#17 受け入れがたい光景
「………」
ルイーザが目を覚ました時、そこは病院の中だった。
頭が痛い。
そっと頭に触れてみると、頭には包帯が巻かれていた。
「ルイーザ、あなた、どうして道路に飛び出したりするの‼そんなことしたら危険だってわかるでしょ?小さい子供じゃないんだから、それぐらい自分で判断できるでしょ⁈」
突然、母親の金切り声が聞こえた。
ルイーザは、『道路に飛び出した』という言葉で、ハッとして飛び起きた。
「あの子は?あの男の子は無事?怪我はしなかった?———っ‼」
飛び起きた瞬間、頭が痛み、顔を歪めた。
グリッティは呆れ顔で、ルイーザを、もう一度、横になるよう促した。
「急に動いたらダメよ。あなた、頭にケガをしたのよ?まだ横になっていなさい。あなたとぶつかったアニス女子学院のお嬢さんは、軽い捻挫と擦り傷で済んだらしいわ。良かったわね。あとで一緒にお詫びに行きましょう。」
グリッティがルイーザに優しい言葉を掛けるのは珍しいことだった。
しかし、知りたいこととは違う答えに、ルイーザはイライラしながら聞き続けた。
「琥珀色の髪の男の子が居たでしょ?サッカーボールを追いかけて道路に飛び出したの。その子は無事?怪我はした?」
必死な表情で尋ねるルイーザに、グリッティは首を傾げ、微笑んだ。
「琥珀色の髪の男の子?そんな子はいないわ。少し眠りなさい。お母さん、先生を呼んで来るから。ね?」
優しい手付きで横になるのを手伝い、横になったルイーザの頭を優しく撫でる。
何もかもがいつもと違う母親の態度に、ルイーザは不安でたまらなくなった。
何かを隠している?
何を隠しているの?
琥珀色の髪の少年のことが、気になって仕方なかった。
グリッティが部屋を出るのを待って、ベッドから起き上がり、点滴スタンドを伴い、部屋を出る。
車が来ていたわけではないので、大きな事故にはなっていないだろう。
出会い頭に人とぶつかったのは自分だけで、琥珀色の髪の少年に被害はなかったはずだ。
ならば、入院したわけではないだろうと判断して、ルイーザは、まっすぐロビーに向かった。
ぶつかった相手が捻挫で済んだというのだから、琥珀色の髪の少年は、例え怪我をしていたとしても擦り傷程度だろうか?
1人で来ていたけれど、家族に連絡をしてもらって、迎えに来てもらえただろうか?
怒られていたら可哀想だ。
庇ってあげなければ!
ルイーザは、ロビーに入り、少年を探した。
広いロビーを見渡したが、あの少年の姿は見つからなかった。
代わりに、思いがけない人の姿を見つけることになる。
ジャックだ。
慌てた様子で、丁度、ロビーに入って来たところだった。
息を弾ませながら、ロビーの中を、きょろきょろと見回している。
ルイーザは、自分を探しているのだと思い、片手を上げた。
「ここよ」と、声にすれば、ジャックが駈け寄って来てくれると、信じて疑わなかった。
しかし、ルイーザが声を出すよりも先に、ジャックは「ノーラ‼」と叫び、駆け寄る場所も、ルイーザが居る場所とは違っていた。
ジャックが駆け寄った所にはソファーがあり、そのソファーには、栗色のふんわりとした髪の少女が座っていた。
少女の傍には、少年が既に1人居て、駆け寄るジャックに話しかけた。
「そんなに大声出すなよ、ジャック。恥かしいだろ?」
「うるさいぞ、ビル。それより、大丈夫なのかい?ノーラ。怪我したって聞いて、驚いたよ。捻挫だって?」
「うん。心配してくれてありがとう、ジャック。ごめんね、驚かせてしまって……。」
「いや…、それはいいんだけど……。」
「いやいや、お前ら、オレが居ること忘れるなよ?いちゃいちゃするのは病院を出てからにしてくれ。」
中途半端に片手を上げたまま、動けなくなってしまったルイーザは、視界に入ったジャックの、受け入れがたい光景から、目を離すことが出来なかった。
聞こえた会話も信じがたい。
少し照れたように笑うジャックは、ルイーザの知らない少女を見ていて……。
ルイーザの知らない少女は、恥ずかしそうにジャックを見ている。
この光景を、どう理解すればいいのか、分からなかった。




