#23 恐ろしい考え
強い怒りと決意と共に、パーカー図書館の事務所に連れて行かれたルイーザは、数人の警備員と図書館の職員に見張られながら、グリッティの到着を、ひたすら待っていた。
まるで取り調べのように、名前と住所と電話番号を聞かれ、親が来るまでは帰さないと、言い渡されてしまった。
カウンセリングの後、逃走したルイーザに、グリッティが怒り狂っているだろうことは明白で、しかし、ルイーザは、ノーラへの怒りで、グリッティの怒りに対しての恐怖は、感じていなかった。
到着したグリッティは、予想通り怒っていたが、それでも、警備員や図書館の職員の目の前で、怒り狂う姿は見せられないと思ったのか、怒りに震えながらも、必死に平静を装い、娘の不祥事に対して、何度も深々と頭を下げていた。
オルコット家からも、怒りの連絡は入っていたようで、パーカー図書館を出た後、グリッティはルイーザを連れて、オルコット家に向かった。
ルイーザは、ますます、ノーラへの怒りを膨らませた。
今度は親を使うのか!
親を使って、自分を正当化させるのか!
嘘を吐いたくせに謝らせて、また悪者にするのか!
オルコット家でも、グリッティは、何度も頭を下げて、謝罪をしていた。
ルイーザは、無理やり頭を下げさせられたが、ひと言も言葉を発さなかった。
ノーラは出て来なかった。
怖がって出て来ないと、オルコット夫人は言っていたが、ルイーザは信じていなかった。
きっと陰から見ている。
陰から見て、笑っている。
「いろいろと大変だろうことは承知していますが、くれぐれも目を離さないようにしていただかないと。今後は気を付けてくださいね。次は無いと思ってください。同じようなことがあれば、次は弁護士を通させてもらいます。よろしいですね?」
オルコット氏も厳しい口調で、グリッティに念を押す。
グリッティは、ひたすらに頭を下げていた。
「申し訳ありません。本当に、申し訳ありませんでした。」
隣で頭を下げているだけのルイーザは、自分が病人扱いをされているのを感じていた。
精神を病んでいる娘を持ち、大変な思いをしてるだろう、可哀想なベトソン夫人。
それでも、きちんと監視するのが親の役目ですから、次は慰謝料を請求します。
オルコット氏は、確実に、そう言っていた。
ルイーザの、ノーラへの感情は、怒りから憎しみへと変わりつつあった。
家に帰ると、父・バーナードが会社を早退して帰って来ていた。
エドナを連れて行くわけにはいかず、だが、1人で家に居させるわけにもいかないので、グリッティはバーナードに連絡したらしい。
バーナードは神妙な面持ちで、グリッティとルイーザを迎えた。
何も知らないエドナだけが、いつもと変わらない態度だった。
ルイーザに、あまり関心が無く、いつも通りピアノを弾いている。
ルイーザは、夕食まで部屋にいるように言われ、いつもよりも会話の少ない、静かな夕食を済ませ、夕食の後も、すぐに部屋へ戻るように言われた。
「これからは、必要以上に部屋から出ないようにしなさいね。今後のことはドクター・ケイリーと相談してから決めます。」
グリッティが言った。
結局、一度もグリッティは、ルイーザを叱りつけなかった。
グリッティもバーナードも、ルイーザを、まるで腫れ物のように扱っていた。
触れると破裂するのではないかと、思っているみたいだった。
これは、最悪、入院もありえる———と、ルイーザは感じた。
ベッドに腰かけ、窓の外を眺める。
今頃、ジャックは何をしているだろうか?
騙されているとは知らず、ノーラのことを心配しているのだろうか?
ノーラにとっては、この状況も計算の内なのだろうか?
どこまで陥れれば満足するのだろうか?
ノーラの、ルイーザを陥れようとする執着心は、異常だ。
どうして、そこまでする必要があるのか?———と、ルイーザは考えた。
ジャックの気を引くため?
ジャックの気を引くために、なぜルイーザを陥れる?
邪魔だから?
ジャックの気を引くには、ルイーザが邪魔だから。
ジャックを守れるのは、ルイーザだけだから。
そうだ!
そうなんだ‼
やはり、ジャックを守るのは自分だと、ルイーザは固く心に決めた。
そのためには、ノーラを排除しなければならない。
ノーラの計画を潰す必要がある。
どうすればいい?
ノーラから引き離そうにも、ジャックはすっかり騙されていて、ルイーザの言葉には、耳を傾けてくれない。
ルイーザを睨むジャックの目を思い出すと、ルイーザは悲しい気持ちなった。
ノーラが居なくなればいいのに………
ノーラなんて居なくなってしまえばいいのに………
そうすれば、きっと、ジャックの目は覚める。
目が覚めれば、きっと、ノーラに騙されていたことにも気付くだろう。
気付けば、きっと、わたしを見てくれる。
ノーラが居なくなれば………
ノーラさえ居なくなれば………
<<ガタンッ!>>
風で窓が音を立てた。
「———っ‼」
ルイーザは、びくりとして、我に返った。
自分が今、とんでもなく恐ろしいことを、考えていたことに気が付いた。
居なくなればいいだなんて………
自分が考えてしまったことなのに、自分の考えであることが、信じられなかった




