#26 凪の心配
「使い魔が居たな。」
家に戻ったマリアが、いつものように祠の前で手を合わせ、琴音に今日の報告をしていた時、マリアを眺めていた、大きな狐の姿の凪が、ぼそりと言った。
「………?」
マリアが不思議に思い、凪を見ると、種を明かすように、凪は説明を始めた。
「ノーラと呼ばれていた少女の傍に、ヒトの姿をしたコウモリが居た。あれはB・Bの使い魔だ。この間、マリアに接触して来たネコと同じだ。」
「ノーラって?」
「マリアの同級生だったか?以前、声を掛けて来ただろう?ルイーザと言ったか。あの少女が、今日、当たり散らしていただろう?大声で。相手の少女がノーラと呼ばれていた。一緒に居た男はジャックと呼ばれていたようだが?」
「凪!あそこに居たの⁈」
マリアは驚いて身を乗り出した。
凪は平然と言ってのけた。
「当然だ。使い魔が接触して来たというのに、傍を離れるはずがないだろう。」
「じゃあ、なんで声を掛けてくれなかったの?」
「クリスが一緒ならば安全だと判断した。実際、ふらふらと近づこうとしたお前を止めていただろう?」
「ふらふら近づいてなんかいない!」
「あのまま放っておいたらそうなった。」
「~~~~!!」
ああ言えば、こう言う。
マリアは、言い返す言葉が見つからなかった。
しかし、ふと、思い浮かんだことがあった。
「あのさ、今日居た使い魔って、ノーラって子に接触したってことだよね?B・Bはノーラを狙っているの?」
「狙っているのかどうかは分からないが、目的があるとすれば、ノーラにではなく、どちらかと言えば、ルイーザだろう。」
「どうして?」
「様子を見ていた限り、ルイーザの感情を揺さぶるために、ノーラと接触した感があった。」
「………?どういうこと?」
マリアには、凪の説明が難しくて、理解できない。
凪は、呆れたように息を吐き、マリアを包み込むように身を丸くして、目を閉じた。
「とにかく、お前は関わらないようにすればいい。ルイーザにも、ノーラにも。ついでに言えば、ジャックにもな。」
「………」
マリアは、納得がいかなくて、無言で凪の顔を見つめていたが、凪は、もう何も言わなかった。
目を閉じて、眠ったように動かない。
マリアも、凪に凭れて、目を閉じた。
関わったところで、何もできない。
悪魔に命を狙われているのに、関わっては、逆に迷惑をかけてしまうだけだ。
普通の人とは違うところを知られてしまい、気味悪く思われてしまうかもしれない。
迷惑をかける上に、気味悪く思われるなんて、嫌だ。
だから、関わってはいけない。
関わるべきではない。
わたしは、普通の人とは違うのだから………
凪の毛並みは柔らかく、温もりは心地よく、マリアは、いつの間にか眠っていた。
「………」
凪は、マリアの寝息を感じて、目を開けた。
見下ろせば、スヤスヤと眠るマリアの姿が見えた。
全てを受け入れるには、マリアは、まだ幼いと感じた。
いずれは、神の代行として、黒石神社を司る者にならなければならない。
とはいえ、今は、まだ14歳。
つい、この間、悪魔に命を狙われていると知らされ、ようやく、その事実を受け入れられるようになったというのに、自分以外の者のことまで背負うとなったら、圧し潰されて、壊れてしまうに違いない。
だから、凪は、マリアには、まだ自分のことだけを考えていて欲しかった。
家族のことならまだしも、友人のことには、関心を持って欲しくない。
幸い、幼い頃の経験で、あまり他人に関わらないようにする癖がついていて、今までは、凪が心配するようなことには、ならずに済んでいた。
しかし、自分の命を狙っている悪魔が絡んでいるとなったら、さすがに、知らぬ存ぜぬを通すことは難しいだろう。
どうしたものか………
凪の悩みは、マリアを想い、マリアの為にしていることでも、マリアが悲しみ、辛い思いをするのでは、マリアの為とはいえないかもしれないという、複雑なものだった。
琴音に相談してみるか?
「………」
だらしがない———そう言って、鼻で笑う琴音を想像してしまい、凪は頭を抱えた。




