#21 溢れ出した怒り
「………。」
ルイーザは、ずっと考えていた。
琥珀色の髪の、あの少年は、誰が何と言おうと、存在していた。
一緒に歩いて、パーカー図書館に向かった。
途中で出会った人や、すれ違った人は、確かに居なかったけれど、こちらが気付かなかっただけで、遠くからでも見掛けた人は、絶対に居ると思った。
絶対に居るのに、可愛らしい少年と歩いていたことを妬んで、名乗り出て来てくれないに違いない。
そんな少年は居なかったことにしてしまえば、ルイーザは嘘つきになる。
ルイーザを嘘つきにして、妬ましさを紛らわせることにしたのだろう。
きっとそうだ!
そうに違いない‼
ルイーザにとって、パーカー図書館に向かう途中の、ルイーザ達の姿を見た人達の嘘は、それほど重要ではなかった。
それだけ羨ましかったのだろうと思えば、気の毒にすら思うことが出来たからだ。
事故の後の目撃者の証言も、事故があった後の騒然とした状況の中では、見落としたとしても仕方がないと思えた。
しかし、ノーラの証言に対しては違った。
琥珀色の髪の少年は居なかった。
ニキビ顔のぽっちゃりした少年も見ていない。
サッカーボールすら無かったという。
彼女は、なぜそんな嘘を?
ルイーザは納得出来なかった。
退院してから知ったことだが、ノーラと一緒にロビーにいた少年は、ノーラのいとこだった。
ビルという名で、マレット・スクールの11年生。
ジャックの同級生で、ジャックと同じサッカークラブに所属している。
そして、サッカーの応援に来たノーラが、ジャックに一目ぼれをして、それ知ったいとこのビルは、ノーラの為に、ノーラとジャックをくっ付けようとしていたらしい。
つまり、ジャックはノーラと付き合っているわけではなかった———という事。
なのに、事故をきっかけにして、2人は急接近してしまった。
その様子は、ルイーザも見ている。
ロビーで見た2人の様子は、ルイーザには耐えがたい光景だった。
今では、通院時にジャックも付き添っているというのだから、ルイーザの心情は穏やかではない。
事故の後、登校して来たルイーザに、さも心配している風を装いながら近付いて来て、ジャックとノーラの関係を得意げに話して来たのは、ゴシップクラブのエヴァとジェイミーだった。
いつ調べたのか、どうやって知ったのか、ビルの事やクラブの事など、事細かにルイーザに話して聞かせた。
「残念だけど、2人はもう親公認の仲だから。もう、諦めてくださいね?」
「しつこく付き纏っちゃダメですよ?ベトソン先輩。」
今にも笑い出しそうだった2人の顔は、思い出すだけでも腹立たしい。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか?
ルイーザは、事の始まりを考えた。
塾帰りのジャックに、会いに行っていることが噂になった。
イザベラが僻んで、ジャックのことを調べろと言った。
ジャックには、付き合っている子がいるとか、好きな子がいるとか言われて、それを調べるのが嫌で、悩んでいたところに、琥珀色の髪の少年が話し掛けて来た。
その少年をパーカー図書館まで案内することになって、サッカーボールを拾ってと言われて………。
そうだ。
それで、あの少年がサッカーボールを追いかけて、それを止めようとしたらノーラとぶつかってしまった。
なのに、ノーラは、そんな少年は居なかったと言って、ルイーザを嘘つきにした。
そのせいで、ルイーザはカウンセリングを受けることになって………。
まるで、精神状態が異常であると、思われているみたいだった。
どうしてノーラは嘘を吐いたの?
なぜ嘘を吐かなければならなかったの?
ノーラが、あの男の子を見ていないはずはないのに!
絶対に見ているはずなのに‼
全部、ノーラのせいだ‼
ノーラの嘘のせいだ‼
ルイーザの中で、ノーラへの怒りが膨れ上がり、どうしてもノーラに一言言ってやりたい気持ちになった。
嘘つきだと。
嘘つきはノーラだと。
そんな嘘を吐いてまで、ジャックの気を引きたかったのか?———と。
しかし、ルイーザがノーラに会いに行くことは出来そうもなかった。
事故以来、親の監視が厳しくなったからだ。
誰も見ていない少年を庇ったと言い、追いかけたと言っているサッカーボールは見つからない。
学校へ行っていないルイーザは、今、カウンセリングに行く以外で、家を出ることが許されていなかった。
それもこれも、ノーラが嘘を吐いたからだ‼
ルイーザの頭の中は、ノーラへの怒りでいっぱいだった。




