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約束と契約  作者: オボロ
38/114

#38 脱出


いつも賑やかな6人組の中に居て、その中では目立たない存在だった。

地味ではないが、派手ではなく。

内気そうには見えないが、我が強そうにも見えない。

際立って頭がいいわけでもなく、だが、落ちこぼれでもない。


———至って普通の子———


それが、マリアのイメージだった。


そのマリアに無理やり立たされ、ルイーザは引き摺られるような勢いで走らされている。


本当は、こんなにも強引に行動する子だったのだろうか?


ルイーザは、まだよく回らない頭で、ぼんやりと思っていた。


B・BとB・Bの使い魔達は、何もせず、ルイーザを奪還して走り去るマリア達を眺めている。

マリアは、そのことを不思議に思いながら走っていた。


「ダメだ‼マリア‼ここはB・Bが作った空間だ。どこへ走っても、あいつらから逃げることは出来ない!」


ノーラをかついで、ドロシーとジャックを連れて来た凪が、ルイーザを引っ張り、走って来たマリアに叫んだ。

マリアは、それで合点がいった。


道理で、目の前でルイーザが連れ去られても、止めもせずに見ているわけだ。

逃げられるものなら逃げてみろ———と、いうわけか。


しかし、合点のいかないところもある。


「ここに入る時は?すんなり入って来られたわ。」

「入って来たと言うより、招き入れられたと言った方が正しいのだろう。」


凪は悔しそうだった。

マリアを連れて来ることを、B・Bに予測されていたからだ。


「異空間に入ってしまったら、外に出ることは出来ないの?」

「術者が自ら解くか、術者を伸して解くか。方法はどちらかだけだ。」

「術者はB・Bだと思う?」

「規模にもよるな。簡単なものなら、使い魔にも出来るのだろう。以前、ネコが使っていた。」

「規模……。移動してみようか。」


マリアと凪は、B・B達が居た場所とは逆の方へと向かった。

ジャックは、凪が担いでいるノーラを追いかけるように走っている。

ドロシーは、ルイーザを、追いかけていた。

マリアに腕を引っ張られて走っているルイーザは、マリアと凪の会話に、耳を疑っていた。


「異空間って何?B・Bって誰?ねぇ、マリア、使い魔って……」

「ごめんね、ルイーザ。説明は後でね。今は、ここから逃げる方法を考えなきゃ、だから。」


テムズミス公園内の日本庭園は広い。

B・B達が作った空間でも、同じ場所をループしている訳でもないようだったので、同じくらいの広さがあると思われた。


「日本庭園を出てみようか?」


マリアは提案した。

日本庭園の外も空間内なのだとしたら、術者はきっとB・Bだ。


庭園の出入り口が見えた。

左右に竹垣がある。

そこを通り抜ければ、日本庭園から出ることになる。


マリア達は、竹垣を通り抜け、日本庭園を出た。


「……っ‼」

「……え⁈」

「きゃあ!」

「わぁっ!」

「きゃー!」


突然、空間が歪んだ。


「全員、誰かに掴まれ!」


凪が叫んだ。

片手をマリアに差し出している。

マリアは、ルイーザの腕を掴んだまま、もう片方の手で凪の手を掴んだ。

ドロシーは、ルイーザの、マリアに掴まれていない方の腕に、両手でしがみ付き、ジャックは、ノーラの手を握った。


マリアは、宙に浮かんでいるような感覚だった。

宙に浮かんだまま、ゆっくりと回転しているような気分だった。

地上に足が付いたのは、突然だった。


ドンッ!

ドタンッ!

バタンッ!

ドシンッ!


立って居られたのは凪だけで、凪以外の全員が、その場に転がった。


「痛い……」


マリアは打った膝と肘を摩りながら立ち上がった。


「いたたたたた……」

「つっ……くそっ……」


ルイーザもジャックも、ぶつけた場所を摩りながら立ち上がっている。


「大丈夫?ルイーザ。」」


ドロシーは、立ち上がると、すぐにルイーザの傍へ行き、痛がるルイーザを心配していた。


「ここはどこ?」


マリアは辺りを見ながら、凪の近くへ行った。

かなり高い場所らしい。

見晴らしが良く、どこかの屋上のようだ。

下の階に降りられそうな場所や階段も無く、端に柵も無いことから、本来は、立ち入ることのできる場所ではないのだろうと思った。


凪は、担いでいたノーラを降ろし、その場に横にさせてから、柵の無い端へ向かった。

端に立ち、下を見る。

数秒見て、戻って来た。


「展望台だ。」

「展望台?どこの?」

「先ほどまで居た日本庭園が、すぐ近くにある。」

「テムズミス公園の展望台?」

「の、上だ。ここがまだ空間内なのかどうかは分からないがな。」


マリアは考えた。

ここが空間の中ではなく、現実の場所だったら、凪が大きな狐の姿になって、全員を下に降ろすことは可能だ。

だが、その場合、ルイーザとジャックに、全てがバレてしまうことになる。

ここがまだ空間の中なのだとしたら、術者はB・Bで、簡単には出られないことが決定する。


どうしたら………


「あら?あの子は?」


ルイーザの声がした。

ジャックはノーラの傍に居て、少し離れた所に居るルイーザは、きょろきょろと周りを見ている。


「どうしたの?ルイーザ。」


マリアは聞いた。


「あの子が居ない。日本庭園を出た時、わたしの腕にしがみ付いていた女の子。あの子、途中で手を放しちゃったのかしら……。マリア、途中で手を放してしまったら、あの子、どうなるの?」


ルイーザは、本当に心配している。

しかし、ドロシーは、ずっとルイーザの傍に居る。

マリアは、ジャックを見た。


「ジャックは?ジャックは、ドロシーがどこに居るか分かる?」


ジャックは、マリアと目が合うと、視線をノーラへ移して言った。


「ルイーザの姿から幼い女の子に変わったんだ。今度も違う姿に変わったんじゃないの?」


どうやら、ジャックにも見えないらしいと、マリアは思った。

だったら、ここは現実だ。


「凪。」

「いや、ドロシーの姿を見えなくさせることは、空間内でも出来る。見えなくなったから空間内ではないと、判断するのは危険だ。」


マリアの考えていることが分かった凪は、はやるマリアをさとした。

急いで判断しても、間違っていたなら、脱出することも出来ず、知られたくないことを知られるだけの、最悪の状況になってしまう。

マリアにとって、一番良い方法を、凪は取りたいと思っている。


これから先、マリアがつらい思いをしないように。

心も身体も、傷付かずに済むように。

何をすればいいのか……


凪も考えをめぐらせた。





遂に日は沈んでしまった。



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