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約束と契約  作者: オボロ
20/114

#20 ノラの言葉


「じゃあ、君は誰?見えるはずのないモノが見える君は、何者?僕と何が違うの?」




「———っ‼」


少年の言葉に、マリアは凍り付いた。

得も言われぬ恐怖を感じた。


この少年は、自分のことを知っている‼


にやりと笑った少年の手が、マリアへと差し伸ばされた。


「僕はノラ。マリア、僕と一緒に来てよ。」


絵画から飛び出したような美しい少年が、冷たい笑みを浮かべながら近づいて来る。

マリアは、ノラから目を離すことが出来ず、しかし、ただ見ていることしか出来なかった。

足はピクリとも動かず、逃げることが出来ない。


「人間の世界は汚いよ。みにくいよ。君には相応ふさわしくないよ。こっちにおいで。一緒に行こう。大丈夫。怖くないから。」


言葉通り、ノラはマリアを怖がらせないように、一歩ずつ、ゆっくりと、近付いて来ていた。

差し伸ばされている手も、ゆっくりと、マリアに近付いて来る。

あと30㎝、20㎝、10㎝………。

もうすぐ届く———という所まで来て、ノラの目が輝いた。

その次の瞬間、突然、ノラの手首を掴む手が現れ、ノラはぎょっとした顔になった。


「だ、誰だ‼」


「馴れ馴れしいぞ、ネコ。」


なぎだった。


突然現れた凪は、ノラの手首を掴み、それ以上、マリアに近づくのを阻止そしした後、ノラの襟首を掴み、持ち上げた。


「最近、やたらと小者がうろついていると思ったら…。そうか…、使い魔———というんだったか?他にも何匹が居るんだろ?」

「いい気になるなよ!あるじ様の方が、お前よりも背は高いからな!」


持ち上げられ、動きの取れなくなったノラは、それでも、にくまれ口をたたいた。

そして、ボンッ!という音と共に煙が上がり、ノラの姿は少年からペルシャ猫に変わった。

続いて、バリンッ!と、何かが割れる音。

周りにあった風景が、鏡が割れるみたいにバラバラとくずれ始めた。

くずれ落ちた向こう側にも、同じ景色がある。


「きゃあ‼」


マリアは驚いて悲鳴を上げた。

その声に凪が反応し、マリアを見ようした一瞬の隙をねらって、ノラの鋭い爪が、凪に襲い掛かる。

凪は、ノラの爪からのがれようとして、ノラをつかんでいた手を離してしまった。

待っていましたと言わんばかりに、ノラは身をひるがえし、その場から逃げ出した。

凪は追いかけなかった。

ノラの姿が見えなくなるのを見届けてから、マリアの無事を確認した。


「何もされていないな?」

「うん……」


元気のない返事を不審に思いながらも、いつまでもヒトの姿で居ては、誰かに見られてしまうので、マリアの様子を気に掛けながらも、凪は姿を消した。

消したと言っても、大きな狐の姿に戻っただけだ。

凪は、他の人には見えない姿で、マリアに聞いた。


「何か言われたのか?」

「うん。見えるはずのないモノが視えるわたしは、何者?って………」


マリアは、沈んだ声で答えた。

今まで、ずっと気になっていたけれど、考えないようにしてきたことを、突き付けられてしまった。


他の人には見えないヒトが視えた。

嘘つきと言われ、傷付いたマリアに、父であるトールは言った。

そのヒトは、人ではなく、悪魔だろうと。

当時のマリアは、まだ幼かったので、グレース家に伝わる『悪魔との契約』の話までは知らされていなかったが、凪がイギリスに現れた一昨年おととしの秋に、全てを聞かされた。

グレース家に生まれた女の子は、皆、悪魔に殺されてきたのだと。

だから、マリアをねらって、悪魔はマリアの前に現れたのだと。

でも、大丈夫だと言われた。

凪が、マリアを守ってくれるから。

日本に居るマリアの祖母・琴音も、守ってくれているから———と。

話を聞いて、マリアにも、ようやく理解できたことは、父方の親戚達の、マリアを見る目の意味だった。

たった一人だけ、生き残っているマリアを、恐れているのだろう。

悪魔を退しりぞける恐ろしい子だと、思われているのかもしれない。


得体のしれない、恐ろしい存在。




「——————僕と何が違うの?」




ノラと自分が、全く違う存在だと思えないことに、マリアはショックを受けた。







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