#24 夢の中の約束
ルイーザは夢を見た。
見たことのない森の中で、黒いマント姿の美しい男が、ルイーザの手を取り、話し掛ける。
「君が望むのなら、力を貸そう。理不尽な思いをしているね?許せない人が居るはずだよ?我慢することはないさ。思い知らせてやろう。」
男はルイーザを見つめ、甘い声で囁き掛ける。
男の赤い瞳は魅惑的で、見詰められていると吸い込まれてしまいそうな感覚に囚われ、目が離せなくなる。
甘い囁き声は、ルイーザから全身の力を奪ってしまったようだった。
ルイーザは、のぼせたみたいに頭がボーっとなったまま、何も考えられず、男の甘い声に酔いしれながら、ただただ、男の赤い瞳を見つめて続けていた。
「ノーラとジャックを引き離すことは簡単さ。ノーラに同情する必要はないよ。彼女はたいして本気じゃない。人気のあるジャックを振り向かせて、理想的なカップルだと、周りに思わせたかっただけなんだ。そのための演出に君は使われた。彼女の方が、ずっと君に酷いことをしていたと思うよ。だから…、2人を引き離してしまおう。わたしは知っているよ。彼女が君に何をしたか…。ジャックにどう思わせてきたか…。可哀想に、誰も君の味方にはなってくれなかったね。誰一人として君の話を信じなかったね。酷い話だ…。本当に酷いと思うよ。君は嘘など吐いていなかったのに…。本当のことしか話していなかったのにね……。彼女が居なくなれば、きっと変わる。君の心は晴れるし、ジャックは君のことばかり考えるようになるよ。」
男の唇が、ルイーザの手の甲に、軽く触れた。
「本当に⁈」
ルイーザは、突然に言った。
男の唇が触れた瞬間、スイッチが入ったみたいに言葉が浮かんで、自然と口から発していた。
男が話していたことの内容全てを、ルイーザは急に理解した。
「あなたはわたしの味方なの?ノーラをやっつけてくれるの?ジャックはわたしを見てくれる?」
「もちろんだとも。ジャックとノーラは離れ離れになるし、ジャックの心は君のものだ。」
矢継ぎ早に話すルイーザを見つめながら、男は艶のある妖しい笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫。安心していい。」
男の長い指が、ルイーザの頬を撫でた。
余りの心地良さに、ルイーザは目を閉じた。
夢心地とは、正に、このこと。
至福の時に、ルイーザは身を任せていた。
「力を貸そう、ルイーザ。君は、ただ望むだけでいい。望むだけで、すべてが思い通りだ———」
男の声が、心地良い甘みを持って、ルイーザの耳に届いている。
「君は望むだけでいい。」
望むだけでいい———
ルイーザには、魅力的な夢だった。
魅力的過ぎて………
「………」
目が覚めた時、夢だったことに、がっかりしてしまった。
そして、しばらくの間、ベッドの中で余韻に浸った。
頬に触れ、男の手の感触を思い出したり、熱を持って見つめる赤い瞳や、甘い囁き声を思い出していた。
綺麗な男の人だった。
前に見た、マリアと一緒に居た男の人とは、また違ったタイプの人だった。
少し危険な香りのする、大人の男の人という感じ。
普通に生活をしていたら、ルイーザが出会う可能性はゼロだろう。
「あぁ、あれが夢では無かったら良かったのに………」
残念だ———と、思いながら、両腕を高く上に伸ばして、伸びをしたルイーザは、自分の左手の甲に、見慣れない痣があることに、気が付いた。
直径5㎜ぐらいの小さな痣だ。
小さくて、よくよく見ないと判別することは出来ないが、二重の円の中に六芒星がある。
二重にある円周の間には、絵なのか文字なのか、細かい何かが描かれていた。
勿論、ルイーザは、そこまで細かく見ていない。
ルイーザには、ただの痣にしか見えていなかった。
「どこかにぶつけたのかな?」
記憶を辿ると、昨日は盛りだくさんの日だったと、ルイーザは思った。
まるで脱走でもするみたいに、グリッティとケイリーを出し抜いた。
ノーラに言いたいことをぶちまけて、警備員に捕まった。
ノーラへの怒りや憎しみは、少しも減りはしないが、ジャックに冷たくされた悲しみは、甘い夢によって慰められた。
「………?」
そう言えば、夢の中で、手の甲にキスをされた。
その場所が、痣のある場所だったような気がした。
夢の中のキスで痣が出来た?
「まさかね。」
そんなことがあるわけないと思いながら、あの夢が現実と繋がっているような気がして、ルイーザは少しだけ嬉しくなった。




