#15 ルイーザの好きな男の子
マレットスクール11年生。
ジャック・マルゴ。
16歳。
ルイーザ・ベトソンが今一番好きな男の子だ。
成績は中の上。
性格は明るくて、誠実。
友人は多く、教師にも信頼されている。
学校のサッカークラブに所属していて、地域のサッカークラブにも所属している。
そして、学習塾にも通っていた。
ルイーザが、初めてジャックと出会ったのは、駅から一番近いショッピングモールの中だった。
妹のエドナに新しい楽譜を買ってあげたい両親に連れられ、行きたくもない楽器屋に来ていた時だ。
自分の為のモノなど買ってもらえないと分かっていたので、少しも楽しくなかったルイーザは、楽器屋の向かい側にあるスポーツ用品店で、楽しそうにサッカーボールや靴を選んでいる兄弟を見ていた。
一緒にいる妹らしき小さな女の子も楽しそうだったし、傍で見守るように立っている両親らしき2人の男女も笑っていた。
ルイーザには、うらやましい光景だった。
ルイーザの両親はエドナに夢中で、ルイーザの存在など忘れてしまっている。
エドナは可愛いし、賢いし、ピアノの才能もあるから、両親はエドナばかりを大切にする。
このまま自分が消えてしまっても、気付かないまま家に帰るのではないかと、ルイーザは思った。
急に寂しくなり、泣いてしまいそうになった。
店の外に出ていようと思い、急いでドアへと向かう。
ルイーザがドアに着くのと、ドアが開いたのは、ほぼ同時で、楽しげな声と共に入店して来た客が居た。
ルイーザは、慌てて足を止めた。
体の向きを変え、ぶつからないようにしたつもりだったが、中に入って来たのは数人の家族で、ルイーザは、その中の1人と、肩がぶつかってしまった。
その相手がジャックだった。
「ごめん———っ‼」
ジャックは、ルイーザの肩が当たると、すぐに謝った。
そして、ルイーザが泣きそうな顔をしていたことに気付き、驚いた。
「大丈夫?どこか痛い?」
心配そうにルイーザの様子を窺うジャックは、誰の目から見ても、爽やかな少年だ。
ルイーザの目をまっすぐに見る、ジャックのような少年は、ルイーザの周りには居なかった。
「ジャック、どうした?」
「そちらのお嬢さんにぶつかってしまったの?」
ジャックの両親が様子に気付き、心配して戻って来た。
自分が泣きそうだったことと、ジャックは全く関係ないので、ルイーザは慌てた。
「いえ、大丈夫です…。本当に大丈夫ですから………」
「ルイーザ?何をしているの?」
ようやくルイーザの母・グリッティが、様子に気付いて遣って来た。
しかし、ルイーザの心配はしていなかった。
「ごめんなさいね。この子が迷惑をかけてしまって。ぼうーっとしていたんでしょ?仕様がない子ね。早くこっちへいらっしゃい。」
ルイーザを恥ずかしい子だと言わんばかりに叱咤し、腕を掴んで連れて行く。
その時、ジャックだけではなく、ジャックの家族は皆、ルイーザを気の毒そうに見ていたのだが、ちらりと振り向いたルイーザの目には、ジャックだけが自分のことを心配してくれているように見えていた。
なんて優しい人なんだろう。
なんて素敵な人なんだろう。
彼なら、わたしを救ってくれる。
きっと、わたしを守ってくれる。
彼は、私の運命の人に違いない‼
これが、まだ『ジャック』という名前だけしか知らないルイーザの恋の始まりで、この日から、ルイーザの『ジャック』探しは始まった。
まず、最初に始めたことは、ニコラス学園の『ジャック』探し。
各学年の『ジャック』を、片っ端から確認していく。
ニコラス学園に居ないと分かると、付近の学校を次々と探した。
マレットスクールの『ジャック』だと分かったのは、出会ってから半年以上も経った3月の終わり。
住んでいる家の場所は分からないし、男子校では会いに行くことは憚れて、ルイーザの恋心は少しも満たされはしなかったが、通っている塾が駅の傍だと知ってからは、週に2回の逢瀬だけが、ルイーザの楽しみになった。
直接会話を交わすわけではない。
一緒に並んで歩くわけでもない。
それでも、ルイーザは幸せだった。




