんやりと思っていた。
B・BとB・Bの使い魔達は、何もせず、ルイーザを奪還して走り去るマリア達を眺めている。
マリアは、そのことを不思議に思いながら走っていた。
「ダメだ‼マリア‼ここはB・Bが作った空間だ。どこへ走っても、あいつらから逃げることは出来ない!」
ノーラを担いで、ドロシーとジャックを連れて来た凪が、ルイーザを引っ張り、走って来たマリアに叫んだ。
マリアは、それで合点がいった。
道理で、目の前でルイーザが連れ去られても、止めもせずに見ているわけだ。
逃げられるものなら逃げてみろ———と、いうわけか。
しかし、合点のいかないところもある。
「ここに入る時は?すんなり入って来られたわ。」
「入って来たと言うより、招き入れられたと言った方が正しいのだろう。」
凪は悔しそうだった。
マリアを連れて来ることを、B・Bに予測されていたからだ。
「異空間に入ってしまったら、外に出ることは出来ないの?」
「術者が自ら解くか、術者を伸して解くか。方法はどちらかだけだ。」
「術者はB・Bだと思う?」
「規模にもよるな。簡単なものなら、使い魔にも出来るのだろう。以前、ネコが使っていた。」
「規模……。移動してみようか。」
マリアと凪は、B・B達が居た場所とは逆の方へと向かった。
ジャックは、凪が担いでいるノーラを追いかけるように走っている。
ドロシーは、ルイーザを、追いかけていた。
マリアに腕を引っ張られて走っているルイーザは、マリアと凪の会話に、耳を疑っていた。
「異空間って何?B・Bって誰?ねぇ、マリア、使い魔って……」
「ごめんね、ルイーザ。説明は後でね。今は、ここから逃げる方法を考えなきゃ、だから。」
テムズミス公園内の日本庭園は広い。
B・B達が作った空間でも、同じ場所をループしている訳でもないようだったので、同じくらいの広さがあると思われた。
「日本庭園を出てみようか?」
マリアは提案した。
日本庭園の外も空間内なのだとしたら、術者はきっとB・Bだ。
庭園の出入り口が見えた。
左右に竹垣がある。
そこを通り抜ければ、日本庭園から出ることになる。
マリア達は、竹垣を通り抜け、日本庭園を出た。
「……っ‼」
「……え⁈」
「きゃあ!」
「わぁっ!」
「きゃー!」
突然、空間が歪んだ。
「全員、誰かに掴まれ!」
凪が叫んだ。
片手をマリアに差し出している。
マリアは、ルイーザの腕を掴んだまま、もう片方の手で凪の手を掴んだ。
ドロシーは、ルイーザの、マリアに掴まれていない方の腕に、両手でしがみ付き、ジャックは、ノーラの手を握った。
マリアは、宙に浮かんでいるような感覚だった。
宙に浮かんだまま、ゆっくりと回転しているような気分だった。
地上に足が付いたのは、突然だった。
ドンッ!
ドタンッ!
バタンッ!
ドシンッ!
立って居られたのは凪だけで、凪以外の全員が、その場に転がった。
「痛い……」
マリアは打った膝と肘を摩りながら立ち上がった。
「いたたたたた……」
「つっ……くそっ……」
ルイーザもジャックも、ぶつけた場所を摩りながら立ち上がっている。
「大丈夫?ルイーザ。」」
ドロシーは、立ち上がると、すぐにルイーザの傍へ行き、痛がるルイーザを心配していた。
「ここはどこ?」
マリアは辺りを見ながら、凪の近くへ行った。
かなり高い場所らしい。
見晴らしが良く、どこかの屋上のようだ。
下の階に降りられそうな場所や階段も無く、端に柵も無いことから、本来は、立ち入ることのできる場所ではないのだろうと思った。
凪は、担いでいたノーラを降ろし、その場に横にさせてから、柵の無い端へ向かった。
端に立ち、下を見る。
数秒見て、戻って来た。
「展望台だ。」
「展望台?どこの?」
「先ほどまで居た日本庭園が、すぐ近くにある。」
「テムズミス公園の展望台?」
「の、上だ。ここがまだ空間内なのかどうかは分からないがな。」
マリアは考えた。
ここが空間の中ではなく、現実の場所だったら、凪が大きな狐の姿になって、全員を下に降ろすことは可能だ。
だが、その場合、ルイーザとジャックに、全てがバレてしまうことになる。
ここがまだ空間の中なのだとしたら、術者はB・Bで、簡単には出られないことが決定する。
どうしたら………
「あら?あの子は?」
ルイーザの声がした。
ジャックはノーラの傍に居て、少し離れた所に居るルイーザは、きょろきょろと周りを見ている。
「どうしたの?ルイーザ。」
マリアは聞いた。
「あの子が居ない。日本庭園を出た時、わたしの腕にしがみ付いていた女の子。あの子、途中で手を放しちゃったのかしら……。マリア、途中で手を放してしまったら、あの子、どうなるの?」
ルイーザは、本当に心配している。
しかし、ドロシーは、ずっとルイーザの傍に居る。
マリアは、ジャックを見た。
「ジャックは?ジャックは、ドロシーがどこに居るか分かる?」
ジャックは、マリアと目が合うと、視線をノーラへ移して言った。
「ルイーザの姿から幼い女の子に変わったんだ。今度も違う姿に変わったんじゃないの?」
どうやら、ジャックにも見えないらしいと、マリアは思った。
だったら、ここは現実だ。
「凪。」
「いや、ドロシーの姿を見えなくさせることは、空間内でも出来る。見えなくなったから空間内ではないと、判断するのは危険だ。」
マリアの考えていることが分かった凪は、逸るマリアを諭した。
急いで判断しても、間違っていたなら、脱出することも出来ず、知られたくないことを知られるだけの、最悪の状況になってしまう。
マリアにとって、一番良い方法を、凪は取りたいと思っている。
これから先、マリアが辛い思いをしないように。
心も身体も、傷付かずに済むように。
何をすればいいのか……
凪も考えを巡らせた。
遂に日は沈んでしまった。




