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約束と契約  作者: オボロ
37/114

#37 マリアの決断


『神様はね、スーパーマンじゃないの。だから、困った人が居ると助けに行ったり、悪い人をやっつけたりはしないの。』


幼いマリアに、琴音は言った。

黒石神社で、一番、神様に近い存在なのだと、伯父おじ新太あらたから聞いていたので、マリアは、琴音がスーパーマンのように強い人なのだと、勝手に思い込んでいた。

しかし、そうではないと、琴音は言う。


『神様に出来ることはね、見守ることだけ。人はいつもたくさんの何かを選択して生きているのよ。マリアもそう。毎日、知らず知らずのうちに、何かを選んでいるの。例えば……そうね。今日の朝ごはん、何から食べるのか、マリアは無意識のうちに選んで食べた。誰かに、これから食べなさいって、言われたわけではないでしょう?』

『でも、まどかおばちゃんが、これも食べてって、緑のねばねば、持って来た。』

『ふふ…、そうね。マリアは、あまりオクラが好きではないのよね?でもね、まどかおばちゃんは、オクラが体に良いって知っているから、マリアが食べるおかずの仲間に入れて欲しかったのよ。絶対に食べなさい、とは言わなかったでしょう?食べるか食べないか、何を食べるのか、マリアは自分で決めたはずよ?それが選択。その間、神様は、オクラを食べてって、マリアの耳元でささやいたりしないし、マリアのお皿に、勝手にオクラを置いたりしない。神様はね、見守っているだけなの。オクラを食べてくれたらいいなぁって、思いながら、マリアを見守っているだけ。だから、マリアがオクラを食べなかったからって、怒ったりしないの。』

『じゃあ、何もしないの?』

『そうね。何もしないように思えてしまうわね。目に見えることでは、確かに何もしていないものね………。』


琴音の優しい手が、マリアの頭を撫でた。

琴音の、穏やかで優しい微笑みが、どこか悲しそうに見えたことを、マリアは不思議に思った。






遠い記憶。

マリアが幼かった頃の、遠い記憶。




その遠い記憶を今、マリアは思い出していた。




「………」


B・Bは、神に何が出来るのかを見せろと言った。

ノーラを、ジャックを、ルイーザを、ドロシーを、この場で助けて見せろと、言った。

だが、マリアの記憶の中の琴音は、神様に出来ることは見守ることだけだと言っていた。

見守るだけでは、この場から4人を助けることは出来ない。


それでも、助けたい!


マリアは、無意識に握りこぶしを作っていた。


神様は、誰かを助けたいと、思うことは無かったのだろうか?

誰かを助けたいと、思ってはいけないのだろうか?

おばあちゃんは?

おばあちゃんも見守っているだけ?

違う‼

違った‼

おばあちゃんは、わたしを助けるために、凪を送ってくれた!


「凪‼」


マリアは、凪の胸を押して、凪を自分から引き剥がし、凪の顔を見上げた。



『———目に見えることでは、確かに何もしていないものね………。』


琴音の言葉。



そうだ。

目に見えるところでは、何もしていないだけだ!

つまり、目に見えないところでは、何かをしているってこと?

目に見えないところ……

それは、目に見えないモノが動いているってこと?


「やろう!」


マリアは凪に言った。


「やるって、何をだ?」


凪は、マリアの勢いにたじろいだ。

ただ“やる”と言われても、何をやるのか分からない。


「ルイーザ!ルイーザ!しっかりして!」


マリアは、ルイーザに叫んだ。

ルイーザは、人形のように無表情のまま、B・Bの使い魔達の傍に居る。


「待て!」


ルイーザの傍に行こうとするマリアを、凪が止めた。

マリアは、凪が止めるだろうことを予想していたように、驚くことも無く、落ち着いた様子で、更には笑みを浮かべて凪を見る。


「みんな一緒に帰るよ、凪。凪はノーラをお願い。ノーラは自分じゃ歩けないだろうから、抱えるなり、担ぐなりして連れて来て。ジャックとドロシーには、自力で動いてもらおう。」

「何を考えている?」

「みんな一緒に、ここから逃げるの。走って!」


マリアは言って、凪を突き飛ばすようにして押し剥がし、ルイーザの元へ走った。

どう見ても、神のすることとは思えない行動に、B・Bも、使い魔達も、笑った。


「それが、神に出来ることなのか。」

「さぁね。あたしは神様じゃないから、神様に出来ることなんて分からないわ。起きて、ルイーザ!目を覚まして!!」


マリアはB・Bを一度も見ずに言い捨て、使い魔達の前を走り抜け、思いっきりルイーザを引っ叩いた。

その勢いで、ルイーザは地面に倒れる。

そして、顔と身体を勢い良く地面にぶつけ、その衝撃で意識を取り戻した。


「………い…痛い。……なんで…?」


何が何だか分からないが、左の頬と、右の肩が、やたらと痛くて、ルイーザは、意識が戻ったのと同時に、涙目になった。


「ルイーザ!気が付いたのなら、立って!」


マリアは叫んだ。

マリアの声に、ルイーザがゆっくりと振り向くと、マリアはルイーザの腕を掴んで、無理やりに立たせた。


「なんで?なんでマリアが居るの?」

「話は後よ!走って!」

「え?え?」


顔が痛いのに。

肩が痛いのに。

容赦なく引っ張り、走らせるマリアを、ルイーザは知らない人を見るような目で見つめていた。



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