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約束と契約  作者: オボロ
35/114

#35 ひとりぼっちのドロシー


人気の無い日本庭園内で、ルイーザの姿をした娘と、ジャック、マリア、凪が対峙してから、しばらく経った。

しばらく経ったが、何も進展しなかった。


ノーラは動かない。

ルイーザに取り憑いた娘は、ルイーザの身体からだから離れようとしない。

ジャックは、ノーラの精神崩壊を恐れ、絶望し、座り込んでしまった。


マリアは、動かないノーラのことも、この場に居ないルイーザのことも心配だったが、姿を見せないB・Bや、B・Bの使い魔達のことも気になった。

この件に関わっていない筈は無いのに、なぜか姿を見せようとしない。

姿を見せる時を見計らっているのか。

姿を見せるつもりは、初めから無いのか。

B・Bの考えが分からない。


「ルイーザは、B・Bと一緒に居るの?」

「………」


「ルイーザは、B・Bの使い魔達と一緒に居るの?」

「………」


マリアの質問に、ルイーザの姿をした娘は答えない。

代わりに、頭を抱えて座り込んでいたジャックが呻いた。


「B・Bって誰だよ。使い魔って何だよ。君たちは誰なんだ。ルイーザはルイーザじゃないって言うし、ノーラは動かないし…。誰かノーラを助けて……」


マリアは凪を見た。

凪は、首を小さく横に振った。

凪にも、今のノーラの様子を知ることは、出来ないらしい。

マリアは、自分の無力さに、絶望していた。


自分に何かが出来るとは、思っていなかった。

しかし、ここまで何も出来ない役立たずだとも思っていなかった。

このままでは、誰も助からない。

このままでは、誰も救われない。

ノーラも、ルイーザも、ジャックも。

ルイーザに取り憑いている女の子も。


「B・B!聞こえる?聞こえているんでしょ?ノーラとルイーザを開放して!2人を無事に返して‼条件があるなら言って!話をしましょう!」

「マリア‼ダメだ‼」


マリアは叫んだ。

凪は止めたが、全てを叫んでしまった後では、マリアを庇い、周囲を警戒し、気を張り詰めるしかなかった。


ルイーザの姿をした娘は、驚いた顔をして、マリアを見ている。

ジャックは、マリアの大声を聞いて、どこに向かって叫んだのか、不思議に思った様子で辺りを見回し、辺りに変わった様子が無いのを確認した後、空を見上げた。

そして、空にも変化が無いことを確認すると、マリアの正気を疑うように、マリアを見た。


「………」


マリアは待っていた。

しかし、何も起こらなかった。

1分、2分と時間が経ち、その後、しばらく経っても、何も起こらない。


「くっ、くくくっ、あはっ、あははははっ!」


ルイーザの姿をした娘は、突然、笑い出した。

わざとらしく、高笑いをして、見下すように、マリアをあざけった。


「残念ね。悪魔は、あなたと話をする気は無いようよ?折角の決意も無駄だったわね。」

「やっぱり、B・Bを知っているのね。」


マリアは切り返す。


「………っ‼」


ルイーザの姿をした娘は絶句した。

B・Bとの繋がりは、知られたくなかったらしいと、マリアは察した。

それでも、繋がりがないはずはないと、初めから思っていたマリアに、引き下がる理由は何も無い。


「悪魔とどんな取引をしたの?何が欲しくて、何をすると、約束したの?」

「………」


核心を突いたらしい。

ルイーザの姿をした娘は黙り込んだ。

マリアは質問を変えた。


「あなたの本当の名前を教えて。本当の名前、あるんでしょ?」

「わたしの名前?」

「そうよ。あなたの名前よ。」


反応を見せたルイーザの姿をした娘の様子に、この質問で間違っていないと、マリアは確信した。

このは、自分自身のことを誰かに知って欲しいと思っている。

ずっとルイーザに憑いていて、ずっとルイーザと一緒にいたのに、身体からだを乗っ取るまで、誰にも存在を知られることはなかったのだから。


「知ってどうするの?」

「あなたのことは、あなたの名前で呼ぶわ。」

「なぜ?」

「だって、あなたはルイーザではないでしょう?ルイーザの姿をしていても、ルイーザではないわ。あなたはあなた。あなたの名前を教えて。」

「……ドロシー………」


彼女は答えた。


「ドロシー?ドロシーの望みは何?ドロシー自身がノーラに恨みを持っているわけではないわよね?」

「それは………」


マリアの、その問い掛けには、ドロシーは言い淀んだ。

それでも、ノーラとルイーザの解放を、ルイーザの姿をした何者かに、ただ詰め寄っていた時とは違い、ルイーザの姿をしているとはいえ、ドロシー自身に、ドロシーの言い分を聞き始めたマリアに対し、心を開き始めたようにも思えた。


「ドロシーは、ルイーザの気持ちは、わたしには分からないと言ったわ。でも、ドロシーには分かるのよね?それはなぜ?いつも一緒に居たから?」

「それもあるけど、それだけじゃない。ルイーザはわたしと同じだったから………」

「同じ?」

「そう。同じだった……。」


ドロシーは、どこか上の空になった。

空虚を見つめ、うわ言のように呟き始める。


「……ママに愛してもらえなかった……。ルイーザもそう。ルイーザもママに愛してもらえなくて、気を引きたくて、嘘ばかり言って……。気が付いたら友達は1人も居なくて……独りぼっちだった……。わたしと同じ……。だから、ルイーザの望みを叶えてあげたかった。大好きなジャックを、ルイーザのモノにしてあげたかった。ルイーザだけのジャックにしてあげたかった。なのに、ノーラが邪魔だった。ノーラが邪魔なのは、ルイーザにも分かってもらえた。でも、ルイーザには、ノーラを排除することは、出来ないと思った。どんなに、ノーラが邪魔で、排除しなきゃならないと、分かっていても、ジャックにめてくれって言われたら、ルイーザは、すごく傷つくけど、ジャックが嫌がることは、きっと出来ない…。だから…、代わりにわたしがやるって、決めたの。わたしなら、ジャックがどんなに嫌がろうと、ノーラがどんなに泣き叫ぼうと、可哀想だなんて思わない。ルイーザの為だったら、なんだって出来る……。そうしたら、今度はわたしの望みが叶うから………。」

「それが、悪魔との約束なの?」

「………っ‼」


どこか、取り憑かれたように話していたドロシーが、ハッとした表情をして、マリアを見た。

ルイーザに取り憑いていたドロシーが、別の何かに取り憑かれているかのようだった。

そんなことが出来るからこそ、“悪魔”なのかもしれない。

マリアは、ドロシーもまた、B・Bに操られているのかもしれないと、思った。



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