#22 怒りの矛先
ノーラへの怒りを抱えたまま、数日が経ち、ルイーザのカウンセリングを受ける日になった。
そこは、グリッティが調べて見つけてきた、小さなビルの中にある、わりときれいな個人病院で、週に1回、ルイーザは通っている。
全く目が笑っていない、嘘っぽい笑みを張り付けている、ケイリーという名の女医と、2時間ほど2人きりで、他愛のない話をしているだけだったが、もしもノーラに会いに行くチャンスがあるとしたら、この日以外はないと、ルイーザは考えていた。
グリッティは、ルイーザの送り迎えをするだけで、ルイーザのカウンセリングの間、そこには居ない。
ルイーザを車から降ろすと、そのまま去り、カウンセリングが終わる2時間後ぐらいに、また迎えに来ていた。
チャンスは、カウンセリングが終わってから、グリッティが迎えに来るまでの間だけ。
もしかしたら、グリッティの迎えの方が早いかもしれない。
それでも、ルイーザは、そのチャンスに賭けることにした。
「こんにちは、ルイーザさん。最近の調子はどうですか?」
いつもの、貼り付けたような笑みを浮かべて、ケイリーがルイーザを出迎えた。
グリッティは、いつも通り、ルイーザが車を降りると、すぐに行ってしまった。
あとは、如何にして、いつもよりも早くカウンセリングを終わらせるか。
ルイーザは、考えを巡らせながら、ソファーに座った。
ケイリーとの話は、相変わらず退屈だった。
それでも、早く終わらせたいルイーザは、愛想良く相手をしていた。
「今日は機嫌が良いのね?」
「ええ、最近は気分がいいの。そろそろ学校にも行ってみようかと思っています。」
実際、今日は、はっきりとした目的を持って行動しているので、ルイーザの気持ちは晴れやかだった。
顔つきも明るく、声も明るい。
ケイリーの質問に対する答えも、明るいイメージを与えた。
ケイリーが、ルイーザは回復したと感じても、可笑しくなかった。
「次に会う時は、学校の話が聞けると嬉しいわ。」
「ええ。楽しみにしていて。きっと期待に応えられると思うわ。」
カウンセリングは、ルイーザの計画通りになった。
回復したと思わせているルイーザに対して、ケイリーのカウンセリングに掛ける時間は、いつもよりも短く、グリッティは、まだ迎えに来ていないと、ルイーザは確信した。
先週までのルイーザにだったら、グリッティの到着を待っている間も、監視の目が緩むことは無かっただろう。
しかし、今日のルイーザの様子に安心したケイリーは、ルイーザを執拗に監視することを止めてしまった。
トイレに向かったルイーザが、そのままビルの外に出た事にも気付かない。
ルイーザは、ビルの外に出ると、一目散に走り出した。
向かう場所は、パーカー図書館。
『2人はよく、パーカー図書館で一緒に勉強しているらしいですよ?』
『事故があった、あのパーカー図書館でデートするなんて、結構、随分な話ですよね?』
これも、エヴァとジェイミーから聞いた話だ。
事故があったパーカー図書館でジャックと会って、ルイーザのことを笑っているのかもしれない。
バカな子だと。
いい気味だと。
これでジャックは自分のものだと。
ルイーザは、怒りに任せて、パーカー図書館に踏み込んだ。
図書館の中は、試験前の学生達がたくさん居た。
ルイーザは、ノーラの姿を探した。
居た。
ノーラは、ウェーブの掛かった肩ぐらいの黒髪の少年に、本を広げて見せながら、何か話をしていた。
隣の席にはジャックが居て、ジャックは、ノーラと少年の様子を、微笑ましく眺めている。
ルイーザには、それすらも、ジャックの気を引くための、ノーラの策略だとしか、思うことが出来なかった。
優しいお姉さんアピール⁈
冗談じゃない‼
大股でノーラの傍まで行き、声を掛ける。
「オルコットさん、話があります。」
「え?あら、あなたは…、ベトソンさん…だったかしら…。」
ノーラはルイーザに気付き、少し戸惑いながら、ジャックをちらりと見た。
ルイーザの勢いに尻込みして、どうしたものかとジャックを窺ったのだが、それにもルイーザは苛立った。
「そんなにわたしを悪者にしたいですか?」
「いえ、わたし、そんなつもりは………。」
「ちょっと君、いきなり失礼じゃないか。」
ルイーザの剣幕に、ノーラが怯えているのを見て、ジャックが助けに入った。
ノーラを庇うようにして身を乗り出し、ルイーザに強い口調で言った。
ルイーザは、もう我慢の限界だった。
「それが、わたしを悪者にしているって言うのよ!どうして嘘を吐いたの?琥珀色の髪の男の子のこと、本当は見たんでしょ?サッカーボールだって、本当はあったんじゃないの?なんで見ていないなんて嘘を吐くのよ!そんな卑劣なことをしてまで、ジャックの気を引きたかったの?なんて浅ましい女なの!恥を知りなさい‼」
「静かにしなさい!ここをどこだと思っているんだ‼」
館内に響き渡るルイーザの声に、パーカー図書館の警備員が走って来て、ルイーザは取り押さえられた。
「放しなさいよ!なんでわたしがこんな目に合わなきゃいけないのよ!悪いのは、あの女じゃない!あの女はわたしを陥れたのよ!放しなさいったら!放しなさいよ‼」
「大人しくしなさい!暴れるんじゃない!」
ノーラは、すっかり怯えてしまい、震えながら泣いていた。
ジャックは、怯えるノーラをしっかりと抱きしめ、ずっとルイーザを睨んでいた。
ルイーザは、事務所に引き摺られて行く間、睨むジャックに抱きしめられているノーラを、ずっと睨んでいた。
きっと嘘泣きだ。
心の中では舌を出しているに決まっている。
ジャックはノーラの芝居に騙されているんだ!
助けなければ———。
ジャックをノーラから助けなければ———
ルイーザの心は、怒りと決意に燃えていた。




