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約束と契約  作者: オボロ
16/114

#16 道案内


『——————余程の美男子か、良家のご子息か………』


『そんなに良い物件、誰の目にも止まらず、ずっと空いたまま、なんてことあるのかしら?』


『どうして、その人に彼女がいないと思うのか、わたしには分からない——————』


『調べてきて、ルイーザ。——————付き合っている女性、もしくは、好意を寄せている女性は、本当に居ないのか。居ないのなら、なぜ居ないのか。——————よろしくて?』





ルイーザは今、いつもならジャックに会うことが出来るベンチに座っている。

本は開いていないし、通りも気にしていない。

今日はジャックの塾の日ではないので、ジャックに会えるわけではない。

会えるわけではないのに、ルイーザはここに来ていた。


塾帰りのジャックを見ているだけで、他のジャックを、ルイーザは知らない。

ルイーザは塾帰りのジャックに会えるだけで幸せだったから、他のジャックを知らなくても構わなかった。

しかし、イザベラの話を聞いてから、ルイーザの気持ちは大きく揺れている。


ジャックに付き合っている人?

ジャックが想いを寄せている人?


何を言っているの⁈イザベラは!


ルイーザは、イザベラの言っていることの意味が理解できず、怒りすら感じていた。



「あの、少し聞いてもいいですか?」


ベンチに座るルイーザに、声を掛ける少年が居た。

線が細く、大人しそうな、琥珀色の髪の少年だった。


「ここに行きたいんですけど、ここから遠いですか?」


少年は、一枚のメモを差し出し、ルイーザに尋ねた。

メモには、ここから北に2km程の所にある、小さな図書館の名前が書いてあった。


「歩いて行けますか?」


少年はもう一度聞いた。

まだ子供っぽさが残る、可愛らしい顔立ち。

サラサラの髪、すらりとしたスタイル。

この子は女の子にモテるだろうと、ルイーザは思った。

そして、ひらめく。

この少年と歩いているところをイザベラ達が見たなら、きっとくやしがるに違いない。

週に2回のジャックとの逢瀬おうせで、あれだけひがんでいたのだから、うらやましく思うに決まっている。

ここは彼女たちの生活圏内。

彼女たちの目に触れる可能性はかなり高い。

次のクラブ活動で、少年のことを自慢げに話す自分の姿を想像して、ルイーザは急に楽しくなった。


「いいわ。案内してあげる。」

「本当に?ありがとう!」


少年は笑顔でお礼を言った。


すぐそばの街路樹から、1羽のカラスが飛び立った。








「誰かに頼まれて来たの?」

「……はい。」

「お父さん?お母さん?」

「いいえ……」

「お友達?」

「……違います。」

「じゃあ、誰に頼まれてきたの?」

「えっ…と……兄…です。」

「お兄さん?お兄さん、お幾つ?」

「えーっと……3つ上…かな……」



図書館へ向かって歩き出した途端、ルイーザの質問攻めが始まった。

少年は、困ったように言葉を選びながら、少しずつ答えていく。

ルイーザは、その様子を、初めてあった人に緊張しているのだろうと思い、躊躇ためらいがちに話す少年に、姉のような気持ちを抱いた。


—————あんな妹じゃなくて、こんな弟が欲しかった。


途中、すれ違う人や出会う人が、1人もいないことが残念でならない。

こんなにも可愛いらしい少年を連れて歩いていたなら、絶対に羨望の眼差しを向けられていたに違いないと、ルイーザは思う。


「お姉さんは、あそこで何をしていたの?」


少年が聞いた。

ルイーザは「え?」と聞き返した後、言葉が出て来なかった。

今まであった楽しい気分が急に萎えていく。


「誰かを待っていたんだったら…、ぼく…案内してもらって良かったのかな…って…思ったから……」


少年の言葉を聞いた途端、えた気分が一気に盛り上がり、ルイーザの目は輝いた。


なんていい子なんでしょう‼


「そんなこと、心配しなくてもいいのよ。図書館はもうすぐだから———ね?」


それからは、ルイーザの一方的な話が続いた。

近所の犬の話や、雑誌に出ていたお菓子の話など、他愛のない話ばかりだったが、少年は嫌な顔を一度もせずに、ルイーザの話に付き合った。


「———それでね、駅前にマカロンの専門店があるんだけど、いつも行列が出来ていて、わたし、ずっと諦めていたの。でも、この間、どうしても買いたくて———1時間よ?わたし、1時間も並んで買ってしまったわ。」

「へぇー、すごいね。美味しかった?」

「ええ、それはそれは美味しかったわ———あっ、あそこの角を曲がるの。」


ルイーザは4~5m先にある小さな丁字路を指差した。

すると、2人を追い越すように、サッカーボールが目の前に転がり出て来て、後ろから、ボールを追いかけて来たらしい、男の子の声が聞こえた。


「待ってぇ―。お願い、そのボール拾ってぇー」


ルイーザが後ろを振り向くと、ぽっちゃりしたニキビ面の、お世辞にも可愛いとは言えない少年が走って来ていた。

内心、がっかりしたルイーザの隣では、琥珀色の髪の少年が、突然に走り出した。

転がるサッカーボールを追いかけ、丁字路に飛び出す。


「あぶない‼」


ルイーザは慌てて追いかけ、少年を止める為、自らも丁字路に飛び出した時、曲がり角から丁度現れた少女と激突した。


一瞬のことだった。

一瞬のことだったが、ルイーザは、その少女と目が合った。

目が合った次の瞬間にはぶつかっていて。

気付いたら、道路に倒れていた。


バタバタと人が走る音がする。

救急車のサイレンが聞こえる


あの男の子は無事?

怪我はしていない?


ルイーザの意識は遠くなった。







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