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約束と契約  作者: オボロ
22/114

#22 怒りの矛先


ノーラへの怒りをかかえたまま、数日が経ち、ルイーザのカウンセリングを受ける日になった。


そこは、グリッティが調べて見つけてきた、小さなビルの中にある、わりときれいな個人病院で、週に1回、ルイーザは通っている。

全く目が笑っていない、嘘っぽい笑みを張り付けている、ケイリーという名の女医と、2時間ほど2人きりで、他愛のない話をしているだけだったが、もしもノーラに会いに行くチャンスがあるとしたら、この日以外はないと、ルイーザは考えていた。

グリッティは、ルイーザの送り迎えをするだけで、ルイーザのカウンセリングの間、そこには居ない。

ルイーザを車から降ろすと、そのまま去り、カウンセリングが終わる2時間後ぐらいに、また迎えに来ていた。

チャンスは、カウンセリングが終わってから、グリッティが迎えに来るまでの間だけ。

もしかしたら、グリッティの迎えの方が早いかもしれない。

それでも、ルイーザは、そのチャンスに賭けることにした。




「こんにちは、ルイーザさん。最近の調子はどうですか?」


いつもの、貼り付けたような笑みを浮かべて、ケイリーがルイーザを出迎えた。

グリッティは、いつも通り、ルイーザが車を降りると、すぐに行ってしまった。

あとは、如何いかにして、いつもよりも早くカウンセリングを終わらせるか。

ルイーザは、考えをめぐらせながら、ソファーに座った。


ケイリーとの話は、相変わらず退屈だった。

それでも、早く終わらせたいルイーザは、愛想あいそ良く相手をしていた。


「今日は機嫌が良いのね?」

「ええ、最近は気分がいいの。そろそろ学校にも行ってみようかと思っています。」


実際、今日は、はっきりとした目的を持って行動しているので、ルイーザの気持ちは晴れやかだった。

顔つきも明るく、声も明るい。

ケイリーの質問に対する答えも、明るいイメージを与えた。

ケイリーが、ルイーザは回復したと感じても、可笑おかしくなかった。


「次に会う時は、学校の話が聞けるとうれしいわ。」

「ええ。楽しみにしていて。きっと期待にこたえられると思うわ。」


カウンセリングは、ルイーザの計画通りになった。

回復したと思わせているルイーザに対して、ケイリーのカウンセリングに掛ける時間は、いつもよりも短く、グリッティは、まだ迎えに来ていないと、ルイーザは確信した。

先週までのルイーザにだったら、グリッティの到着を待っている間も、監視の目が緩むことは無かっただろう。

しかし、今日のルイーザの様子に安心したケイリーは、ルイーザを執拗に監視することをめてしまった。

トイレに向かったルイーザが、そのままビルの外に出た事にも気付かない。

ルイーザは、ビルの外に出ると、一目散に走り出した。

向かう場所は、パーカー図書館。


『2人はよく、パーカー図書館で一緒に勉強しているらしいですよ?』

『事故があった、あのパーカー図書館でデートするなんて、結構、随分な話ですよね?』


これも、エヴァとジェイミーから聞いた話だ。

事故があったパーカー図書館でジャックと会って、ルイーザのことを笑っているのかもしれない。


バカな子だと。

いい気味だと。

これでジャックは自分のものだと。


ルイーザは、怒りに任せて、パーカー図書館に踏み込んだ。

図書館の中は、試験前の学生達がたくさん居た。

ルイーザは、ノーラの姿を探した。


居た。


ノーラは、ウェーブの掛かった肩ぐらいの黒髪の少年に、本を広げて見せながら、何か話をしていた。

隣の席にはジャックが居て、ジャックは、ノーラと少年の様子を、微笑ましく眺めている。

ルイーザには、それすらも、ジャックの気を引くための、ノーラの策略だとしか、思うことが出来なかった。


優しいお姉さんアピール⁈

冗談じゃない‼


大股でノーラの傍まで行き、声を掛ける。


「オルコットさん、話があります。」


「え?あら、あなたは…、ベトソンさん…だったかしら…。」


ノーラはルイーザに気付き、少し戸惑いながら、ジャックをちらりと見た。

ルイーザの勢いに尻込みして、どうしたものかとジャックを窺ったのだが、それにもルイーザは苛立った。


「そんなにわたしを悪者にしたいですか?」

「いえ、わたし、そんなつもりは………。」


「ちょっと君、いきなり失礼じゃないか。」


ルイーザの剣幕に、ノーラが怯えているのを見て、ジャックが助けに入った。

ノーラを庇うようにして身を乗り出し、ルイーザに強い口調で言った。

ルイーザは、もう我慢の限界だった。


「それが、わたしを悪者にしているって言うのよ!どうして嘘をいたの?琥珀色の髪の男の子のこと、本当は見たんでしょ?サッカーボールだって、本当はあったんじゃないの?なんで見ていないなんて嘘を吐くのよ!そんな卑劣なことをしてまで、ジャックの気を引きたかったの?なんて浅ましい女なの!恥を知りなさい‼」


「静かにしなさい!ここをどこだと思っているんだ‼」


館内に響き渡るルイーザの声に、パーカー図書館の警備員が走って来て、ルイーザは取り押さえられた。


「放しなさいよ!なんでわたしがこんな目に合わなきゃいけないのよ!悪いのは、あの女じゃない!あの女はわたしを陥れたのよ!放しなさいったら!放しなさいよ‼」


「大人しくしなさい!暴れるんじゃない!」


ノーラは、すっかり怯えてしまい、震えながら泣いていた。

ジャックは、怯えるノーラをしっかりと抱きしめ、ずっとルイーザを睨んでいた。

ルイーザは、事務所に引き摺られて行く間、睨むジャックに抱きしめられているノーラを、ずっと睨んでいた。


きっと嘘泣きだ。

心の中では舌を出しているに決まっている。

ジャックはノーラの芝居に騙されているんだ!

助けなければ———。

ジャックをノーラから助けなければ———



ルイーザの心は、怒りと決意に燃えていた。







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